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【読了008】『百年文庫7 闇』

 アフリカに送り込まれた貿易会社の二人の社員。出世を夢見て交易所に寝泊りを続けるが……。辺境で「文明」を担った男たちが圧倒的な不安に崩れ落ちていく様を描いた『進歩の前哨基地』(コンラッド)。フィリピンの戦線を舞台に、戦友の心を歪めていく組織悪の根源にせまった大岡昇平の『暗号手』。残虐な欲望に身をゆだね、取り返しのつかない過ちを犯した男が清らかな愛をとりもどすまでの感動の物語(フロベール『聖ジュリアン伝』)。極限に浮かび上がる人間の裸像。

ポプラ社より

○進歩の前哨基地(コンラッド)

 人は自分の胸のうちにあるものをすべて根こそぎにすることができるかもしれない。愛も、憎悪も、信仰も、それに疑惑すらも。しかし、生にすがりついているかぎり、恐怖は取り除くことができきない。そこはかとなく、不壊な、すさまじい恐怖、人の存在に滲透し、思念を染め、胸中に潜伏し、臨終の息のあがきを彼の唇に見張っている恐怖は。

 奴隷の死は軽く、白人の死は重い。このものすごいタイミングの悪さは「天の配剤」ってやつかしら。ただ、大前提としての権力構造はともかくとして、この一連の事件に関しては諸悪の根源はマコラなのでは……? とちょっと思ったんだけど。
 罪悪感のない者は裁かれない(少なくとも本人の精神に起因した罰は受けない)、ってことかなあ?
 どんどん膨れ上がってくる恐怖や不安、追い詰められていく感じは三本の中で一番好き。
 コンラッドは『闇の奥』を昔読みましたが、そっちもなんか黒人と白人がどうとかいう話でしたよね?(うろ覚え)
 どうも最近そういう話をガッツリ読む精神力がなくって、読む前から「うわあ……しんど……」ってなってしまうので、短編で味わえたのは良かったかもしれない。やっぱり私が読書に求めてるのは何よりもまず「娯楽」なんだなって。

○暗号手(大岡昇平)

 これね、最後の「心優しい」の意味がよく分かんなかったんです。
 ・政治学を使うしかない
 ・それは防御手段である
  →自分を必要がある=弱い
 うん、「弱い」ならしっくりくるんです。でも「心優しい」ってどういうことだろう?
 彼は本質としては優しい男だった。でも、優しいという心根の上に会社員的政治学を塗りつけないと生きていけなかった。そういう状況・境遇だった。それ故に彼は不幸であり、何かの犠牲者だった。……ということかなあ???
 こういう、文学にありがちな「なんかよく分かんない」をほったらかしにせず、ちょっと考えてみたりしました(ドヤァ)。
 大岡昇平の他の作品を全く知らないんですが、文体がすごく読みやすいのと、他の体験記的なものにも興味が湧いたので、その内挑戦してみたいかも。

○聖ジュリアン伝(フロベール)

 ……本筋とは関係ないことかもしれないんですけど。何で神仏って人間を試すようなことすんの? 昔からそれが本当に納得いかない。アブラハムとイサクの話にしてもそうなんですけど。何でいちいち試すの???
「試す」ってなんか卑しい感じしない? 心根が貧しい感じしない? チラッチラこっちを試してくるような神仏なんか願い下げですわってならない???
 うん、納得いかない……納得いかないぞ……私は納得しないぞ……

 本筋はそういう、まあ典型的な宗教文学っぽいやつでした。あんまり好みではなかったなあ……
 フロベールって『ボヴァリー夫人』の人か~タイトルだけはかろうじて知ってるやつだ。当然のように読んだことはないです。いつか読めるかな。っていうか、読む気になるかなあ……

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