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【日テレクリエイター対談Vol.2】吉川真一朗×土屋敏男「令和のテレビ進化論」

企画概要
若者のテレビ離れ、などと声高に叫ばれる昨今。
ホントにそうなのか?
命をかけて、魂を削って番組を作るクリエイターの叫びは届かないのか?
日テレ最前線クリエイターと、レジェンド土屋敏男の対談。
noteと最新の音声メディアであるstand.fmでお届けします

今回のゲストクリエイター:吉川真一朗(よしかわしんいちろう)
 日本テレビ放送網(株)情報・制作局 ディレクター・演出
『I LOVE みんなのどうぶつ園』 『ニノさん』『THE W~女芸人No.1決定戦~』『ダイエット・ヴィレッジ』など
土屋敏男(つちやとしお)
 日本テレビ放送網(株) 社長室R&Dラボ スーパーバイザー
『電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』等の制作に携わり、長年テレビの制作現場で活躍。
一般社団法人1964TOKYO VR代表理事。
2019年ライブイベント『NO BORDER』企画演出。
映画『We Love Television?』監督。2021年『電波少年W』企画演出。

▼音声版もstand.fmにて全編公開しています!▼

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番組ディレクターと海外事業部の兼務!?

吉川)吉川と申します、宜しくお願いします!

土屋)今何年目?どんなことをやってるんですか?

吉川)12年目、36歳です。今は『I LOVE みんなのどうぶつ園』(土曜19時)や、THE W、自分の特番の演出をちょこちょこやっています。

土屋)なるほど。なんか海外のことやってるんだって?

吉川)12月から海外事業部兼務になりました。もともとアメリカ生まれということもあり、海外事業部の方から企画出したら、という話がありまして。それで『ダイエットヴィレッジ』という特番を海外に売ろうという話があったり、企画を一緒につくったりということをしています。

土屋)そうなんだ。電波少年も2000年頃、海外に売ろうとしたことがあって。当時のニューヨーク支局の人が、「なすびの懸賞生活※をフォーマット化してアメリカで売りたい」って言ってくれて、そうしたら当時の国際部長みたいな人が「あんな日本の恥みたいな企画売れるか!」と言って、拒否されて(笑)

※電波少年的懸賞生活:『進ぬ!電波少年』の中で放送された長期企画。お笑い芸人のなすびが、裸一貫の状態から総額100万円分当選するまで懸賞だけで生活する。

吉川)もったいない(笑)

土屋)当時、ワシントンポストかニューヨークタイムズに「日本にクレイジーな番組がある」って結構でかく紹介されたことがあって。その時だったら、アメリカでもやれたのかもしれないけど。そんな時代もあったんだ。
本当に今これから、という意味で言うと、海外への番組販売は一番面白いし、歴史的には、栗原※の『マネーの虎』みたいな、日本ではあまりうまくいかなかったものがウケたり。
※栗原甚:日本テレビの演出・プロデューサー。バラエティー番組やドラマを多数手がける。


土屋)あのときおれが編成部長で、深夜の企画を募集して『マネーの虎』がそれまでない企画ということもあり、深夜でやった。それで当時の視聴率のハードルを超えたので金曜夜8時にもっていったけど、世帯視聴率で2桁いかなかくて。普通そこで諦めるんだけど、栗原は諦めなくて、当時の海外事業部のサポートもありつつ、ほぼ独立独歩みたいな感じでやって、今に至るみたいなところがあるから。
面白いよね、それこそ日本でヒットするとか関係なく、「出資する側」と「若いベンチャー、プランを持ってくるやつ」がいる、この構図って世界中に通用するフォーマットで、なおかつ国ごとに位置関係が違う、みたいなことにうまくあてはめていったっていうか。それはやっぱあいつのすごいところだよね。

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吉川)ガッツありますもんね、栗原さん。ずっと暑苦しいですもんね(笑)
僕『さんま&SMAP!』のときに栗原さんの下でADやっていて、当時かわいがってもらいました。

土屋)そうなんだよ、ずっと暑苦しいんだよ(笑)
企画塾みたいなのをやったときに、栗原にゲストとして喋ってもらうと、
海外のプロデューサーから「世界中に9つの別荘もってるけど、おまえはいくつもってるんだ?」って聞かれて、「都内の賃貸マンションです」って答えたら、「面白いやつだなあ」って(笑)

吉川)それ栗さんから何回も聞かされました(笑)

土屋)一生使える持ちネタだよな。

吉川)夢ひろがりますね(笑)

土屋)じゃあ、具体的に実際に自分のフォーマットが世界に出たっていうのはないのかな?

吉川)ちょっと前にストーリーラボというアメリカの会社と組んで、海外事業部が企画募集をしました。彼らが買い手側として、企画を選んでくれたことがあって。ストーリーラボは一緒に企画を作り上げて、あちこちに売ってきた実績もある会社。
1年前ぐらいに、一緒に『9 Windows』という企画をつくりました。
コロナ真っ盛りの中、劇団ひとりさんがMCで、リモート中継で「それぞれの人が自分の芸を披露して、どれが面白かったか、面白くないやつから回線を切ってく」という番組を一緒にやったんですが、企画者として海外の人と喋るんですけど、面白がるポイントが違ったりとか、絶対に3段階審査がないとダメだとか、エピソードはこれぐらいつくらなきゃだめだとか「ああ、そういう風に考えてつくるんだ」というのが結構あったので面白かったのと、相手もイギリス、アメリカ、オランダ、シンガポールなどいろんな国の人がリモートで出てきて刺激的でした。

土屋)ただ、アメリカやイギリスの人が言ってることがさ、「それ合ってるの?」と思うことがあるじゃん(笑)。懸賞生活、海外に出させない!って言われて3年後ぐらいに、自分でアメリカに「懸賞生活」とか「アメリカ人を笑わせにいこう」とか、いくつか番組をもっていったことがあるんだよね。ケーブルテレビ局に説明しにいって。すると、向こうはアルバイトみたいなやつがでてくるんだよ。でも一生懸命説明してさ。結構みじめな思いも何度もしたなあ。

吉川)その人が決めるんですか?

