あるレストランにて垣間見た【葡萄酒劇場】
ワインのソムリエをしていると、
「今日のワインは全部君に任せたからね、絶対美味しいヤツ頼むよ。美味しいヤツね」
2回美味しいヤツと言われて、念まで押されて。そういう場面がたまにあります。
そんな時私の場合は、緊張はもちろんするのですが、内心では
「待ってました!」
と、ハートに火がつくタイプですw
絶対に満足させてみせるぞ!と、なる訳ですよね。
その自信の裏には、確かに今まで場数を踏んできたからという事もあるのですが、例えばその日は6名様でお任せの4本を開けてほしい、となった場合。
この4本の選び方と提供する順番(並べ方)の知識があれば、私は大半のお客様から、
「良かったよ、君に任せて」
とご満足いただく事が多かったのを、経験しているからです。
今回はこのワインをサービスするときに、より満足していただけるようなちょっとした工夫をいくつかご紹介させていただきます。
◆基本の法則
選び方より先に、まずは提供する順番の方からお伝えしようと思います。
別種のワインを順番に飲む際には、ソムリエの教本にもでている程の合理的な並べ方、というものがあります。
それぞれのワインの特徴が、
① 軽いもの から 重いもの へ、
② 若くてフレッシュなワイン から 古く熟成されたもの へ、
③ さっぱりしたもの から ガツンとしたもの へ。
色に関しても、
④ 白 から 赤 へ
の順番で、基本的に並べます。
色については、「やっぱり最初は白からでしょ」と、これは、すでに定着しているように思えます。
ともすれば、
「そんなの当たり前じゃん」
と言われかねない程の事なのですが、やはり基本は非常に大事です。
要はこのワインの特徴の変化を、あまり言葉で説明をせずともお客様に伝えることができれば、
「ただ適当にワインを選んで出しているわけじゃどうもなさそうだぞ」
と、思っていただけるわけです。
実際になぜそれを選んだのかという根拠が、さらにしっかりしていればしている程、自信をもって進める事ができます。
◆耳に訴えかけるよりも、舌に訴えかける。
ですが、
だからといって催眠術のように、リップマジックでもって、
「どうです?さっきのより重くないですか?重いですよね??」
と、無理やりこっちの感覚に促せば促すほど、相手の警戒心はどんどんと高まってしまいます。
誰だって自分のプライベートな感覚の領域に、ズカズカと土足で入ってきて欲しくはないはずです。
なので、なるべく言葉は少なく、ただ必要最小限な情報だけは伝える、というような力加減が必要になります。
お客様の感覚内でその基本の法則にハマっていただく、という事がとても重要なんです。
◆伝わったのか、ではなく。感じてもらえたのか
どんなワインを選ぶか。
その次にとても重要になる要素です。
これはあくまでも、私のおすすめワインの選び方なのですが、私の場合はまず、なるべくカテゴリー(ジャンル)をまとめるようにします。
例えばイタリアワインだけでまとめたり、葡萄品種を一つか二つにまとめるなど。
以前投稿させていただいた記事のテーマでもある、シャルドネを例にしてみます。
同じシャルドネでも違った2種類のワインを連続でサーブするのであれば、「シャブリ」のようなキレッキレでシャープな味わいのものの後に、
ガツーンとした樽熟成の効いた、コクがあってまろやかな味わいを持つものをサーブします。
あえて極端に違うタイプを、次に飲んでいただくわけです。
そして2つ目のシャルドネを提供する時に一言だけ、「前にご用意したワインと同じ葡萄なのですが、、」と伝える。
たとえ樽熟成の事を知っていた人でも、全く知らなかった人でも、シンプルにその違いが伝わるんじゃないか、という作戦です。
◆DJのように展開を考えて、飲む順番を考える
私は10年くらい前に、アナログのレコードを使って、クラブDJをしていた事があります。
DJは曲と曲を繋げて、フロアで踊っているお客さんの雰囲気をみながら、その場の空気に合わせてどんどん選曲をしていきます。
その時元々ある、いい感じの空気をキープしつつ、ゆっくりと早い時間帯のムードから、深い時間のムードへとシフトさせていくのです。
知らず知らずのうちに、いつのまにか深い所へと連れ去るスキルを持つDJは、優れたDJとして評価をされます。
はっきり言うと、DJとは他人の作った曲をただ再生するだけの人です。
自分では何も生み出してはいません。
存在するありとあらゆる無数の曲の中で、どれかを選んでただそれを並べるだけです。
ですが、その「パターンの選択によって生まれる自分の世界観」というものを彼らは表現しようとしています。
◆最初のワインより次のワインが、次のワインより次の次のワインが美味しくなっていく
最初のほうでお話しした順番の法則というものは、
そもそも次に飲むワインの味をなるべく損ねない為に、セオリーとして後輩に伝わっていっているものです。
確かに一番の目的はそこなのですが、その次のワインをより美味しく飲んでもらう為に、という方がサービス的にはしっくりきます。
先程言葉は少なく、一言だけ添えて、、と言いましたが、かなり慎重に。空気を変えない程度に少しはそのワインのレクチャーをする事もあります。
お客様の要望のもとに、ここはもっとコメントに肉付けをするべきだ、と思った瞬間は、その状況をみて判断します。
「次にご用意させていただく料理は、スパイスもしっかりと効いて、コクも強くなりますので、合わせるワインの方も少し前のワインよりキャラクターの濃いものをご用意させていただきます。」
など。
聞いていただけるような雰囲気を察した瞬間、すかさずコメントするようにします。
むしろお客様の方から、
「このワイン美味しいじゃない!これ何?次は何?」
と、途中で言っていただけるようであれば、必要以上に少し長めにアピールもします。
◆ワインに詳しいスタッフに、今夜のワインを全て任せてみよう!
こんなふうにワインのセレクトに、自分なりの流儀とこだわりを持っているソムリエは、無数にあるレストランにはごまんと居るはずです。
一度、悪くないかもと、思えるソムリエにもし出会った時には、
「君に賭けよう!」
という気持ちで自由にお任せしてみてはいかがですか?
もしかすると思いも寄らなかったようなワイン物語に、あなたを連れていってくれるかもしれません。
君のお任せで!と、言われる事ほど、ソムリエを含むサービスパーソンにとって、最高の信頼とチャンスはないを思っています。
そこで、しくじってはいけない!と一生懸命に考える事、どうすれば喜んでもらえるのだろうかという事。
それを考えている心が相手に伝わった時にはじめて、「この人に任せて良かった、、」と思っていただけるのではないでしょうか。
サービス業、または接客業に従事しているものにとって、この「考える」という姿勢や心持ちこそがもっとも本質的な価値なのではないか、とわたしは思います。
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