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汝の 隣人を 愛せよ

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短編ホラーを書きなぐっております。
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記事一覧

そしりはしり

そしりはしり

「怖い話」というのとは違うかもしれないが、思い出した「後味の悪い話」を。

私の母は結婚してから暫くの間、夫である父の収入が安定していなかったため、地元のカバン工場で働いていた事があるという。
そこは二代目夫婦が切り盛りしていて、割と繁盛していたそうだ。
ただ……従業員を軽んじているような所があり、近所でも敬遠している人が多かったようだ。
そのうちに、母が第一子である私を妊娠した。
悪阻が酷く、こ

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綺麗事

綺麗事

恵美さんは学生時代の友人・麻友子さんと、仕事帰りに飲みに行く約束をした。
幸いノー残業デーだったので、割と早い時間にお店に入る事が出来た。
お店から出ても、まだまだお酒も会話も足りない気分。
翌日はお互いに仕事は休み。
このまま駅から近い麻友子さんの部屋で飲み直そうと話がまとまった。
途中にあるコンビニで缶ビールやチューハイ、おつまみをしこたま買い込み、彼女の部屋へと向かう。
お互いの近況報告や恋

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新駅

新駅

高校卒業後、都内の会社に就職し、電車通勤にも慣れてきた頃。
路線に新しい駅が出来るという話を聞いた。
確かにそこは他の駅と比べて間隔が長く、A駅とB駅どちらを使うにしても不便な場所だった。
電車から見えるその場所は、広々とした草地が広がる空き地で、民家もまばら。
新駅の建設によってもたらされる開発の波は、大きな利益をもたらすであろうことは素人の私にも簡単に想像がついた。

「あそこ、A駅とB駅の間

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瓶の中

「5月◯◯日 陸上部に素敵な先輩を見つけた。走る姿がうっとりするくらいカッコイイ。ずっと見ていたい。」

「5月◯◯日 6月に大会があるんだって。先輩、優勝できるといいな。応援しています。部活頑張って下さい」

────

「6月◯◯日 明日は先輩の出場する陸上部の大会だ。先輩頑張って下さい!先輩だったら、きっと優勝できますよ」

「6月◯◯日 先輩、3位だったって。私だったら3位でも嬉しいけど、

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誂え

 実家で母が着物のリメイクをしている関係で、私も縫製をほどいたりする手伝いをしている。
 大切にされてきたものは、手にとった瞬間に分かる。伝わってくる優しさが「ああ、これは大切にされてきたんだな」と穏やかな気持ちにさせてくれるから。
 ただ、やはり洋服などと違って思い入れのある物であるから、色々と不思議な体験をしたりもする。
 そんな話をしていきたい。

 ある日、父が知り合いから頼まれたと1枚の

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私のおばあちゃん

 これは、私が小学校4年生の時の話。

 明日の音楽の時間には笛のテストがある。
 あまり音楽が得意ではない私は、それこそオヤツも食べずに練習していた。
 友人の「春江ちゃんって、あんまり笛、上手くないよね」という言葉が悔しくて、どうしても見返してやりたかったから。
 それこそ上手でない縦笛をピーだのプーだのと鳴らしていたのだから、家族は大迷惑だっただろう。夕飯が済んで、お風呂に入る前まで練習して

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ついてきた子

大学生の時に仲良くなった友人・大城の話。

小6の時、友人達と「卒業記念肝試し」を計画した。
場所は海岸沿いの高台に建つ1軒の廃屋。
だがその家は、不法侵入を防ぐために窓にも玄関にも頑丈に板が打ち付けられ、どこからも中に入れないようになっていた。

小学生の彼らには板を引き剥がす力がある訳もなく、早々に「肝試し」を諦めて、海に面した庭で持参した花火をする事に。
花火を片手に騒ぎ回っていた大城は庭の

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深夜タクシー

久し振りに高校時代の友人と飲みに行った帰り。思い出話に花が咲き、店を出た時には自宅方面への終電はとっくに出てしまっている時刻だった。
「うちに泊まりに来ればいい」と友人の一人が声をかけてくれたが、最近結婚したばかりだと知っていたので、流石にそれは辞退させてもらった。新婚の亭主が飲んで遅くなるだけでも、奥さんからしたら腹立たしい事だろう。その上、見も知らぬ酔客を伴って帰るなど……。独身の自分でさえ、

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因果応報

 私の勤めている病院に、1人の女性が運び込まれてきた。年の頃は70歳位。呼吸は浅く、額に脂汗を浮かべ、全身が小刻みに痙攣していた。苦しいのだろう、両手で胸を掻きむしるように抑えている。
「おふくろ! しっかりしろよ、病院に着いたぞ! おふくろ!」
 息子らしき男性がストレッチャーに寄り添いながら声をかけている。その後ろから心配そうに眉根を寄せた中年の女性。
「処置を行いますので、ご家族の方はこちら

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