土屋)たぶん、「面倒臭いやつがきたから、お前相手しとけ」ということだと思う。つい最近も、インドのNetflix的なところに行って、企画を一生懸命説明したけど「こういうのじゃないんだよね、僕たちがほしいのは」って言われて。まあいいか、カレー食えたから、と思って。

吉川)そういうこともあるんですね。

土屋)『電波少年』が、35歳のときに、初めて当てた番組なんだよね。でも社内では「あんなもんテレビじゃない」ってほんと言われんの。だから信用してないのよ、プロの目ってのを。だからね、海外のプロが「イギリスじゃこれウケませんよ」っていうのが、「それ本当に合ってるの?」っていうのがあるんだけど。
プロであればあるほど、今当たっているものとかそうでないものとか、逆に知識がありすぎて「こういうの前失敗したんだよね」ってなる。でも意外と視聴者は変わっているみたいなケースもあるからさ。
とはいいながら、その窓口がYESって言っていかないと、放送されないけどね(笑)

吉川)はい。

加速する変化

土屋)ちょっと違う話をすると、懸賞生活はイギリスで大人気なんだよ。違法にYoutubeに字幕つけて上げたやつがいて、ものすごくイギリスで知名度があって。それでイギリスの制作会社6~7社から、これのドキュメンタリーを制作したいというオファーがあって、実際にそのうちの1社とつくっている。だからわからないんだよね。なんであれがイギリスでウケるのかって。
「これが今ウケてることの本質ってなんだろう」というのを、今まで日本のテレビの制作者って、考えたこともないわけじゃない。でもそれが多分すごい大事になる気はするよね。なんかそのへんで思い当たることとかある?

吉川)今『I LOVE みんなのどうぶつ園』の総合演出をやっていますが、前身の『天才!志村どうぶつ園』は16年半もやった番組なので、だいたいの企画は既にやっているんですよね。

土屋)動物縛りで。

吉川)そうです。あと、その16年半の間に、ものすごく視聴者の感覚が変わってきていて、動物への見方とか全然違ってきています。
昔はわりとファンタジーが多かったんですが、今はファンタジー要素が少しでもあると、急に見てくれない。徹底的にリアリティがあるようにしないといけないのですが、動物だからそれは勿論難しくて。動物なので、どんな映像が撮れるかも毎回わからない、ただ熱いファンはいる、みたいな。ずっとニーズはあるんだろうけど、時代によって全く変わっている番組だよなあ、っていうのをすごく感じますね。

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土屋)そうなんだよな。だから最近「昔のテレビは面白かった、今はコンプラだなんだで面白くなくなった」って言われるじゃない。おれは昔のテレビの人だから、そう言ってくる人が多いんだよね。おれを気持ちよくしているつもりらしいだけど、それは違うと思うんだよな。

吉川)そうですか

土屋)テレビは、今やっているものをテレビといって、昔やってたものは、テレビって言わないんだよ、って思うのよ。
昔やってたテレビは、その頃はテレビだったんだけど、テレビってのは今やってることがテレビなんだよ、ってすごく思う。それを全部総称して、テレビって言っているんだと。
だから昔のテレビと比較することがナンセンスだし、俺が今の番組について言うことも全部間違いなんだよ。

吉川)それもなかなか極論じゃないですか(笑)

土屋)でもそれが基本だと思うんだよ。今のクリエイターが、毎週番組をつくって、毎週変わっていっている。昔ウケてたものが今はウケないってことはそういうこと。だから作り手が変わらずに、「昔からコレ鉄板だからうけるんだよ」と言って今やったら恐ろしいほど滑るんだよな。それがテレビだと思うわけ。今作ってるやつしか、正しくテレビは作れない、って最近すごい思うんだよ。

吉川)あと早くなった気がします。変わるペースが。
あ、もうこっちも嫌なのね、みたいな。もうこれも慣れたのね、みたいなことが、早いなあというか。すごく。

土屋)インターネットの影響もあると思うし、どんどん加速してる。ヒットしているメーカーは、ビジネス的には今ウケているものをなるべく持たせようとはするんだけど、ライバルは次をだすわけじゃない。みたいなところがあるので、必然的に早くなる、ということがあるのかもしれないよね。

吉川)たしかに。

土屋)自分の父親母親が、「最近のテレビって早すぎて何言ってるかわからないから見てらんない」って昔言っていて。そんなことあんのかな?って思うんだけど、Youtubeなんかみると、おれは早すぎると思うわけ。

吉川)『みんなのどうぶつ園』では地上波に加えてYoutubeチャンネルも作ったのですが、同じ素材を置くにしても、考え方が全然違うんですよ。
一時期、Youtuberの方にコンサルしてもらったのですが、もう早送り前提なんですよね。その人いわく、画面の下の再生バーに小さくでるサムネイル表示で、「テロップが面白そうかどうか」って感じで見る方もいる。
視聴維持率みたいな指標があり、それを得ることを考えていて、全く違うなと。

土屋)Youtuberが発明したんだろうけど、ジャンプカットは1秒とか2秒をつまんで、ほぼ同ポジ(被写体の位置や画角が同じであること)で。俺たちは、長いこと「同ポジ編集は絵が汚いからやっちゃだめ」って言われてきて(意図的に使うことはあるかもしれないけど)、でもYoutuberはそのコンマ数秒を待っていられなくて、ジャンプカットを使う。あれもテレビの外側から、新しいスピード感を教えられたみたいなとこもあるよな。

