なぜNEJMを含む医学誌の”断食”、”絶食”、”ファスティング”に関する総説がダメなのかという話(intermittent fasting, 間欠的ファスティング)
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なぜNEJMを含む医学誌の”断食”、”絶食”、”ファスティング”に関する総説がダメなのかという話(intermittent fasting, 間欠的ファスティング)

改訂1)ちょっと目次が上に来るように構成変えました。あと"てにをは"なども改善。(10:11 pm in UK, on 15 Apr 2021)

続きともいえる内容を更新しました(5月4日)。ここで紹介する論文を引用した際の情報発信の一例についてです。

先日、下に表示してあるようにTwitterで発言しました。New England Journal of Medicine(NEJM)は医学界でトップの学術誌です。それに掲載された論文は読むべき論文ではないと否定的な姿勢を見せながら、説明しないのも無粋だなともやもやしていたのでここにその考えの一部を記したいと思います。またそこには栄養学ならではの難しさ、さらに巷でも話題の「ダイエット」にも関与するので有益になるのかなという考えも。参考になれば幸いです(註1)。

NEJMの総説の問題点

ここで述べているNEJMの論文とはde CaboらによるIntermittent Fasting(間欠的ファスティング、断続的な絶食)に関する総説論文です(2019年2月)。以下、同"ダイエット"については“絶食”と表現します。

この論文の第一印象を一言でいうと「酷い」です。その酷さの根は栄養学研究の基本でありながら困難な点がそっくり抜けているところにあります。
その例としてP2546にある次の文をあげたいと思います。

Intermittent fasting improves multiple indicators of cardiovascular health in animals and humans, including blood pressure; resting heart rate; levels of high-density and low-density lipoprotein (HDL and LDL) cholesterol, triglycerides, glucose, and insulin; and insulin resistance..41,43,47,55

簡単に意訳すると、「間欠的ファスティングは動物でもヒトでも血圧…略…などの指標を改善する」となります。こうした断定的な文言で、絶食の医学的な効果が少なくとも生理学的に期待されることを著者は述べています。

しかし、この文章で引用されている4つの参考文献(41,43,47,55)では、絶食の効果について的確な検証を紹介しているものはありません。具体的には次の通りです。

文献41(Wan et al., J Nutr. 2003):
ラットの研究で、絶食群と食べたいだけ食べる群とを比較した。絶食群は30%、食事の摂取量が低かった。
文献43(Fontana et al., PNAS, 2004):
18人にエネルギー摂取制限を、18人に通常食を続けるように依頼した米国での非ランダム化介入研究。絶食の要素は無し。
文献47(Most et al., Am J Physiol Endocrinol Metab, 2018):
規模は異なるが#43と同じくエネルギー摂取制限食と通常食とを比較した研究。
文献55(Lefevre et al., Atherosclerosis, 2009):
エネルギー制限食群とエネルギー制限食+運動の介入群との比較。絶食の要素はなくさらに食事の効果を測る研究でもない。

このように、絶食の効果があるとうたいながら、引用した論文たちにはその効果を示したものはありません。この誤った引用はほんの一例であり、この総説では残念ながら絶食の効果と通常のエネルギー摂取制限との効果などが混同された論考となっています。

これが医学界における「系統的」ではない栄養学系の総説です。栄養学のヒト研究の難しさを示していると私は考えています。栄養学系で勉強・研究している皆さんは、トップの医学誌においても欠陥があることを当然として、有名か否かに惑わされず、よく言われるように「批判的に」論文を読むよう、自信をもってもらえたらと思っています。

絶食に関する研究・エビデンスで注意したいこと

さて、では絶食の研究とはどうあるべきでしょうか?

仮説として相応しいのは「コンスタントに食事したときと比べ、絶食はアウトカムYによい効果を与える。」となります。重要なポイントとして、この仮説の検証では群間でエネルギー摂取量が一緒(isocaloric)でなくてはならないことがあげられます。

というのは「絶食」を行う群でエネルギー摂取量が他の群より少なければ、エネルギー摂取量を減らした効果なのか、絶食の効果なのか判断できないからです。

たとえば、次の2群AとBの比較を体重100キロ以上の成人に研究に参加してもらって行ったとします。

A.一日のエネルギー摂取量が1000kcalで絶食した(たとえば朝食と夕食のみ)
B.一日のエネルギー摂取量が2000kcalで3食食べた(朝・昼・晩)

皆が介入に従ったとして、A群ではより多くの人が減量に成功したとします。それって「よかったね」と言えますが、栄養学的にはあまり意味がありません。けっきょく、エネルギー摂取(”カロリー”)の問題なんじゃない?となるので。実施すべきは次のような比較です。

A’.一日のエネルギー摂取量が1500kcalで絶食した(たとえば朝食と夕食のみ)
B’.一日のエネルギー摂取量が1500kcalで3食食べた(朝・昼・晩)

