My Silly (Lost) Love Song
実は最近、ちょっとした失恋を経験した。
一緒にいる時間はたとえて言うなら、子供にとっての遠足が数万倍楽しくなったような、そんな気持ちを抱かせてくれる人だった。
俺にもまだこんな人間くさい気持ちが残ってたんだな、と思わされた。
ただ、彼女は老若男女誰からも愛される人気者だった。
そんな人にとっての一番になるのは途方もないことだなとはわかっていた。
でも、人間の気持ちが一番コントロールが効かなくなるのって、やっぱりこういう時じゃないか。しょうがないもん。
わずかな望みだけを頼りにしていたが、この上なく優しく袖にされてしまった。
俺の望んだ関係は相手の望むそれとは違うという、シンプルな話だった。
もう会うこともない相手なので、それ以上の本心を知る手立ては無い。
人並みに恋愛はしてきたとはいえ、ここまでの「完敗」は久しぶりだった。
そんなわけで、スマホやレコードでも最近は「失恋ソング」を引っ張ることが増えてきた。
そんな俺にとっての、ほろ苦い記憶を呼び覚ましてくるようなプレイリストを一部公開。
ベタな曲が多いが、ラブソングに限っていえば人気度と完成度は比例するとも思うので、こんな感じでいいっしょということで。
I Still Love H.E.R. feat. Kanye West / TERIYAKI BOYZ
この曲が出たのはちょうど中学校の頃だったはずだ。
まさに中二病真っ盛り、一丁前に恋愛したいと感じ始める時期だ。
そんな時に聴き込んだ失恋ソングというのは、本当に後々の人生まで引きずるもんなんだなと、今になるとしみじみ思う。
とにかく、AMラジオから流れているようなノスタルジックな、過ぎ去った恋を切なく振り返っているかのようなビートに心を奪われた。
サンプリング元になっているのは、フィリーソウルバンド・MFSBの「Dance With Me Tonight」。
ヒップホップなら、打ち込みやトラップビートよりも、こういった往年の名曲をフル活用した温故知新スタイルがやっぱり好きだ。
まだ色々アレな状態になる前のカニエをフィーチャーしたということもあって、話題になったのを覚えている。
恋に敗れて未練たらたらな、少しダサい男をスマートに明るく励ましてくれるような、そんな一曲だ。
しらけちまうぜ / 小坂忠
日本最初にして最高のR&Bアルバムとして名高い、小坂忠「ほうろう」のアンセム的一曲。
小沢健二をはじめ、多数のアーティストにカバーされていることでも知られる。
季節で言うなら、秋が深まって冬に入るあたりのタイミングが似合うのかもしれない。
大貫妙子、吉田美奈子と矢野顕子による値千金のコーラスが涼しげな風のよう。
こんなにあっさりと、未練を残さず、とはいえ少し物悲しさも感じさせるような、最高の別れの歌。
俺もこんな大人になりたい…!
Lonely Road / Paul McCartney
「Yesterday」を作った人間と同一人物の作品とは思えないほど、この上なく狂気じみていて不穏な失恋ソング。
出だしの2拍子のベースから、妖しく歪むリードギター、何よりビートルズ現役期を思わせるポールのシャウト。
ポールでなければ客もドン引きのハードロックナンバーだ。
初めて聴いたのは小学生の頃、ライブ盤でのもの。
新曲として出たばかりの時期だったからか、ポール本人もバックバンドも気合いの入れようが一味違ったように感じた。
わかりやすい言葉使いの一方で複雑な心情を思い切り歌い上げる、ポールの力量が遺憾無く発揮された一曲でもある。
ちなみにMVの最後では、女性がポールのトレードマークであるヘフナーベースを叩き割るという、なかなかにショッキングなシーンがある。
熱心なファンだったら「やめろおおお!」と泣き出してしまうようなカットだ。
What A Broken Heart Can Do / 間宮貴子
現在80年代の邦楽好きであれば誰もが知る、間宮貴子の唯一のアルバム『LOVE TRIP』のラストを飾る一曲。
タイトル曲の「LOVE TRIP」と同じトラックを用いて、別の作詞家が詞を付けた作品だ。
今俺が所持しているレコードの中では、この一枚が間違いなく一番のお気に入りである。
煌びやかでおしゃれで、それでいて間宮貴子のどこか淡々としたボーカルスタイルから、肩の力を抜いて楽しめるアルバムでもある。
このたった一作で表舞台から姿を消した彼女。
ただ、その「たった一作」の価値と輝きはあまりにも鮮烈すぎる。
正夢 / スピッツ
動画のコメント欄でもSNSでもそうだが、いわゆる「音楽好き」の間でのスピッツの人気ぶりにはいまだに驚かされる。
俺自身はそこまで熱心なリスナーではないのだが、それでもこの曲の胸を抉ってくるような切実さには、10代の俺も完全にやられてしまった。
人を愛し愛されることを最初に覚え始める時期、よく分からない感情に振り回されることも増えていた俺に、しっかりこの曲は刺さった。
この曲を単に「失恋ソング」と片づけるのは、もしかすると失礼なのかもしれない。
それだけ、数多の人間の「愛する人」への想いがこの曲には託されている。
引用した詞の最初の一行は、草野マサムネ自身が敬愛するKANのあの名曲へのオマージュだが、彼が亡くなった今、そのバトンを受け継いだ曲はまさにこの「正夢」なのかもしれない。
Bachelor Girl / 大滝詠一
最後は、今の俺の気分がピッタリ言い当てられているような気がするこの曲。
稲垣潤一のバージョンが最も有名かもしれないが、最近再発盤も出た大滝バージョンの方が俺はお気に入りだ。
収録アルバムの『EACH TIME』は、超弩級のど名盤『A LONG VACATION』と比較されることも多い作品だが、「ロンバケ」が初めて聴いた瞬間から耳を一撃で撃ち抜いてくるのに比べ、こちらは聴けば聴くほど味わい深く心に寄り添ってくれるような作風だ(と、勝手に思っている)。
歌詞を引用しといてなんだが、一番の聞きどころは間奏のシンセのソロだと思う。
古臭く、でも高らかに響くそれは、まるで50年代のモノクロ映画のようで、大滝が愛した古き良きアメリカのポップカルチャー、そのままの案内人だ。
そして俺は毎回泣きそうになる。
そんなわけで、我が心の失恋ソングの紹介は以上。
みんな、時には音楽に励まされながら、強く生きようぜ!
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