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吉川)Youtuberの方とロケも一緒にやったんですが、普通、タレントさんが動物に出会った時は「うわ!かわいい~」ってなって、撮り終わってから「ちょっとさっきのリアクション小さかったんでもう一回いただけますか」となるんですが、Youtuberだと、「うわ!かわいい」「いや、思ったより小さいな」「いや、かわいくないなあ」みたいなのを一連で言うんですよ。で、どれを使うかを編集の時に考える。

土屋)なるほど。

吉川)最短のパーツ撮りをしているということですね。びっくりしました。

土屋)2000年ぐらいまでは、テレビしかなかった。でも今はテレビ「も」ある時代じゃない。ってもう思いきるしかないと思うんだよな、テレビ局は。「ある映像素材があります、これをテレビ向きに編集しましょう、TikTokやYoutube向けにも編集しましょう、全部で稼ぎ高いくらになります」って、そういう風に考え方を変えないと。で、テレビ以外の割合がどんどん高くなっていって。

吉川)そうなんですよね。だから、今は収録の前に相葉さんと喋るところを撮ってYoutubeに置かせてもらって、収録本編は地上波に出して、動物の面白かったところをTikTokに出して。みたいに、同じ日でも切り分けて出していく、ということはやってますし、やらなきゃだめなんだろうなと思います。

土屋)「メインディッシュがテレビ」っていう考え方自体を変えたほうが良いと思うんだよね。全部同じだと。YoutubeもTikTokもテレビ地上波も。どこが伸びるかわからないと。俺らの世代、45歳以降はどうしても「テレビがメイン」っていうのが固まっちゃってるんだよな。でも多分その考え方は危ない。おれが電波少年をやって「そんなのテレビじゃない」と言われたのと同じように、おれたちは「そんなのテレビじゃない」って言うんだけど、そんなのテレビじゃないって言われたら勝ちなんだってとても思うよな。
よくおれは最近言っていて、でも若い人たちはなかなか出来ないんだけど、とにかく上の言うことを聞いちゃだめだよ。ましてや聞きに言っちゃダメ。「これどうでしょうか」ってさ、いかないと睨まれそうな気がして、行くだろ?で、またさ、上の人も聞かれれば何か言うし、さらには「俺にチェックさせろ」とかさ、言うじゃない。あれがダメだと思うんだよな。

吉川)なかなか僕らからはそれは言えないですけど(笑)

土屋)だから俺みたいな、日本テレビの中にいるけど外にいる人間しか言えないから言うんだけどさ。
やっぱり固定概念がどうしてもあるんだよ。おれらの上の世代がそうだったし。でもそれを壊していったから今の日本テレビがある。
こういう、おれが知ってる上の人の話ってさ、どっかで残さなきゃいけないってって思っていて。こういう対談もそうなんだけど。
俺は31~2歳で制作から編成に行ったんだけど、当時って企画募集って無かったのよ。

吉川)そうなんですか!

土屋)で、どうなっていたかというと「月曜日の7時は~さんの枠」って土地所有者の名前が書いてあるのよ。

吉川)へえええええ

土屋)「金曜日のx時は~さんの枠」「水曜日のy時は~さんの枠」っていうのが決まってるわけ。制作者の中に、土地所有者がいるわけよ。で、ある枠の視聴率が悪いと、所有者ところに行って「すみません、企画かえてもらえませんか」って編成が言うわけ。すると、「うっせえなー、なんだよ!」って言われて。「いやでも・・・」って粘ると、その人の引き出しから、「じゃあ次これやるか?」って次の企画が出てくるんだよ。そんな時代だったんだぜ。

吉川)その土地所有者さんの、次の代はどうなるんですか?

土屋)その人の子分が次の所有者になって、代々継がれるわけ。そんな前近代的なことだったんだぜ。お互いに他の枠を浸食しにいかない。「おれはここ」ってそこだけ守ってて。その時におれが編成に行って、当時の編成部長が改革をするわけ。1980年代後半。「この番組表という土地は、編成のもんだと。制作のものじゃない」と。「白紙にして、企画募集をしてやる」って言ったんだよ。
戦争だよ。本当に。制作部門が当時、麹町社屋の6Fにあって、編成部が5Fにあって、5Fと6Fが大戦争。おれが6Fなんかに行くと、制作局長から「てめえ何しに来た!!」って怒鳴られるんだぜ。おれみたいなぺーぺーの編成部員が。当時、若手で同世代の菅賢治に、「深夜にダウンタウンで一本やろうよ、企画書だしてくれよ」って言って、おれが編成で受け取って「深夜でやりましょう」ってやったもんだから、当時の制作局長に呼び出されて、「なんだおまえ、日本テレビは菅と土屋がやってんのかあああ!!!」って怒鳴られて。そんな時代もあった。

吉川)すごいですね。そんな。今だと考えられないですね。

土屋)今は毎月、企画募集してるけど。インターネットが出てきたってのは、メディア・コンテンツ業界にとって大きな変化じゃない。それに本質的についていけない俺らの世代。だから、インターネットやスマホが生まれたときからある世代にとっては、子守がYoutubeなわけだ。言葉を覚える前にYoutubeの操作を覚えるわけだ。そういう世代が、テレビ帰ってくると思うか?

吉川)なんでこの時間に帰ってみなきゃいけないんだっていう。

土屋)「7時になったらテレビの前に」なんてさ。そんな時代、ほんとにあったの?って言われちゃうよね。

吉川)僕らの世代って、今36歳で、60歳まで働くと考えても「この先20年テレビだけじゃ絶対食えないよな」って危機感があって。そういうこともあって、海外事業部も兼務もやることになったんですけど。なかなか。
ちょっと暗い気持ちになっちゃいました(笑)

土屋)それは大間違い!明るくならなきゃいけない。だってさ、おまえらにしかわからないんだから。だから、おまえたちの感覚が合ってて、上は全員間違ってるっていう。
でも、「上の世代が間違っている」っていう自覚がない人たちも若干いるからなあ。

世界に打ちのめされる!これからのクリエイターの生き方

土屋)Netflixみたいなものを見ると、もうどう考えても楽しさしかないじゃん。『イカゲーム』見た?

