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『渚にて-人類最後の日』を読んで

この本は、今この時代に読むべき物語かもしれません。

初めて今作を読んだのは、24年近く前。
オーストラリア・アメリカ合作のテレビ映画(テレビ放映用につくられた映画『エンド・オブ・ワールド(邦題)』をレンタルて見て良かったので原作を読んでみようと感じ読みました。なお、このテレビ映画は原作発表時1957年の設定を多少変えて20世紀末に合う形に改変をされてます。ただ、ヒロインの性格などは原作に近い感じで描かれてるかなと思います。
(※『エンド・オブ・ザ・ワールド』というタイトルの邦題作品が多いので注意。原題が『On The Beach』です。今作とは関係ない作品ですが、スティーブ・カレルとキーラ・ナイトレイが主演していた『エンド・オブ・ザ・ワールド』も終末作品としてはポップな感じだったけど秀作です。)
なお、今作が出版された2年後の1959年に、グレゴリー・ペック主演で映画化されています。日本でも、昨年初ブルーレイで再販されたようです。こちらも昔レンタルで見たことありますが、時代性からより鬱々な内容です。


第三次世界大戦がはじまり、それが核戦争へと進み北半球は4000発以上の核ミサイルによる攻撃で高濃度放射能汚染され、北半球の国々は滅亡した。
放射能は南半球へと広がりながら地球を覆いつくそうとしていて、オーストラリアの最南端都市、メルボルンに放射能が到達するまで残り8ヶ月。
死滅した北半球から謎の信号を受信しているという少しの希望的なエピソードを織り込んではいますが、そんな希望が実際あるわけなく。主人公の潜水艦艦長もそこには期待をしていないのが、絶望的。

今作の結末は決まっています。
その結末に向けて、人々はどう生きていくのかということを淡々と繊細に書いています。暴動や略奪などの描写はほぼ無い。
恋をする、仕事をするという、見えない放射能の影を恐れながらもごく当たり前の生活をしていく。
今作を読んでいると、当たりまえがいかに尊いことなのかが分かってくる。
その時が間近に迫った時の選択は宗教観的にみるとダメなんだろうが、尊厳や自由を考えたら、これは選択肢として当たりまえだと思う。

現在、ロシアとウクライナの戦争が長引き、中東も相変わらず戦争をしている。
中国と台湾がきな臭くなっている中、この小説の中で書かれていることが現実に起きていて、本当にボタンをかけ間違えたら、いつ核戦争が起きても不思議はないんだろうなと思う。
この本が出版された5年後、核戦争が人類のすぐ目の前まで迫ったことがありました。1962年のキューバ危機ですね。
1973年にも、米ソの間で核戦争への警戒レベルにまで達していたということが最近になって知られています。
冷戦時代の話です。
でも、今の時代、核を保有するのは大国だけではありません。
ロシアも現在、今核兵器使用を示唆することを言ってはいますが、やはりそこはまだ言葉だけだと思います。大国は、余程のことがないとその決断はしないでしょう。問題はそれ以外の国。
もし北朝鮮が核を武力化してお隣の韓国に打ち込んだら?
中国が台湾に対し核を使用したら?
一つでも使われると、連鎖的に広がっていく。戦争とはそういうもので、これは、過去の人類の歴史から目に見えていること。人間というのは、「自分は大丈夫」という思考を持つことがありますからね。その慢心が間違いを呼ぶんですよね。
今の時代、今作は多くの方が一度は読んでもよい本だろうと思います。
刊行から半世紀以上経っても読み継がれる名作です。
なお、2009年に新たに翻訳されたバージョンを今回読んでますが、このバージョンの方が読みやすい。それ以前の翻訳は1960年代に翻訳されたバージョンですが、どことなくテンポが悪く読みにくい。今回のバージョンで読んでもらえたらいいかなと思います。

なお、出版時の年代の人物描写になっているので、現代の若い人たちが見た時に違和感を覚えるところもあるかもしないけど、それはそういう時代だったということを理解してほしいかなと思います。


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