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【詩】マルを描こう

「先生、できました!」
瞳をキラキラさせながら弟子が報告する
ハイハイと弟子に歩み寄るその視界には
なんということでしょう 確かに美しい丸印

精密に計算された筆致と筆色には
弟子の純粋で誠実な人柄が滲み出ている

そして そこから紡がれるファンタジア
音色を聴き取った魔法使いの先生
こくりと頷き返す「よくできました」


実はここからが始まりなのだ
「これを人々に広めてくるのです」
魔法使いの弟子は口元をキュッと引き締める
「はい、先生!」


弟子はチョロキューと街へ繰り出す
ビラ配りのバイトよりも人々に声を掛ける
「マルは要りませんかっ?」「かっ?」
いつしかマッチ売りの少女にも応援される

いろんな人がチラ見をしながら去って行く
そんな中 ある人物が興味を示す
子どもの未来を熱心に考える若い教師が

「マルをください」
弟子は教師を見据え 包むように握手をした
「はい、先生!」

すべての子どもの個性に
教師は赤マルを付けるつもりだった

魔法使いが教え込んだ魔法は
弟子の手を伝って 先生へ
そしてその弟子へ 継承されていく

いろんなものにマルが付いた
テスト用紙に 飼育ウサギに 親のほっぺに
多種多様 唯一無二の見事なマルが
やがて様子を見ていた人々も真似を始める
喫茶店の看板娘も 市長も ホームレスも

『マルを付けられたら幸せになれる』
『マルの付いた場所はラッキースポットだ』
『誰かにマルを付けたらご利益を授かる』
街にはたくさんのマルが溢れるようになった
ヒラヒラと舞う尾ひれのようなジンクスも


帰ってきた弟子から報告を受けた魔法使い
目を閉じ 深い味の紅茶を一口味わう

ああ 大地の反対側を覗くような
なんて遠い眼差しだと思えるような 刹那

「あの、先生……?」
ひんやりとした黙考に弟子が問い掛けると
「よくできましたね」
ふんわりと香るように魔法使いは答えた

彼方から戻ってきた光を宿した瞳で
魔法使いは弟子に褒美を与える
おでこの上に特大のマルを描いたのだ

そのマルには花弁と花の香りも付いていて
「あなたもきっと、花マルが描けますよ」
「うわぁ……! すごいです、先生!」
弟子はマルに劣らぬ華やかな笑顔になった


実際のところ
マルには幸福感やら幸運やらの
効能もご利益も一切の保証はなく
一定時間だけ仄かに輝くだけだとしても

それでも世界のどこかで今日も描かれる
私は心から尊敬しています と
湧き上がるエッセンスと勇気さえあれば





あとがきも書こうと思っていたら、アレもコレもって足し気味になってしまい、なんか野暮になりそうだったのでカット。
私の根気が足りていれば、後日投稿するかもです(笑)。


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