吉川)見ました

土屋)『地獄が呼んでいる』見た?

吉川)見てないです

土屋)遅れてるなお前(笑)

吉川)すぐ見ます(笑)

土屋)この2本を見たら、もうなんというか、打ちのめされてほんとに世界のクリエイティブの中心は韓国だろうと思うよね。「今からでも潜りこめないかな」って思うぐらい、打ちのめされるよ。
最初に来た韓国ドラマ『冬のソナタ』、あれもう20年近く前にならない?

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吉川)僕入社して最初の番組で、韓国ロケに行ってチェジウさんに会ったので、14~5年前ですかね。
※日本で放映されたのは2003~2004年にかけて

土屋)その時にさ、日本でウケるのはおばさんたちなわけじゃん。おばさんたちが、日本のドラマがどんどん新しくなっちゃうから、昔の日本のドラマみたいなスピードと展開が良いと。「今の日本のドラマは新しい」「韓国ドラマは遅れてる」ってずっと日本のドラマ制作者たちはずっとそのことを信じてたんだよ。そしたらいつのまにか抜かれてたね。
でも面白いなと思うのは、『イカゲーム』もさ、監督が8年ぐらい前に、食えなくて漫画喫茶かなんかにいたときに、脚本を書いたっていう。一発当てて、彼も間違いなく数億円プレーヤーでしょ。下手すりゃ10億以上、次のシリーズでもらえてもおかしくないわけだから。

吉川)それこそ別荘が何軒も建つみたいな。

土屋)一発世界に向けて当てさえすれば、っていう時代がきている。

吉川)それを見ちゃうとだから、もう若い子が、作りたい子が、そっちにいきたくなりますよね。

土屋)でもその勉強をどこでするかっていうと、日本にいる限りはテレビ局が良いんだよ。プロ野球に例えると、セリーグパリーグがあって、大谷はメジャーリーグにいくわけだよ。で何十億もらうわけじゃん。でも日本のプロ野球はなくならない。だから日本テレビはなくならないけど、そこから出るスタープレーヤーが、Netflixにいくんだと。でNetflixにいくときに「行くんだったら10億置いていけ」っていう契約にするのかさ(笑)

吉川)ポスティング制度みたいな。

土屋)そうそう。その契約を人事は考えるべきだよな。入社のときに「何年以内に、ポスティングで移籍するときは、10億置いていけ」なのか「在籍したまま契約金の30%を5年間日本テレビにいれる契約にする」とかさ。

吉川)確かに、セリーグパリーグと考えれば。

土屋)多分そうだと思うよ。そのほうが健全じゃない。今の高校野球やってる子たちだってさ、間違いなく最終的にはメジャーに行きたいって思うわけでさ。でもいきなり行こうとするやつもそんなにいなくて。日本で活躍してから行こう、というわけだからさ。そのチョイスとして、日本テレビを通過してもらって。

吉川)なんか寂しい感じがしますけどね。

土屋)さらに下の人からしたら、それがずれてるんだと思う。これから入るやつはそういうやつら。その目線でこれから入ってくるやつを育てて、それで30%とって。そういう目線で選んでさらに育てるのが正しい気がする。
世の中が変わる気がするね。

吉川)そうですね。

土屋)もう14年ぐらいこの会社にいるんだろ。ちょっと汚れてるんだよ心と目が。

吉川)そうですね。この10年ちょっとで確かに、染まってしまったんですかね。

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土屋)またおれ使えない話しているかな(笑)

吉川)僕らの世代は、最後のテレビがっつり世代かもしれないとは思っていて、最初にどろんこのADをやって、本当にしんどい思いをしつつ、すごくいろんな経験をさせてもらって、テレビをつくってきて、今もテレビをつくっているっていう。ある意味、僕らの世代が一番難しいのかもしれないですね。

土屋)その分だけ、違いがわかるじゃない。今の20代に比べて、違いがわかるってことがすごく大きいんだよ。おれらは違いがわからないから、みんな最終的にはこっちに来るんだっていうぐらいだけど。違いがわかるっていうだけで全然違うし。

吉川)なんかカウンセリングまでしてもらえるんですね(笑)。将来を悩むテレビマンのカウンセリングを。
番組をつくっているのは楽しいですけど、地上波という場所はもらってるからちゃんと楽しめているし、一方でYoutubeとか、別のプラットフォームでつくるとか、海外に向けてつくるとかあるので。前はもう、日テレがテレビ局の中では強いので、企画を出しても「どの放送枠もみんな強い」みたいな感じだったので、どこに持ってけばいいんだ、みたいな気持ちが強かったですけど。やれる場所が増えたな、という感じだったり。
あと海外の人たちは、ほんとシンプルに「面白いかどうか」で話をしている、そのあとエピソードがどうのって話は出てくるけど、最初はピュアでいいなって思えたりもするので。

土屋)でもさ、アメリカとヨーロッパも違うし、ヨーロッパの中でも細かく違う、アジアも全然違うし。

吉川)そうですね、僕も何本か企画出しましたけど、どれもアジアというより、欧米系が多かったですね。わりと感覚でいうとアジアのほうが近いなと思ってたんですけど。そこは意外と違いますね。

