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義務教育は大切と感じた「はじまりへの旅」

ロードムービー感のある家庭ドラマ

森に暮らすヘンテコ家族は自給自足の生活をしているが、母の葬儀で大都会へ行くことに。おかしな家族がたどり着いた本当に大切なものとは……。

邦題だと『はじまりへの旅』というポジティブ感のあるタイトルですが、原題は『Captain Fantastic』ずいぶん印象が違いますね。風変わりな指揮官、って感じの意味合いか。

おもてたんと違う

予告編の印象では、軽く笑えるコメディを想像していたのですが、思ったよりシリアス……どころかちっとも笑えなかったのです。
というのもヴィゴ・モーテンセン演じる父親にちっとも共感できなかった。

文明社会からドロップアウトして、田舎に隠遁するケースはよくあります。資本主義社会の息苦しさはわかるし、誰しも『ここではないどこかへ』逃避したくなったことは何度もあるでしょう。

この父親、徹底的に社会常識がない。
18才から8才のこどもが6人いるのですが、義務教育を受けさせていないのです。父親が一流アスリートなみのトレーニングは施しているし、生活に必要な狩りの技術は教えています。長男などは一流大学に合格できる学力は持っているのですが、世間一般の常識や人との関わり方をまるで知らない。

子どもが社会性を学ぶ機会を奪っているわけで。フェアではないと感じました。
大人は現代の物質社会を経験したうえで、自給自足の隠遁生活を選ぶということができるけど、子どもたちはそもそも基準となる『一般』を知らない。はなから選択権がないわけで。

主人公のアレなところ

ここで父親のアレなところを羅列してみます。

★子どもへのプレゼントに弓やサバイバルナイフを渡す。
★雨の日の岩登り、右手を骨折した息子に「自分でなんとかしろ」と突き放した態度。
★コーラは毒の水だと子どもたちに教える。
★8才の娘に「セックスってなに?」と問われ「ペニスをヴァギナにいれること」と包み隠さず教える。
★「私もワイン飲みたい」という8才の娘にワインを飲ませる。
★きわめつけはミッションと称して、スーパーマーケットで発作を起こし倒れたフリをし店員たちをひきつけている隙に子どもたちに食品を万引きさせるというものです。

かわいそうなところはある

自分なりにはポリシーはあるのでしょうが、ことルールや法律的なものを簡単に破るのです。
言いたいことはなんでも言うし、ちょっとアスペルガー気質的なものを感じるんですよね。それか世の中をひどく憎んでいるというか。

同情するべき部分もあるんですよ。妻は精神病で心を病み、それを癒そうとして森での生活を始めたものの、結局、妻は入院先の病院で自殺してしまうわけです。夫婦そろって社会に適応する力がなかったのは容易に想像できます。

妻の葬儀で

さて、妻の葬儀に来るなと、妻の父から釘をさされていたのですが、葬儀の途中でファミリーは乱入します。あげく主人公は神父のスピーチを中断させ、マイクを取り上げます。
「妻は仏教徒ですべての既成宗教を嫌っていました。もっとも危険なおとぎ話です。妻は遺言書で、遺体は火葬にして、遺灰は公共の場のトイレにでも流してくれと書いてました!」
当然、警備員が来て取り押さえられます。父のスピーチには子どもたちも少し引いていました。葬儀に来ている人たちもガチガチのキリシタンばかりじゃないだろうに。父の言動は文明社会に一石投じた痛快なものではなく、思いやりの欠けた傲慢な人にしか見えませんでした。

子どもたちに義務教育を受けさせるべきと考えているおじいちゃんと全面戦争になるのですが、反抗期を迎えつつある次男がおじいちゃんにベタ懐きになり、自らの意志でおじいちゃん邸に残ります。
奪還ミッションとして次女を送り込みますが、屋根の瓦が崩れて転落。運が悪ければ死んでいたか頸椎損傷で後遺症が残っていたと医師から聞かされます。
さすがにこれにはショックを受け、子どもを祖父宅においてトレーラーハウスで出ていきます。

終盤の流れに違和感

ここからの物語の流れがすごい不自然に感じたのですが、子どもたちはトレーラーハウスの床下に隠れていて、家族仲直りしてるんです。
で、夜中に墓場に侵入し、地面を掘り返し母の棺桶を奪還します。そして綺麗な景色の中で火葬するんです。もち遺灰はトイレに流すんですが、このへん見ていてちょっと引いてしまいました。感動的でも痛快でもなかった。

最後はきちんとおさまる

最終的には長男は外国へ行き、それ以外の子どもたちは学校に通えるところに引っ越して、スクールバスがくるまでのあいだ、紙袋に昼ご飯を用意していました。
机で勉強するシーンやシリアルを食べているシーンがあったので、前よりはだいぶんバランスがよくなったということですね。

まとめ

けっこう否定的なことを書いてしまいましたが、見た後にいろいろと感想が盛り上がる類いの映画です。

森で住むようになる経緯や、父母の出会いのシーンなどが描かれていないので、もっとそのへん、森で暮らしたくなるような文明社会のひどい部分が描かれていると主人公サイドに感情移入ができたのかもしれない。


妹夫婦や、妻の父母などの脇役陣に悪人がいなく、わりと気配りのできる人たちだったので、余計に主人公がワガママに見えてしまいました。


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