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ある心象風景⑤

父と海釣りに来ていた時のことだ。夜も更けて、満天の星空が見えた。

冬だった。流星群があったかもしれない。五秒か十秒に一回は、流れ星が見えた。そして仰ぎ見る夜空には右手に、巨大なオリオン座が威容を誇っていた。

驚いたのはその三つ星のみならず、腰に差した剣や腕に掲げた毛皮、振り上げた棍棒そして頭部までもが目視できたことである。当時の私は既に、オリオンの神話や図像は図鑑で見知っていた。それにしても……。

何十年も経って気づいたことがある。初めてオリオン座の神話について学んだ小さい頃、私は自分の存在を蠍に比定していたのだ。私はサソリ座の生まれだから。そして夜空に威容を誇るオリオンを認めた時には気づかなかったが、地平線の下にはオリオンを追いかけて、サソリ座の蠍が確かに迫っていたはずなのである。

自分はオリオンなのだろうか、それとも蠍なのだろうか。いや、きっと双方とも自分の分身なのだろう。

だが、今は全く確かめようのないこともある。あのとき父の目に、私と同じ星々が映っていたかどうか。もう父は他界したのである。

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