土屋)そっちのほうが商売になるからいいよな。東南アジアは恐ろしいほど安いからな。

吉川)東南アジアのYoutubeの広告とか驚くほど安いんですよね。そっちで回ってもなかなか収入にならない、っていう。

土屋)『電波少年』で3本目のヒッチハイクをパンヤオ(香港人のチューヤンと伊藤高史)でやって、とにかく香港で放送したいと。で、香港に行って当時の2大局、ATVとBTVと両方行って
「とにかく放送してください、香港のバラエティ番組のワンコーナーで」「でもお金ないよ」「いくらでもいいです」「じゃあいくらなの?」「じゃあ一本一万円で」
っていって1万円で売ってきた(笑)
でレギュラーで全部放送されて。当時はテープで送って、向こうで中国語の吹き替えで放送したから、今でもチューヤンは香港で有名なんだよ。ていう時代だったから。まあ君も海外事業部とやるのもいいけど。結局最終的には一人で何やるかだよ。結局、走れば一緒に動いてくれるけど「いつ走ってくれるでしょうか」ってやってると誰も動いてくれない。

吉川)そうか~突破力だな~。
いや、やっと少しづつ緊張がとけてきました(笑)

土屋)なんか質問とかある?リラックスしたところで。

吉川)そうですね。もし土屋さんが僕の年齢、36歳で今のテレビのディレクターをやっていたら、何をやりますか?どういうことをやりたいですか?

土屋)どういうことをやりたいか・・・

吉川)やり残したことありますか?

土屋)やり残したことはないんだけど、今やりたいことがたくさんある。「あのときこれやっとけばよかったな」ってことは無い。
とりあえず今はメタバースが面白そうじゃん?

吉川)そういう感じなんですね!

土屋)メタバースといえば、セカンドライフの世界上でレギュラー番組をやったのが15年前かな。半年間、おれのアバターと千原ジュニアと馬場典子と矢部太郎でレギュラーやってたからね。それから3Dスキャンでイベントやったりとか、「1964 TOKYO VR」で昔の街をつくったりとかやってる。
「メタバース上で何ができるのかな」というところが面白そう。

大事なのは、視聴者を裏切り続けること

吉川)話は変わるんですが、『電波少年』をやっているときに、他の番組って見てたんですか?

土屋)全く見てなかった。だいたいわかるじゃない、今どんなことやってるか。本当に面白かったら聞こえてくるから、それは見なきゃいけないと思うんだけど。
これは師匠によるんだよな。おれの師匠のテリー伊藤と萩本欽一は、テレビ見ない人たちだったんだよね。で、たまに人のテレビ見て笑ってると後ろからぶん殴られたからね。「おまえ悔しくないのか」って(笑)。って伊藤さんから言われたし、欽ちゃんは人のテレビをみて面白かったらパクりたくなるからやらないんだって。だからテレビを見ない派なんだよね。
一方で五味とかは、分析派だからさ、テレビ見る派なんだよな。だから今の日本テレビはテレビ見る派が大勢を占めてるんだけどさ。よく「土屋さんテレビ見なさいよ」って怒られるんだけどさ、おれは見ない。話題になってからみて、なるほどなって。基本的には面白いと思わないから(笑)。「なるほどね~がんばってるじゃん」って。そういう自己中心的な見方をしている。

吉川)レギュラーを持つようになって違ったので。特番でゴールデンをやらせてもらうことはあったのですが、レギュラーで戦っていくのはまた違う世界になったなあと思ったので、どんな景色だったのかなと。変わっていくので、企画もどんどん投げて試行錯誤しながらやっているのですが、土屋さんはどういう考えでやっていたのかなって。

土屋)とにかく客より前に行く、とにかく裏切っていく。一番典型的に感じたのは、実は『電波少年』の視聴率が上がっていったのが、猿岩石のゴール後なんだよ。

吉川)え、そうなんですか?

土屋)それまでのアポなし時代って、話題にはなるんだけど、マニアだけのものというか。世代でいうと13-15歳ぐらいが中心で、その後から猿岩石のゴールがあって。そのゴールを感動のゴールじゃなくしたんだよね。
ゴールしてるのに「はいはい次は南北(アメリカ横断)行って」っていって放送中に千本の抗議電話がかかってくるみたいな。

吉川)はははは(笑)

土屋)そのあたりで、体感的に「なるほどな」と思ったんだよ。想像を越え続けないと視聴率は上がらない。あのとき普通に感動させたら、そこはみんな納得して「よかったよかった」といって一緒に泣いて、視聴率もそこそこ良かったんだと思うんだけど。
ちょうどインターネットも出てきたときで、「こいつら目を離したら何するかわかんない」ってネットに書き込まれるようになったわけ。「電波少年だけは毎週なにがおこるかわからないから見なきゃ」って。

吉川)なるほど

土屋)といわれて、そこから(世帯視聴率)30%まで駆け上がるわけだよ。だから想像を越えることを猿岩石でやって、ドロンズまでいった、「さあ次は誰だ」ってなったときに、日本人と中国人だったり、旅ものかと思ったら部屋物でなすびが全裸で出てきたりとか、とにかく視聴者の想像を裏切り続ける。で、男だけかなとおもったら、15少女が出てきたり、無名ばかりかとおもったら松本人志が出てきたり。
想像を越えていかないと数字が上がらないというのが、おれのひとつのテレビのつくりかた、ということだよね。裏切り、というところが一つの指針だから、人の番組を見ている暇がないのよ。自分がやっている放送の中にしか、ヒントがないと思ってるから、そこだけ見てるんだよね。自分の番組の中の、四隅までみて、素材まで全部見て、ヒントってこの中にあるんだろうなと思って、ずっと見てた。この中にしかないんだよね、次の変わるヒントって。

吉川)なるほどですね。逆に、土屋さんが良くなかったときとかどう考えてたのかな、とか、率直に聞きたかったりします。

土屋)それこそ1.4%とってたときって、客が離れてるのがわかるんだよね、つくりながら。「これ見ないよなあ」って。あとはその部分部分、パーツは面白いのかもしれないけど、全体として、だいたいその時のコンセプトが、「TBSのたけし城パクれ」っていう感じで・・・「パクってんのばれてるよなあ」って。パクってるもの見るやついないじゃない。パクってるフレームの中でいくら面白くしたって、見てくれないよね。
今のテレビって、「なんか見たことある」って言われちゃうじゃない。その段階ですでに視聴者は離れちゃってるよね。
電波少年ってアポなしをやった瞬間に「これ見たことないぞ」って客が前に乗り出すのを感じたもんね。その客の息みたいなものを感じるか感じないか、だと思うんだよな。

