The Beatles 全曲解説 Vol.22 〜All I’ve Got To Do
素朴なR&Bの裏に隠された仕掛け “All I’ve Got To Do”
『With The Beatles』の2曲目。
主にジョンが作詞作曲を手がけ、リードボーカルもジョンが勤めます。
全編通して、比較的ビートの重たいR&B色の強い作品です。
それもそのはず、この曲はジョンがファーストアルバム期より参考にしている、スモーキー・ロビンソンのスタイルを目指した曲だからです。
この曲で特に参考にされているのは、こちらの曲。
寂しげなイントロや、ドラマチックにコーラスを重ねて行く様子がよく似ています。
その印象的なイントロ。
「Eaug add9 add11」という、非常に珍しいコードで表現されているそうです。
※ギターを弾けるので再現してみたい!という方は、出典を参照してみてください。
おそらく、ジョンかジョージの誰かが遊びながら編み出したコードなのかも?
(出典:川瀬泰雄著『真実のビートルズサウンド 完全版』リットーミュージック)
「♪ッジャ、ッジャッジャ」と裏拍を刻むリズムギターにも、ロビンソンを始めとしたアメリカンなR&Bの影響が見て取れます。
ギターが活躍すれば、ポールの弾くベースだって負けていません。
当時はまだエレキベースが発明されてから歴史も浅く、これという弾き方は確立されていませんでした。
どちらかというとリズムのサポート役という地味な立ち位置の楽器だったそうです。
楽器初心者だったスチュアート・サトクリフがベース担当だったのも、おそらくそんな理由からだったのではと想像できます。
ところが、当時から既にマルチプレイヤーのポール。そんな単調な立ち位置は、自分の創造性のプライドに懸けて許しちゃおけん訳です。
そこでポールはこの曲で初めて、ベースの和音弾きに挑戦するのです。
それが見事に、儚げなR&Bを力強いロックに昇華しています。
冒頭でビートが重たいと表現しましたが、その裏にはポールの探究心の萌芽が見てとれるということです。
ベースをカッコいい楽器に押し上げたのは、間違いなくポールの創造の賜物でしょう。
ちなみにメインテーマとなる歌詞は
「♪All I gotta do is call you on the phone」。
「僕がすべきなのは、君に電話をすることだけ」という意味ですね。
これは、当時ビートルズが市場開拓を狙っていたアメリカを意識した詞だと言われています。
というのも、実は当時のイギリスの若者には、付き合っている相手の家に電話をするという習慣はなかったそうです。
スマホはおろかガラケーの登場も遠いこの時代。相手の家に電話をかけて「頑固な親父が出てきたらどうしよう」とか、きっと思っちゃいますよね。
しかも、ビートルズのメンバーは全員マッチョな港町、リバプールの出身。意外と不器用でシャイなところがあったのです。
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