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ホテル裏方仕事人の些末なこだわり

裏方仕事人の些末なこだわりは「文字を丁寧に書くこと」だ。
そこに温度を込めて、相手に贈り物を送るような気持ちで文字を書きたい。
すぐに捨てられる電話メモだとしても、誰かに温度が伝わればいいなと思う

新卒で憧れのホテルに入社した。
仕事をするなら、絶対接客業だと心に決めていた。
威容を放つそのホテルの佇まいを見たとき、使命感にしびれた。
あの景色は今も頭の中で、鮮やかなフルカラーで再現できる。

こんなところで働けるなんて。
あー人生思い通り過ぎる。
22歳の小娘は本気でそう思っていた。
神様のムチだったと思う。
本配属はまさかの「事務方」だった。

ホテルに就職したのに。
こんなことやるために外国語大学出たんじゃない。
もっとクリエイティブなことがしたいんだ私は。
そんな身の程知らずな心根で、黙々と魂のこもらない「作業」だけをしていたように思う。

誰かを思いやる気持ちがそこになければ、それはきっと仕事でなくて「作業」だ。誰かから受け取って誰かに繋いで、誰かに届く。
作業は点でしかなくて、ゴールまで想像できたら線になってそれは「仕事」になる。

コピー室で急にそう思った。稲妻が走るみたいに。
私の役割はなんだろう。
「作業」を誰かに届く「仕事」にするのは私自身だ。私が本当にやりたかったのは、接客のその先にある「誰かの役に立つこと」だった。

同じ職場の先輩の役に立ちたいと思った。
先輩の仕事がスムーズに捗るように工夫すると決めたらとんでもなく「仕事」が楽しくなった。
神様は私に強めのムチを打ったけど、周りの人たちはいい人だらけで「人に恵まれる」という特大の飴玉もちゃんと用意してくれていた。

30年前、お客様とのやり取りは電話かFAXだった。
お客様の表情を見て心の機微を感じることはできない。こちらの温度も声と文字でしか伝わらない。

丁寧な電話応対と丁寧な文字にこだわろう。
ホテル裏方仕事人のスタートはここだった。
今日も誰かの役に立てますよう!

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