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吉川)なるほど。ちょっと、がんばろ(笑)

土屋)テレビの客と、TikTokの客と、Youtubeの客は、ぜんぶ客の息遣いが違う。そこがわかるのが今のテレビの作り手なわけだから。

吉川)一番TikTokがわからないですね。Youtubeはなんとなく、おかげさまで登録者数も増えてきたんですが、TikTokはわからないですね。

土屋)TikTokだってさ、一番あたってる日本の芸人、面白くもなんともないもんな。

吉川)ははは、そうなんですよね。わからないですね。

土屋)でもさ、なんていうか、ああいうこと、そういう面白くもなんともないことを、一回かけてみるとか、そういうシリーズをつくってみる手は、作り手としては、そこに糸をたらすってことだからさ、やっても面白いかもしれないね。トップの人はフォロワーが1000万いるわけでしょ。Youtubeのヒカキンを抜いているわけだけど、恐ろしく面白くないもんな。気絶するほど面白くないんだもん。

吉川)でもすごいですよね、あんなに見られるんだっていう。感覚が違う層がいっぱいいるから。

土屋)でもリソースはあるというか、素材はあるわけじゃない。その中でできることを試してみるのは良いのでは。

吉川)一番楽しい実験場ですよね。ああこれウケるんだ、ウケないんだって。

土屋)テレビの視聴率って莫大だからさ、上がり下がりが穏やか。でもYoutubeの再生数って極端じゃない。

吉川)そうなんですよね、前160万回まわって、次が10万回で、あれ?次7000回だぞ?うーんっていうのが、無茶苦茶あるので・・・

土屋)アナリティクスみたいにもあるけど、今おれも『電波少年W』(~2021年末)をYoutubeでもやってるから、それの再生数がさ。出川哲朗の回よりも、菅賢治のほうがまわったりするわけよ。「出川哲朗をキャスティングするのに三か月前からやっているのに、前の週に電話かけた菅賢治が抜くってどういうことなんだよ」って。で、キングコングの西野とかいきそうな気がするじゃん。これがいかないんだよな。だからやってみないとわからない。


吉川)
もっと気軽にチャレンジできるから面白いものが生まれてるという感じはしますね。とりあえずやってみようがあるから、面白いものが生まれている。とりあえずやってみようが少なくなっている気はします。

なんか意外でした、土屋さんは他の番組を見ずにつくってたんですね。僕は最近めっちゃ見るようになりました。どっちなんだろうなと思い始めて。

土屋)自分のスタイルだからね。正解はないと思うんだけど、見なきゃだめだは無いと思う。俺は見ない派で、全録機を持っているので、話題のものは見る。「こういうことがウケてるのか」とか。
あとは自分の番組をやっていて、その中で発見すること。自分の番組を収録しながら、「自分がこのぐらい笑うだろうなと思ったら客が意外と笑わらなかった」「自分がそんなにウケないとおもっていたことがウケた」とかいうことのズレをみて自分を調整していくみたいな。
編集しながら客の笑い声が聞こえるか聞こえないか、そういうのはやってたね。

吉川)今は客が入れられないというのが辛いですね、少ずつ戻ってきましたけど。

土屋)あれはすごい大事だと思う。

吉川)収録の反応というか。

土屋)チューニングって毎週どんどんずれていくから。そこをやらないと、編集ができなくなってくる。間がわからなくなってくる。
あとなんか聞いてくれよ(笑) 

吉川)聞きたいことなんだろうな、ほんとだったらあれですね、番組みてもらってどうですかって聞きたいぐらいですけど。それは別で(笑)

土屋)映像おくってもらえれば、遠慮会釈のない感想を言います(笑)

チェックしすぎる上の世代と、聞きすぎる下の世代

吉川)なんか今の僕らとか、もうちょっと下の日テレのクリエイターを見て、どう思ってます?こんなことが足りないんじゃないかとか。

土屋)上に聞きすぎ
会社のシステム自体がそうなんだけど、「これってやっていいですか、大丈夫ですか」って聞きにいかなきゃいけない。おれの時代って、下見があった番組もあるけど、おれは一切下見をさせなかったから、そのかわりトラブルも多いんだけど・・・っていうほど多くないんだよね。だから、これはもう君らの問題じゃなくて、チェックしすぎ。これは日本の生産性を下げてる最大の要因だし、特に番組って、ファイルでどんどん送っていけるから「ちょっと見といてください」って言えるじゃない。で、見るとさ、日本人て真面目だから何か言うんだよ。で自分の立場的に「これはいかがかなと思いますよ」と言われちゃうと、なんか反応しなきゃいけない。 
モノをつくるってもっと荒っぽいことで、視聴者に届けるっていうことって、当然のことながら、面白いという人とそうでない人が両方いて当たり前なのに。
これはテレビ全体の問題だけど、「なにひとつ問題のない番組」ってあるかのようにみんな思ってる。そんなものってつくらせたって意味ないんだよ。必ず「あれはいかがなものか」っていうやつがいるんだから。それを対応するかしないか。それに対して「いや、面白いっていう人の方が圧倒的だからいいんです」っていう。それは本当に日本テレビの問題であり、日本の企業の問題でもあると思う。だから、炎上を怖がる。炎上ってさ、日本の言葉なんだよね。アメリカって別に、「そういう意見ももちろんあるでしょうね」っていう。それは何とかしないとやばいだろうなって。

吉川)なるほど。
話は変わりますが、土屋さん的に良いプロデューサー(以下、P)ってどんな人だと思いますか?電波少年やってたときも色々なPがいたと思いますし、相性もあると思うんですけど。そんなにたくさんPと組んだことないので、どんなPがいいのか、という。

