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#27 妹のマフラー

児童館でのアルバイトが一段落しました。

明日からは児童館に来ないでお家で過ごすんだろうな、楽しく、暖かく過ごせるといいな、と思って家路につきました。


児童館は朝の集会があります。館長先生からお話をいただくのですが、今朝のお話は「正月の準備が着々と進んでいるでしょう 」というもの。

「ここにきている皆さんの親御さんは、もしかしたら年末年始やお正月の間もお仕事がある人がいるかもしれませんね。そういった人たちのお陰で生活が便利になっている、ということもあります。皆さんは少し寂しいかもしれないけれど、感謝しなくてはならないね…」

館長先生がそんな話をしている時、ふっと横に目をやると、目からぽろぽろ涙が流れている女の子がひとり。


集会が終わっても、その涙は流れ続け、でもあんまり静かに泣いているものだから、他の先生にも気が付かれず、気になって話を聞くことに。話しを聞くと、友達に嫌なことをされたとか、先生に怒られたとかで泣いているわけではないという。でも本当の理由は言わずにしくしく。

結局、午前中は私の隣にぴったりと張り付いたまま動かず、時折腕をつかんで顔をうずめる、という感じに。


お昼休憩のタイミングでその子と離れて、

「さみしくなってしまったんだな」

と気持ちが想像できた。

その子がどんな家庭環境で、どのような愛情のかけ方をしてもらっているかはわからない。けれども、少なくとも人より寂しい思いをたくさんして、普段はそれを「当たり前」と受け止めて生きてきたのだと思う。もしかしたら、今朝はその館長先生のお話で、自分の気持ちのありかに気付いてしまったのかもしれない。その時近くにいた私をそばに置いておくことで、少しは自分を安心させて慰めておきたかったのだろう。まあ、到底私の存在だけでは、そんな寂しさを埋めるには随分と足りなかったと思うのだけれど。


その子は前から妹にあげるというマフラーを編んでいた(児童館では男女を問わず、編み物が大流行中していた)今日の夕方は「最後の仕上げ」と言って、編み目が荒くなってしまったところの手直しを丹念にしていた。

「隙間があるとね、寒いでしょう。カゼひかないようにね、ちゃんとチェックしてるの。」

そういって作業に没頭する彼女は、午前中は私に張り付いて涙を流していた子なのである。午前中とは比べ物にならないしっかりとした顔つきで、毛糸をいじっている。家に帰っても、この子はおそらくお母さんを占領できない。妹の面倒も見ているのかもしれない。

それでも、この子の視線は妹に向いている。さみしい思いをしまって、妹のためのマフラーを編んでいる。小さな手で丹念な仕事をしている。


そんな姿の子どもが、本当はたくさんいるんだろうな、と思う。

どれだけの子どもの、そういった思いが報われているのかな、と思う。


マフラー、喜んでもらえているかな。きっと喜んでもらえているよね。

お母さんに褒めてもらえるといいね。