こうした介入を行った研究デザインを念頭に絶食に関する効果を検証する必要があります。

そうした介入研究の例がTrepanowskiらの研究や冒頭のTweetで紹介したLoweらの研究です。それらの詳細はここでは述べませんが、エネルギー摂取量を同等にした比較(isocaloricな比較)を行った結果、「絶食」の効果を特に示すには至りませんでした。また上記に示した循環器系疾患の危険因子(血圧など)について、コックランレビューでは絶食による効果についてポジティブな結論には至っていません(Allaf et al., Cochrane Database Syst Rev, 2021)。

ということで、「絶食」の効果をうたっているにしても実際の研究の内約に注意する必要があるということです。

研究論文の解釈はわりと難しい

上記の例から推察できるように、「絶食の効果を検証する」という一つの仮説を考えても多種多様な研究デザインを描くことができます。一般的に薬などの介入効果を検証するのにも、研究の期間、対象者(人種、既往歴、年齢など)、介入の程度、遵守度をどう守るか、アウトカムを何にするかなどに注意します。そうした事柄に加えて栄養学的に、食事を提供するか否か、食事指導のみにするのか、栄養素の組成や食事の内容をどうするか、エネルギー摂取量を揃えるかというような事柄を考ていきます。

そのように多種多様なデザインが考えられる状況で、検証の対象となっている仮説にきちっと対応したデザインが採られているのか判断しなくてはならなりません。そうした視点で英語の論文を解釈し厳しく批判的に読みましょうということですね。医学界で有名な学術誌であればあるほど、栄養学者が台頭していない、あるいは査読者に栄養学者がいない可能性も強い、その割りに話題になってしまうので、よりシビアになる必要があると私は考えています。

ただ、上に記した批判のポイント(エネルギー摂取量の違い)って考えてみれば当たり前の事柄ではないでしょうか。

私を含め栄養学を修学した人たちは前述のような多彩な研究デザインを考えられるような素養、基礎知識や経験を教育課程で経て、獲得できているものと思います。そうした基礎事項を論文の読解でも気に留めていれば批判的に読むというのもハードルの高いものではないと思います。

論文の読解に苦心する若い方などは(日本人に限らず)そういった余裕が持てていないのかなという印象です。栄養学者としての財産を武器に、世界最高峰と言われる学術誌の論文も含めて、どんな論文でも批判的になってもらえれば幸いです。

逆にそういった「批判的に読む」視点を欠いて、
・有名な学術誌だから
・今、流行っているから
・有名人もやっているから
といって前向きに解釈してしまうのはエセ科学を支持する姿勢と変わりません。エビデンスを強調する医療従事者でもこのような姿勢の方もおいでです。気をつけたいですね。

けっきょく絶食ってどうなの?

今のところ、上述のエネルギー摂取量の違いにまで注意してA’とB’との比較を考えたとき、絶食がまさに他の介入より勝るという強いエビデンスはないと私は認識しています。複数の総説も目を通しましたが、NEJMの総説が露呈する問題を抱えているものが多いので要注意です。

抵炭水化物ダイエットと低脂肪ダイエットと同じようにエネルギー摂取量を減らせば同様の減量効果が見込めるというような話と似ているというところでしょうか。

ただ、「エネルギー摂取量を減らして減量を頑張りましょう」という指導のもと、「絶食」のアプローチがご自身・クライアントに合えば実践するのに反対する強いエビデンスもありません。けっきょく絶食するとなると、「食べない」というわかり易さの魅力も考えられますし、なるべく空腹感に苦しまないように腹持ちのよい食物繊維豊富な食品を選んだりという事柄も付随していくと思います。

本当に科学的に「絶食」の良さというと判断し難いですね。そんな細かいことはどうでもいい人にとっては減量を考えるきっかけとしての選択肢として捉えるのは良いように思います。

体重が減っているのは体脂肪を減らしているのか、水分、筋肉や骨などを犠牲にしているのか注意すること、そしてリバウンドしないようにコントロールする必要は他の減量と同様でしょう。そういった点を踏まえてアプローチの選択肢として「絶食」はあってもよいと・・英国、米国の栄養学界も同様のスタンスを表明していたと記憶しています(要引用文献・・また後日、紹介できたら?)。サプリメントと同じように専門家の指導を仰ぎ注意点を把握しましょうというところでしょうか。

このNoteを書いた数日前にイスラム圏の人たちはラマダン(絶食)に従事しはじめました。ラマダンと体重等の研究も多くありますが、ラマダンは特に健康によい!というエビデンスは無いと理解しています(例:Fernando et al., Nutrients, 2019)。さらに現在、イスラム圏の国々は肥満等の問題を多く抱えていますね。断食の話はそういった宗教とも関係するトピックで興味深いです。これからも目の離せないトピックですが、一般向けにあたかも第一線で推奨できるアプローチと仄めかす内容には注意しましょう。

トップの画像は https://fitseven.ru/pohudenie/diety/golodanie-16-8 より

註1)ここで紹介した内容の一部は、「栄養学若手研究者の集い」に去年(2020年)、紹介させて頂きました。

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@nutrepi 栄養疫学者@ケンブリッジ大学(疫学) ←ハーバード大学公衆衛生大学院リサーチフェロー(疫学) ←タフツ大学博士課程(栄養疫学) ←コロンビア大学修士課程(栄養学) ←上智大学学士(理工系化学)