土屋)俺はもうひどいからね。Pが使っちゃダメって言った素材をロッカーにしまうじゃない。そのカギを壊して出して、放送しちゃう、みたいなことやってた人間だから。そのときのPは本当に悲しそうな顔してたよ。あきらめと悲しみの顔を。

吉川)はははは(笑)

土屋)「こういうことをやりたいと思います」と当時のPに言うと、「土屋がそういうんだったらやればいい、何かあったら責任はとる」って言ってくれるわけだよ。でも聞いちゃったからCP(=チーフプロデューサー)に言うじゃない。「何かあったらPが責任とりますので、やらせます」って。
で、CPは聞いたからには局次長に言う。
で、「許可は出しましたけど一応報告します」って、局長に言う。
で、局長が「ちょっとまて、そんなんダメに決まってるだろ、ちょっと土屋呼べ」っていわれて、ダメだよって言われる。
「責任とるからやれ」って言う善意の人が3人いるんだけど、どっかで会社っていうのはダメが出る。それから、「言わない」になったんだよね。「言わない」にまずなるだろ。言わないでやっていくと、そのうち営業や報道から、アポなしやってると、「おまえなにやってるんだ」って言われるわけ。
実際、局長から「どういうつもりなんだ」って言われて。そこで「わかりました、じゃあやめましょうよ。今週ももうやりませんから、好きなもの流してください」って。

吉川)ははは(笑)

土屋)今考えるとすごいよな(笑)。で、「おまえ、そういうことじゃないんだ。怒られて、わかりましたすみません、て反省して、こうやって土屋も反省してますのでって収まる、これが会社なんだよ」って教わるわけだよ。そこから、「土屋に言ってもしょうがない」となって何も言われなくなった。でも視聴率は取り続ける。

これからやりたいこと

土屋)おれの年齢まで働くとすると、あと30年ある。これからどんなことがやりたい?

吉川)いま、新人漫画家を募集して漫画をつくるという企画をやっていまして。ストーリーをプロが考え、絵を新人作家が描くという、パートナー方式。

『金田一少年の事件簿』『デスノート』や『約束のネバーランド』もストーリーと絵を描く人が別だったり。
もともと漫画家って、シンガーソングライター的な、「話も絵も全部やりたい」という人が多いイメージだったのですが、意外とそうでもなくて。「絵は描きたいけどストーリーは思いつかない」という人もいるようで。
そこに向けて、ストーリーをプロが考えて、新人漫画家を大募集し、オーディションをして、勝ち残った人が漫画を描く。

土屋)その過程を番組にすると。

吉川)そうですね、制作過程は地味なんですが、本当にわくわくしたんですよね。新人の漫画家たちが、課題ごとに絵を仕上げてくるときの「ああこんな絵にするんだ」ということだったり、原作の人が「ああこんな課題出すんだ」とか、そういう「何か創っている場面や、人間が出るとこを撮る」っていうのを、やってみたいなと思っていて。で、僕が一番最初に、そこそこできたなって思う企画が、『ダイエット・ヴィレッジ』っていう企画で。

土屋)はいはい。

吉川)それはゴールデンで7~8回やらせてもらったんですけど。太っている人たちを8人集めて、一か月間合宿し、合計で100kg痩せる企画。なので一人が20kg痩せてもいいし、一人8kgしか痩せなくてもいいけど、連帯責任になるという。
いろんな人間ドラマがある企画なんですが、これが自分のスタートであることも含めて、やっぱり人間を撮るのが好きなんだなとか、人間が出る、人柄がなんかの拍子に出てくる、というのが一番面白いんじゃないかな、と思っていて。動物番組も、動物も真摯に撮りつつ、そこに触れている人が出てくると、さらに面白くなると思っていて。で、そういう場面はさっきの話のYoutubeでも、TikTokでも、うけると思うんですよ。だから、「人を撮る」ものを、どんなプラットフォーム向けにも創れるようなディレクターになりたいなと思っています。

土屋)昔気質だね(笑)
おれもその病気が高じちゃってさ、なすびの懸賞生活みたいなことやっちゃうわけだ。究極の追い込みで生まれる「生への執着」みたいな。
時代によって、出し方が違うとか、テンポが違うとか、出る人間自体も変わる、でも「人を撮る」というのは多分ずっと同じ、ってことなんだろうな。

吉川)『イカゲーム』も、「だるまさんがころんだ」が面白いわけじゃなくて、人間味が出るところが良いわけで。視聴スタイルは変わってきているのですが、結局そこが面白いということは変わらないので、そこをちゃんと撮れるように、調理できるようになっていきたいと思ってやってますね。

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土屋)そこの調理の仕方、ジャンプカットを厭わずにやるとか、尺の縮め方とか、1.4倍速再生にも耐えるとか、そういう部分が重要なんだろうな。時代が進んでいく中で、人間の切り取り方とか、追い込み方も違うだろうし。

吉川)ちょっと僕もそうなんですけど、テレビのディレクターって若干卑屈になっている気がして。古いメディアの最前線にいる人間というか。ただ、一番引き出しが多いなと思っていて、一番マスに向けて作っているから、出口としては最終的にNetflixとかがすごいのかもしれませんが、映像を創るという点では、僕らはできるんだろうなと思い直していて。ただ思い切りの良さが僕らにはなくなってきている気がして、「そこそこをとりにいく」とか「3層(50歳以上の視聴者)をとりにいく」とか、そういうことじゃないんだろうなと。とはいえ毎週毎週視聴率があるので、考えちゃうんですけど。そこを思い切りやれるようにしたいなあと思ったりしますね。

