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The Beatles 全曲解説 Vol.21 〜It Won’t Be Long

今回から、セカンドアルバム『With The Beatles』収録曲の解説に移ります!
引き続き、「楽しく面白く」をモットーに書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!

アルバム『With The Beatles』について

アルバム『With The Beatles』は、1963年11月22日にイギリスで発売されました。
奇しくもその日は、アメリカのケネディ大統領の暗殺のニュースが、宇宙中継を通じて世界に駆け巡った日
世界が目紛しく移り変わる渦にあった最中に発売されたアルバムでもありました。

前作『Please Please Me』に引き続き、ライブでの演奏を念頭に置き、彼らが慣れ親しんだカバー曲やオリジナルの自信作を中心とした構成になっています。
(内訳は、カバー6曲、レノン=マッカートニー7曲、ハリスン1曲)
前作よりもヘヴィな音像に聴こえるのは、リンゴ加入から時間が経ち、演奏が馴染んできたからでしょうか。

発売当初、29週連続で1位を独走していた『Please Please Me』にとって代わったのがこのアルバムで、イギリスでは21週に渡って1位を独占します。
合計して50週、つまりほぼ1年通してビートルズのアルバムが1位という、化け物じみた記録をぶち上げることになるんですね

ビートルズのお姉さん・Astrid Kirchherr (1938-2020) の話

このアルバムで特徴的なジャケットは、「ハーフ・シャドウ」と呼ばれるもので、強い光を当てて影を描き出す手法で撮影されました。

この手法は、アストリット・キルヒヘアという女性写真家がよく使用していたものだそうです。
ドイツ出身の彼女は、ハンブルグに武者修行に来ていた、まだデビュー前のビートルズにお客さんとして出会い、その後下積み時代のビートルズの貴重な写真を多く残すこととなります

こちらの記事でご紹介した、5人編成時代のビートルズの写真も彼女によるものです。
彼女は、ハードなスケジュールで演奏をこなし、偏食がちだったメンバーに食事を差し入れるなど、ビートルズのお姉さん的存在として、彼らの心の拠り所となっていきます。

ちなみに、リーゼントスタイルだった彼らの前髪を下ろし、あのマッシュルームカットの原型を作ったのも、実はアストリットなのです!

この髪型は、当時のインテリ学生たちの流行を取り入れたものだったそうです。
不良のビートルズに、違った世界のスタイルを受け入れる楽しさを教えたのも、彼女だったんですね。
(下の写真にも、ハーフ・シャドウが用いられています)

美術学校を出ているジョンとスチュアート・サトクリフとは、センスが合ったのか意気投合し、特にスチュアートとは恋仲にまで発展します
ビートルズがイギリス帰国後もスチュアートはドイツに残り、彼女と婚約もしたそうです。

その後、既にお伝えした通り、スチュアートはあまりにも早い死を遂げます。
このことは親友だったジョンと同じく、アストリットの人生にも影を落とすこととなります。
詳しくは、こちらの伝記を読んでみてください。

ビートルズ関連書籍の中でも、一、二を争う名著だと思っています。
特に音楽、ファッション、写真好きの女性陣にオススメしたい。感涙必至です。

メンバーにも評論筋にも過小評価された「超横綱級のド名曲」 “It Won’t Be Long”

さて、そんなデビュー前の残り香も漂う本作の1曲目がこちら。
前奏なしの「It Won’t Be Long Yeah!!」というシャウトに、リスナーはあっという間に気付いたはずです。
「間違いなく前作を超えたエネルギーだ」

ビートルズのアルバムは、基本的にどの作品も1曲目のイントロの数秒で、全てを持っていくぐらいのエネルギーを持っています。
この曲はそれを改めて思い知らせてくれます。
聴けば最後、リスナーは立ち合いの強烈なぶちかましと突っ張りと共に土俵外へぶっ飛ばされてしまうでしょう。

もともとはシングル曲向けに作られたのが却下されアルバムに…というのがこの曲の成り立ちだそうですが、私見ではこの曲は “She Loves You” にも匹敵する化け物級の名曲です。

ジョンの元々のボーカルのエネルギーに加えて、ダブルトラック(同一ボーカルの重ね合わせ)になっていることで、そのパワーが何倍にも増幅されて聴こえます。
“She Loves You” で披露した「Yeah!」の掛け合いももうお手の物。ジョン→ポール&ジョージと交代で重ね合うように歌っていることで、高揚感が高まっていきます。

「♪Since You Left Me〜」と始まるパートでは、ポールとジョージが「♪You〜 Left Me〜」と、メロディの違う難しい追っかけコーラスを披露していますね。
さらっとやってのける3人のチームワークがなんともニクイです。

そんなパワフルな名曲なのですが、メンバーからはなぜか過小評価されていて、公式から出ている音源では、今のところライブバージョンを聴くことはできません。
また、ライブで一度も取り上げられなかった?という話もあります。

当時はビートルズのイメージを決定づける曲が多く出ていたので、もしかすると実際の質以上に拙く聴こえたのかもしれません。
もったいない!と思うと同時に、ビートルズの創造性の視座の高さに驚かされます。

#音楽 #音楽コラム #エッセイ #ビートルズ #全曲解説 #スキしてみて

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