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【読了009】陳舜臣『三色の家』

 海岸通りでひときわ目立つ三色の建物は、海産物問屋の同順泰公司である。ここの3階にある干し場で、コックの杜自忠が殺された。出入口2ヵ所には家人がいたのに、全然気付かぬという。杜の人生は苦難に満ちていた。公司の主人の親友である陶展文の鋭い推理と調査が始まる。神戸を舞台にしてのびやかに描く長篇推理。

講談社文庫

 昭和8年という舞台設定がなかなか面白かった。殺人事件そのものより、舞台が神戸の商館+主人公が日本に留学中の中国人ということや日中それぞれの商売の様子、お互いへの関わり方が興味深かったな。
 登場人物もなかなかさっぱりしてて良かった。前に読んだ『弓の部屋』もそうだったけど、この人の小説はとことんイライラさせられるような人が少ないのかもしれない(他にも何冊か読んだことはあるはずだけど、昔のことで忘れてしまった)。

「弱者の倒錯的優越感というやつさ。自分がなにか自分以外のものである、とでも思わなければ、生きていけないのだろう」

 本筋とはほぼ関係ない文章だったけど、一番私に刺さったセリフ。覚えがある……というか、私のことそのままだな……
 たとえ誇れるような人間ではなくても、自分自身のままでなんとか生きていきたいもんです。


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