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スーツと笑顔と涙と


※少し暗いお話になりますので苦手な方はご遠慮ください。



新年度が始まって、新社会人の子を
毎朝見かけるようになりました。


慣れないであろうスーツを着て、
ネクタイを毎朝締めて。
パンプスを履いて、
髪は綺麗にひとつにまとめて。


そんな彼らを見ると
わたしにもこんな時があったなあって懐かしくなると同時に
生涯忘れられないだろう、あることを思い出します。


社会人1年目のことでした。
わたしは無事に都内にあるとある大企業のグループ会社に就職をして、
初々しく毎日会社に通っていました。

同期は全部で9人。
男女比はちょうど半分。
人数が多すぎなかったことや、毎日同じ部屋で1日中
研修を受けていたこともあり
ありえないほど仲良しでした。

当時の新人担当だった人事に言わせると
「仲が良すぎて気持ち悪い」
「まるで幼稚園」
「たんぽぽ組かと思った」
ということでした。


それさえも私たちは褒め言葉だと捉えてしまうほど
一緒にいるのが楽しくて仕方がありませんでした。

辛いはずの研修も、毎日笑顔で終えられていたのは
みんなのおかげだったと思います。

ただ一度、研修合宿で1泊したとき課題が難しすぎて
終えたときには全員顔が死んでいたことを除いては。


金曜日は退社したあと
スーツのまま全員で新宿に繰り出して
華金だと言いながらお酒をたらふく飲んで
カラオケオールがお決まりでした。

研修期間が終わり、それぞれが現場に配属されても
頻繁に会っては軽く飲んで帰ったり
休みにはディズニーに行ったりお花見をしたり。
本当に気持ち悪いレベルで仲良しでした。


同期の中でもみんなのまとめ役のような
所謂黙ってても人が集まってくる男の子がいました。
とても人懐っこい男の子です。

上司からも可愛がられていました。

みんなが彼のことを好いていたし、
彼自身も楽しんでいた様に見えました。



その彼が、急に生きることをやめました。


月曜の朝、いつものように出社すると
様子を見にきたと人事がいました。

わたしは人事と仕事はどうとか、
みんなは元気かとか話していました。


そこで突然、1週間前に彼がいなくなったことを聞かされました。
自分で、生きることをやめたと。

人生で1番ショックだったかもしれません。
しばらく何も考えられなかった。
何も考えられないのに、涙だけは止まらなくて
その場でぼろぼろ泣きました。

1時間くらいでしょうか、涙が止まりませんでした。
人事は黙って隣にいてくれました。
彼女も泣いていました。


落ち着いてから、彼女は帰っていき
わたしも仕事をしなければなりませんでした。

でも心では泣きやみたくても、枯れることなく涙は流れて
その日1日、ずっとぼろぼろと涙をこぼしながら
デスクに向かっていました。

泣きすぎて声も出ず、頭は痛み
初めてタクシーで家まで帰りました。


2日かけて、同期全員にその事実が知らされました。

金曜の夜、集まれる人だけで会おうということになり
集まりました。


お互いに顔を見た瞬間みんなぼろぼろ泣き出して
東京駅の居酒屋でお酒を飲みながら
わんわん泣きました。


彼がいた頃のことなんてまるで写真を見ているかの様に
鮮明に思い出せるし
声とか仕草とかだって、まだそばにあると思っていました。

ご両親の意思で、会社も詳しいことは知らないようでした。
何も知れないのだから、彼に対して何もできないまま
今日まで私たちは生きてきました。


私たちは楽しみすぎたのでしょうか。

でももしそうだとしても、
最後に楽しいと思える瞬間を彼が過ごせていたのなら
楽しみすぎてよかったと思います。

彼が終止符を打つ前日、
私たち同期はいつも通り集まっていました。

しかも前日に、彼からの緊急招集で。

最期に私たちと過ごすことを望んでくれていたのなら
それほど嬉しいことはありません。


次会えたら、またみんなであそぼーね!

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