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土屋)ひとつの映像素材、企画があって、それを日本の地上波に出します、Youtubeに出します、さらにNetflixにも渡します、別にNetflixがメインとかでもなくて。それが多分、何年後かの正しいものの作り方で、当然のことながらYoutubeしかやってない人たちはテレビの作り方は知らないわけだから。テレビもできるが、NetflixもDisney+もできる。視聴者の違いもアナリティクスを理解して、体感的にわかるようになる、というかわかるべきなんだろうな。で、プラットフォームごとに違う切り出し方ができて。ということができたら多分オールマイティ。

吉川)おばあちゃんから子供まで笑わせられるのって、多分僕らだけだと思うので。ただ、「みんなが喜ぶだろうと思って、結果誰にもささってない」ものにならないように気を付けないといけない。なので、地上波のゴールデン帯の番組を頑張りつつ、別のプロジェクトを持つ、っていうのは、メンタル的にも良いバランス。後輩なんかはまだ、別の何かを持てていなかったりすると思うので、そういう別のチャンスがあればよいなと思います。

土屋)その別のところっていうのが、海外事業部のことだよね。
そういえば、テレ朝に動画制作部みたいなところができたらしいんだよね。そこはYoutubeをつくるとことらしいんだよ。そういうところができて、番組制作部門と兼務して、それなりのそこのプロになって、この素材だったら、うちだとこう切り出します、っていうのをテレビでやってるやつと一緒になってやればいいんだよね。

命を削れる場をどうつくるか

吉川)2021年の『THE W』もちょこちょこ変えていまして。TikTokでの展開や、ファイナリストを集めたイベントをやったり、色んな切り出し方をしていくので、ほんとに全部の番組がそうなっていくんだなと。

土屋)そうなるべきだよね。そのモデルを『THE W』がやればいいというか。それを見て、こうやればいいんだ、ってなればいいなと思う。
『THE W』の本質って、1年かけてきて、ここで本気で勝ちたい、と思っている芸人。『M-1』では、芸人が「松本人志に笑ってほしい、高い点数を松本さんにつけてほしい」って命削ってくるわけじゃない。命削る人間がいるかどうかが大前提、それで切り出すところが違う、ってことだよね。

吉川)そうですね、真剣になれる場、命削れる場をどうつくるか。と切り出し方。なんか色々できるからトータルでみると楽しい未来なんですよね。色々つくれるっていう。

土屋)一番大事なのは、「控室をどういう環境にしてあげるか」とか、大部屋でも仕切ってあげるのかとか、直前のネタ合わせはどういうかたちでさせてあげて、本当に自分たちが力を出し切れる状態にどうやってするか。そういう裏の演出をちゃんと出来ているかどうかによって、やっぱ見てるとさ、明らかに本調子じゃない、ぐちゃぐちゃのコンディションで出てくる子たちがいるじゃない。あれってもう、主催の演出者の責任。それはやってあげないと。

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吉川)今回で5年目になるんですけど、少しずつブラッシュアップはできている気がします。

土屋)そこがやれてるかやれてないかが、実は良いコンテンツを、撮るための真理だからね。各局のお笑いの賞レースがそういう意味でブラッシュアップされて、何年か前はひどかったけど、良くなってきている。というのはそれなりに、みんなノウハウを積み重ねてきているから、ということだとおもうんだよね。

吉川)リハーサルとかも、『キングオブコント』さんがこういう風にやっていると聞いて、やり方を変えたりとか、そういうことは色々リサーチしたりしてますね。

土屋)後発なんだから、そういうのを良い意味で盗んで、悪い意味でパクるんじゃなくて。本質的なことを、何をケアするべきか、やっていくべきだよね。

吉川)アンガールズ田中さんに審査員をお願いした時に言われたのが「前の人の審査ボタンが見える時がある」と。
「もちろん見ないようにはしてますし判断に影響ないんですが、見えないようにちゃんとカバーつけてほしい」と言われて、そういう小さいことからなんだなとか。いつまでもブラッシュアップって必要なんだなと思いました。

土屋)それをちゃんとやれてるかやれてないかで、審査員も真剣になるし、「あ、このひとたちわかってるな」って信頼関係が成り立ってるから、その番組が成り立つってこともあるよね。

吉川)クレーンカメラで俯瞰の映像を撮るとき、「僕らの手もと見えてないですよね」って言われて。もちろん見えてないんですけど、そんなところも気になるんだって思いましたね。10年続く大会にしなきゃいけないので。

土屋)「神は細部に宿る」って昔から言われているけど、そこをちゃんとやりきった上で、出口を変えて、ちゃんとものをつくっていくっていう。まあ大変な時代にはなっていくんだろうけど、逆にテレビやクリエイターがはじめて出会う時代でもあるわけだから、面白いといえば面白い。

吉川)20代のクリエイターが土屋さんとしゃべるのがいいのかなと思いました。後輩の話で気になったのが、せっかく初めて自分の企画をやれた時、「そんなに楽しくない」と。「いろいろ言われるし、予算の限界もあるし、自分の描いていた企画書から変わっていくのが、あんまり楽しくない」って考えてしまう若手の子がいる、みたいな話を耳にして。
僕はめっちゃ楽しかったんですよ、自分のチームつくれて、自分の書いたところとやって。でも、その子たちはそういう風に思ってるんだとか、「将来予算が減るだろうから、もっと自分のやりたいことってできなくなるんじゃないですかね」って心配していたりとか。
そうじゃないんだよっていうことと、お金も儲かれば使えるってことを、それこそレジェンドに言ってもらえると違うだろうし、と思って。

土屋)そうだよね、ほかの収入口が複数出てくる、ということをやってったら、先細るんじゃなくて逆に増えていく、ということを考えると、今が分かれ目。そうしてもらわないと困るし(笑)

吉川)あとは僕らが言っても会社に引き留めてるだけのように聞こえるので(笑)

土屋)おれもそうやって言わなきゃいけないと思うと、妙に硬くなってとってつけたようになってしまうかもしれないけど(笑)

吉川)そういう企画も面白いかもですね。

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