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立命館大学初代生命科学部長谷口吉弘先生に聞く、BKCの誕生にみる大学のイノベーション(1-1) 日本の産学連携の先駆けとなった大学改革(表紙写真ウィキペディアより)


はじめに


TOEFLメールマガジンの筆者のコラムFor Lifelong Englishでは、2011年12月号、2012年3月号および4月号で、立命館大学びわこくさつキャンパス(BKC)で理工学部学部長、その後、生命科学部初代学部長を歴任された谷口吉弘先生をインタビューしました。筆者は、生命科学部生命情報学科教授(担当科目英語)として、拙稿「プロジェクト発信型英語プログラム:....立命館大学生命科学部薬学部(在籍2008~2014)中間報告(1-1), (1-2),(2-1),(2-2),(3-1),(3-2)」で報告した英語プログラムの責任者でした。先生は、豊富な国際研究活動の経験を持ち、理工学部教育改革の一環としての英語力強化に非常に熱心に取り組まれ、助言とサポートをしてくださいました。以下、3回のインタビュー記事を6回に分けてお届けします。


谷口吉紘弘先生略歴


谷口吉弘先生(撮影2011)


谷口 吉弘先生 1980年代後半から、21世紀学園構想委員会に委員と して参加して、「21世紀の立命館学園構想」中で、新し い理工学部の教育と研究の展開について答申し、理工学部 のBKC(びわこ・くさつキャンパス:滋賀県草津市)へ の移転後、理工学部再編拡充事務局長として理工学部の改 革を実施した。1998年から3ケ年間、理工学部長を務 める。また、2007年から、生命科学部・薬学部の設置 にかかわり、2008年から3ケ年間初代生命科学部長を 務める。現在、学校法人立命館 総長特別補佐。文部科学 省国費留学生の選考等に関する調査・研究協力者会議 主 査、経済産業省アジア人材資金構想 評価委員、日本国際教 育大学連合 常務理事を務める。


日本の産学連携の先駆けとなった大学改革


鈴木:谷口先生は理系の学問や学会のいろいろな役職もされていて大変 お忙しいかと思うのですが、それと同時に先生は常に世界に目を 向けられています。以前、立命館大学のBKC(びわこ・くさつキ ャンパス:滋賀県草津市)ができるにあたり大変ご尽力されてい ると伺いました。設立準備委員会でのお話を伺えますでしょう か?

谷口: 現在、議論されている2020年に向かって立命館学園の方向性を 考える立命館ビジョンR2020(※)と同様に、1980年代当 時、立命館大学が、今後大きく展開していくには、財政自立を含 めて理工学部をなんとかしなくてはという学園として大きな課題 があり、21世紀構想委員会が発足しました。そこで、理工学部の 若手の教員の1人として私が指名され、理工学部の将来構想を考 えるために、さまざまな調査を実施しました。

鈴木:ちょうどバブルも崩壊した頃で、銀行が潰れるような時代でした ね。

谷口:はい。理工系の学部は、教育と研究に大変お金がかかります。学 部を拡充しても研究費がなければどうにもならないわけです。研 究費をどうやって集めるか、具体的には、寄付集めですよね。理 工学部の先生方には寄付集めに行ってもらいました。当時は、企 業に行って先生方が頭を下げるなんてありえない話です。企業訪 問しても、「寄付するお金はない」と言われました。そこで、 「企業が理工学部を支援していただくにはどうすればいいです か?」ということを聞いたところ、「企業との共同研究(委託研 究)だったら、何とか支援できます。」ということで解決の方向 が見えました。その結果、「企業と一緒に共同研究しましょう」 ということになりました。このような経過から、立命館大学が日 本の産学連携の先駆けになったわけです。理工学部の先生方には 企業に行っていただき、大変ご苦労をおかけいたしました。

鈴木:そうなると先生方にとっても社会に役立つ研究でないとダメなわ けですね?

