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日本の美の再発見! 角川ソフィア文庫発『ジャパノロジー・コレクション』

最近では日本の文化を「クールジャパン」と呼び、外国人のファンを増やし日本のブランド力を高めようとする戦略があるらしい。パッと思いつくのは「アニメ」や「マンガ」だ。

文化について考えるとき、意外と私は日本の文化を知らないのではないか?との考えにいつも思い至る。そう考えるとこの「クールジャパン」という戦略は日本の文化を再発見する良い機会なのかもしれない。

急激な欧米化が進み、その過程で忘れられた、あるいは捨てられた日本文化。そんなものも多くあるに違いない。この「ジャパノロジー・コレクション」というシリーズは日本の「和」と「美」を再発見させてくれる本だ。とにかく綺麗な本なのでぜひ手に取って読んでみて欲しい。


刀―KATANA―

日本刀の写真とともに、解説が載っているのがこの本だ。古くは聖徳太子の佩刀とされる「丙子椒林剣」から大坂正宗とも称された「井上真改」までメジャーどころからマイナーな刀まで色々と載っている。特に刃文の美しさに注目したい。

だが刀の種類が豊富に載っているわけではない。またジャパノロジー・コレクションの中では解説が少ない方なので、専門知識とまではいかないが、入門的な知識が事前にないと苦労するかもしれない(私は苦労した)。

日本刀は「美」の象徴でもあると同時に日本人の「精神」の象徴でもあったはずだ。武士のような生き様が素晴らしい、と手放しに賛同はし難いがこの日本刀が象徴するようなものは是非とも自分の中に持っておきたい。

また自分ではそう思っていないのに、気がついたら刀に手が伸びていた、そして何か斬って見たくなった、という話を聞いたことがある。この本を読みながら写真を眺めていると、確かにそんな「怪しい美」が日本刀にはあるように思える。私は日本刀にまつわる様々な逸話も個性的なものが多く好きだ。歌仙兼定とか。あなたはどんな日本刀がお好きですか?

盆栽―BONSAI―

爺臭い。そう思ってはいないだろうか?
盆栽=年配の方 というイメージを植え付けたのはいったいどこのどいつなんだろうか。国民的アニメのあの人だろうか。今ではもうほとんど町中では見なくなったと言っていい盆栽。昔はそれこそ塀や家の前に盆栽が置かれていたことが多かったようだ。

しかしそんなイメージも本書を読めばたちどころに吹き飛ぶ。「自然美」と「人工美」を融合させたものが「盆栽」なのではないだろうか。

まずは見て楽しむ。本書にも様々な盆栽が載っているが、盆栽それぞれに違った形や色があり、見ていて飽きない。盆栽の形は当然人の手が入っているが、それが同じ盆栽であっても育てる人物が違ったり、手入れを怠ると形が変わってくる。

だが見て楽しむだけでは十分ではないことが本書を読めばわかる。実際に自身の手で盆栽を作り、育てて楽しむ。これが重要なのだ。筆者の依田氏も言っているが、日本人が楽しまずに海外に普及させて何が日本文化だろうか。クールジャパン大いに結構。しかしその前に我々自身が楽しむこと。それが一番重要なのではないだろうか。英語を話せても中身がなければ話せないのと同じことである。

ちなみに最近「ミニ盆栽」なるものが密かなブームらしい。画像を見ると確かに可愛らしいものが多く、値段も手ごろだ。この機会に盆栽にチャレンジしてみてはいかがだろうか?

和菓子―WAGASHI―

和菓子といえばあんこ。あんこといえば和菓子。だがそれだけが和菓子ではないのである。洋菓子が入ってきてからは目に見えてその勢いに押されている和菓子。そもそもあんこが苦手だと言う人が私の周りには多い気がする。あのベタッとした甘さが苦手らしいのだ。

しかしながら本書ではあんはあんでも様々なものがあることをしっかり説明してくれている。美味しいあんは口溶けが良く、粘り気があるように見えてもスッとなくなる。さらに求肥や葛などの爽やかな食材や、それらの組み合わせで目にも鮮やかな和菓子が生まれることも書かれている。

「和菓子は五感の芸術である」とは虎屋十六代目当主・黒川光朝氏の言葉だ。和菓子にはそれぞれの時季にしかでない菓子がある。その菓子が店頭に並ぶことで、季節がやってきたことを感じ取る。その和菓子を食べながら風景を楽しむ。そんな休日もたまにはいいかもしれない。

金魚―KINGYO―

今回の本の中で一番おすすめしたいのがこの「金魚」である。
私は定番の和金や出目金、らんちゅうぐらいしか知らなかったが、この本では様々な金魚に出会える。読んでいてすぐこの本の虜になってしまった。なんてたって金魚がとても可愛い!愛くるしい!

縁日で見るような金魚しか知らなかったのだが、意外にも金魚の種類は多い。中国から入ってきた物らしいが、外の文化や技術を日本流にアレンジするのは昔から得意とするところだったようだ。

本書に出てくる金魚たちは皆違った表情をしていてとても美しい。らんちゅうや江戸錦に東錦……。本当に見ているだけで癒やされる。さらに良いところはその解説の丁寧さだ。事前知識なしでも楽しく読める。また、頂点眼という金魚には衝撃を受けた。こんな金魚がいるとは驚きである。その顔を見ていると日常の嫌なことを忘れさせてくれるようだ。

妖怪―YOKAI―

小松和彦氏監修というだけで即買いしてしまった本。
本書は特に「見て楽しむ」ということに重点を置かれている。確かに解説も面白いがやはりメインは妖怪たちが描かれている絵図だろう。内容も妖怪初心者向けで、それこそ小学生が読んでも楽しめる出来になっている。また、この本を読んで「妖怪と幽霊はどう違うのか?」と疑問に思った方は小松氏の著書「妖怪学新考」や「日本妖怪異聞録」がおすすめだ。

日本人が、いや近代人が、妖怪というものを信じなくなって久しい。しかし、信じなくなったといっても「妖怪達」は我々日本人のすぐそばにいる気がするのだ。でなければとっくに妖怪の話題なんぞないはずだし、「妖怪ブーム」なんてものも起きていないはずだ。なぜそれほどまで「妖怪」は老若男女・老い若いを問わず私たちの気を惹くのだろうか?それは本書を読めばきっとわかるはずだ。本書には様々な絵図が載っているが、個人的には屁をして相手を退治する図や、異種合戦の様子が印象に残った。

このシリーズは全部で11冊あるそうだ。他にも面白そうなものがたくさんあったので自分のお気に入りの本を探してみてはいかがだろうか。

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