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【読了004】ミネット・ウォルターズ『養鶏場の殺人/火口箱』
1920年冬、エルシーは教会で4歳年下の純朴な青年ノーマンに声をかけた。恋人となったその男性が、4年後に彼女を切り刻むなどと、だれに予想できただろうか──。かのサー・アーサー・コナン・ドイルが判決に異議を表明したという、英国で実際に起きた事件をもとに執筆された「養鶏場の殺人」と、老女二人の強盗殺害事件を通して、小さなコミュニティーにおける偏見がいかにして悲惨な出来事を引き起こしたかを描く「火口箱」を収録。現代英国ミステリの女王が実力を遺憾なく発揮し、犯罪を通して人々の心理を巧みに描き上げた傑作中編集。
ミネット・ウォルターズの作品ってどれも分厚くてなかなか気軽に手に取れないんですが、こちらは中編集ということでさくさく読めて、しかも面白かったので大変良かったです。良かったんですが、
エルシーには自分の問題を他人のせいにするところが抜きがたくあった。自分が不器量なのは自分のせいではない。それは両親のせいだ。自分に友だちがいないのも自分のせいではない。陰で悪口を言うような人を信用するのは愚か者だけだ。
……あれ、私かな……?
エルシーの世界はすべて黒か白、灰色の部分はいっさいないのだ。(中略)エルシーの人間関係にはつねに衝突が付いてまわった。家でも、職場でも。ある人をある日には好きであったかと思えば、次の日には憎んでいたりする。彼女はしかし、なぜ自分が人を遠ざけてしまうのか、それがまったくわからなかった。
……あれ……私かな……?
という感じでね、ちょっと、作者の意図とは全く違うところで一人ダメージを受けていました。こういう人間ってやっぱり自分以外にもいるいんだなって、若干安堵のような思いも抱いたり……慰めにはならないですが。
『養鶏場』の方は実話ベースだそうで、緩やかに破滅に向かっていく二人を周囲が完全に放置しているのが何とも言えないですね。エルシーの方の両親が彼女を完全に放置する気持ちは分からないでもないですが、ノーマンの方の親御さんはもうちょっとどうにかしてあげられなかったのか。
エルシーはもちろんあんなでしたけど、ノーマンの方にも若干、何かあったんじゃないかな……という感じがちらほら。かけ合わせちゃいけない……というか、セットにして放っといたら確実にややこしいことになるのが目に見えてる二人ではあったなあ、と。
『火口箱』の方で残念だったのが、知識不足で「アイリッシュとイングリッシュの関係」をよく分かってなかったことですね。こういう本を100%楽しむためにも、やっぱり世界史の勉強はちゃんとしなきゃな……
過去と現在が行き来する手法は混乱するので苦手だし、狭い村の中での差別や偏見がどんどん膨らんでいく様子がすんごく息苦しいし……なんですが、全然目が離せなかったです。
ミネット・ウォルターズは人間のイヤな部分を描くのが上手いですね。それだけじゃなくて、「黒か白かだけでは片付かないところ」を描くのも。
読みやすいし興味深いし、ミステリーとしてもすごく高品質。得した気分になれる中編集でした。
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