【詩】もういいかい?
「もういいかい?」
豆を握りしめ そっと問いかける
ずっとこの日を待っていた気がする
鬼退治をするチャンス
容赦のない寒さの中で
かじかんで痛覚の麻痺した耳たぶに
ナイフのような言葉が木霊していた
君はきっと知らないんだろう
だって自分の言葉ってすぐ忘れちゃうから
ぼくは一秒たりとも忘れない
言われたことを返品するまでは
オニハソト フクハウチ
「もういいかい?」
渾身を込めて豆をぶつける
雑節の鬼が逃げ惑い 隠れる
それを探して捕らえるのも そういえば鬼
「まぁだだよ」
ねぇ 君はぼくを鬼だと思っていた?
ぼくは自分を人間だと思っていたんだ
君だって自身をそう信じていたでしょう?
ぼくたちは出会うまで考えもしなくて
気づけたのだから運命かもしれないね
ねぇ いつまでも逃げないでよ
同じ鬼として 語り合おうよ
そんなに泣いた赤鬼にならなくてもさぁ
もうすぐ春は来る
きっと考えなくても良かったことが
芽吹いて咲いていくんだ
だから その前に冬を締めくくらないと
「もういいかい?」
正午前の方角で最後の問いかけをした