谷口:そうです。

鈴木:それは斬新な取り組みですよね。

谷口:ええ。そこから理工学部を中心に産学連携という仕組みができて 研究費が集まってきました。立命館大学は、アカデミーとインダ ストリーが近い距離にある大学です。日本で最も産学連携を実践 している大学の1つが、立命館大学だと思います。ですから、産 学連携の元々の始まりはBKC(びわこ・くさつキャンパス:滋賀 県草津市)です。

鈴木:もちろん、理系ですから産業界とはそういう関係でなくては困り ますよね。

谷口:そうです。理工学部といっても、理系の学科に比べて圧倒的に工 学系の学科が多いのです。従来、大学の先生が企業との共同研究 のために、企業を訪問することはそうざらにはなかったことで す。当時、日本の大学で、先生方が研究費の捻出のために企業訪 問して共同研究を申し込むという雰囲気はありませんでした。

鈴木:今でこそ、とても歓迎されてますけどね。

谷口:結局、立命館が先駆けて大学と産業界の研究のボーダーを超えた のです。それまでは、産学連携に対して、まだまだ批判的な大学 が多い時代でした。このままではダメだと感じ、研究費の流れを 透明化するなど産学連携にかかわる諸制度を整備することによ り、産学連携を推進することができました。生物学的には一定の 場所に落ち着くと、そこから動きたくなくなる習性があるように 思います。そうするとその生物は退化してしまいます。移動して 場所がかわると新しいアイディアが湧いてきます。新しい発展の ためにも、常に動きをとめない、イノベートすることが大事です よね。

鈴木:そうなると先生は大学の体質までも変えてしまわれましたね。

谷口:そうそう、BKCへ移転後、旧来の理工学部は完全に新しい理工 学部に変わりました。中途半端に拡大すると、旧制度に巻き込ま れて発展できないと言われますよね。だからBKCで展開する新理 工学部はその規模を約倍にして、新しい先生をどんどん採用しま した。また、大学以外の、企業の研究者も多く採用した結果、硬 直した古い体質がなくなっていき、新しい制度への移行がスムー ズに進みました。理工学部がBKC移転後、1998年から20 01年までの3年間、理工学部長を務めました。

大学とイノベーション

鈴木:その後、BKCには、衣笠から経済学部・経営学部が移転し、ま た、情報理工学部も新設されました。 先生が始められた生命科 学部の学部長になりましたよね。

谷口:私が思うに、イノベーションができない大学はダメなんじゃない ですか。企業もそうですが、常に止まらずにイノベーションが必 要だと思います。ディシプリン(discipline)は確かに保持しな ければいけませんが、特にサイエンスやテクノロジーの分野は、 世の中の流れにあわせてイノベーションしなければいけないと思 います。そういう考えは、大学の経営者にとってすごく大事です よね。

鈴木:BKCが出来て、経済的にもずいぶん変わってきました。大分県に 新しくできた立命館アジア太平洋大学(APU)についてはどうで しょうか。

谷口:これもかなりイノベーティブです。というのも学生や教員の約半 分が外国籍です。文部科学省からは「そんなの不可能です」と言 われました。元大分県知事の平松守彦氏が大分県を国際化したい ということで、立命館を誘致していただき、土地も提供いただき ました。世界はいまやグローバル化の中にあり、社会はどんどん 変化しています。自然科学や技術のみならず、社会科学も大きく 変化するものと思います。

21世紀はライフサイエンスの時代

鈴木:先生のお考えでは、理工学部 から例えば生命科学へという のもやはり新しい流れなので しょうか。

谷口:9世紀はケミストリーの時 代、20世紀はフィジックスの 時代、21世紀はライフサイエ ンスの時代だと言われていま す。事実、ニュースなどで医療に関する問題などを毎日目にして いますよね。これから、少子高齢化時代の日本において、医療を 含めたライフサイエンスが圧倒的に大切になってきます。

谷口吉弘先生 (研究室にて2011年)

鈴木:我々文系にとっても、ライフサイエンスは基盤になってくると思 います。

谷口:現在、ライフサイエンスは医療との関係においてイノベーション の中にあります。根幹は変えずにどんどん脱皮をしていかない と。そうでないと、大学の存在価値っていうのがなくなっていく と思います。大学は、社会との接点の中で生かされているのです から。常に、世の中がどんどん変わっていくのだから、大学も変 わっていかなければいけません。特に、応用的な学問は、時代と ともに進化をしていかないと、学生からも見放されてしまいま す。これから、18歳人口は減少期を迎え、大学は厳しい冬の時 代になっていきますよね。だからこそ、大学には、イノベーショ ンが大事だと思います。

引き続き(1-2)をお読みください。


(※)R2020 学園ビジョンR2020の略。立命館大学・立命館アジア太平洋大学・附属校・小学 校を含めた立命館学園全体が、学園の理念を示す立命館憲章を踏まえて、2020 年にどのような学園を目指すのかという将来像を示すもの。


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