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あっちとこっちの間

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#ショートショート

Hospital 

「彼はね、すっごく雑なんですよ、アシスタントを何だと思っているんでしょう。人間じゃなくて、アシスタントって生き物と思ってるんですかね、すっごくすっごく失礼ですよね。」

脳みそに感情と文字があふれ出て、とまらないため、わたしが数か月前から通い始めたクリニックの先生はカニだった。

彼女はその綺麗な脚とハサミでカルテを眺めながらわたしの話を聞いてくれる。

「そうよねえ、そんなの腹が立つわよねえ」な

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Numbers

「ハロー。きみに嫌がらせしていたあいつが、いまジムに来てるよ」

ひさしぶりに晴れた土曜日に、そんな連絡が来たのだった。
連絡してきたのは、ジムで知り合った男1。
こっちはただの近所の知人くらいの気持ちで関わっているつもりだけれど、彼にとっては違うのかもしれない。
確認のしようがない。彼は日本語が使えない。
最近、英会話教室に通い始めたわたしだけれど、まだそんな不快な気持ちを伝える力はない。
伝え

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おしり屋さん

「へい、イラッシャイ!!今日はいい尻入ってるよ!ぴちぴちなのからバァーンとでかい熟したの!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」

ひさびさの平日休みで、昼間から清潔感とはかけ離れたおじさんたちに混ざって立ち飲みで一杯ひっかけてから商店街を歩いていると、威勢の良い商人がおしりを叩き売りしていた。

おっぱい派のぼくだけど、たまにはおしりもいいかもしれないと思って見てみると、そこには色んな尻が並んでい

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1番の価値

「ねえ、なんであれが1番だったんだろうね」

「そんなのぼくは知らないけど、みんなわかりやすいものがすきなんじゃない」

そう、みんなあれの何がよくて1番にしているのかなんてわからないものなんだ。とくに感性を必要とするジャンルでは。

「だって、わたしたちのグループは、機能性もコストもちゃんと考えてつくったのに、おかしくない?なんにもわかってないよ」

「そうだよね、でも、ぼくはぼくたちのグループ

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いつものバー

カランコロン・・・

見かけによらず、軽い木の扉を開ける。今日はだれがいるだろうかと、わたしに戻るためのあの扉をゆっくり開ける。

「こんばんわ」

「あっ、こんばんわ」

マスターはわたしがいつ行ってもびっくりした反応で、わたしが来るなんて予想してなかったみたいなリアクションをする。それは、わたしが決まった日や時間に行かないからなんだろう。

薄暗い店内には長いカウンターが何席かと小さなボックス

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ミーティング

「おはようございます、今週もよろしくお願いします。」

日常の中に飲み込まれてつねに睡眠不足で、なにも考えたくない。このひとは、どんな人間だったっけ?敵なのか味方なのか。部長の生え際を見つめながら考える。

毎週のミーティングに出るとすぐに頭がボーっとして意識が朦朧として自分が何者なのかわからなくなる。そういえばこの間寝た彼はどんな顔だったっけ、わたしのパンティを嬉しそうにしゃぶっていた彼の、唇は

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トイレはこちらです

ここのところ寒いせいか、トイレが近くて堪らない。30分ないし15分に1度は尿意に襲われているかもしれない。

ほら、そう言っている間にもう行きたくなってきた。さっき目一杯我慢しながら目的の居酒屋に入って、ビールを一気に飲み干した。途中から漏れそうだったけど、限られた時間の中で酔いたかったわたしは我慢してそのまま次の予定のために電車に乗った。

出がけにトイレに行ってから出たらよかったのに、その日の

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