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台湾経済の現状と展望

ハイテク依存度が高いために不安定化

経済成長率の振幅が大きくなっている


 台湾経済は、コロナ禍の初期においては、デジタル機器の需要増、そして半導体の需要増によって、相対的に高い成長率を記録した。実質GDP成長率は、2020年が3.4%となり、前年の3.1%をむしろ上回った。2021年にはさらに加速して、実質GDP成長率は、6.6%に達している。
 いわゆる巣ごもり需要が発生することで、PCなどのデジタル機器の需要が世界的に拡大し、台湾のハイテク産業は、潤ったとされる。実際、鉱工業生産指数の伸び率は、コロナ前の2019年が1.4%に過ぎなかったのに対して、2020年は7.0%、2021年は12.9%となっている。ハイテク製造業の伸びに支えられて、2021年までの台湾経済は、好調だったと評価される。
 しかし、台湾のハイテク産業が好調を維持したのは、2022年の半ばまでであった。半導体産業は、輸出を主導する存在だが、コロナによる巣ごもり特需が剥げ落ちた、2022年後半からは、急減速を余儀なくされた。輸出額の4割程度を占める中国が、ゼロコロナ政策の影響などから経済活動のペースを急低下させたことも響いたようだ。
 2022年の実質GDP成長率は、速報段階で、前年比2.43%にとどまっている。とりわけ、10-12月期においては、マイナス0.86%となり、四半期ベースでは、約7年振りにマイナス成長となっている。台湾政府は、2023年度の見通しについても、2.12%にとどまると見ており、低成長が続く見通しになっている。

ハイテク依存度が高いことが大きい

 このように、台湾の経済成長率は、激しく上下している。その主たる原因として、経済に占めるハイテク産業の存在が大きいことが挙げられる。
 台湾の主要ハイテク製造業19社ベースの月次売上高を見ると、2022年11月前年比8.1%減、12月前年比13.9%減と2か月連続で前年比マイナス成長となっている。しかしながら、2023年1月には前年比11.6%増と、二桁のプラス成長に回帰しており、その振幅は非常に大きくなっている。とりわけ、iPhoneの製造を受託している鴻海(ホンハイ)は、極端に売り上げ変動が激しくなっている。やはり、中国の経済活動の状況が大きく影響しているためであろう。ゼロコロナ政策で製造が滞り、ゼロコロナ解除で、動き出すといったことだろうと推察される。
 ただ、主要19社のうち14社は前年比減少となっているのは、見落としてはならない事実である。世界経済の減速傾向が、アメリカ等の巨大IT企業の事業活動を抑制させ、それが台湾のハイテク製造業にも影響しているものと見られる。
 台湾は、ハイテク主導の経済構造になっているが、鴻海のように実際の製造工程の主力工場は、中国本土に置いているケースも多々ある。中国の政策次第で、台湾の経済活動にも大きな影響が生じる点は、要注意ではある。

シリコンサイクルの影響


 半導体関連産業は、台湾経済にとって、非常に重要な存在である。半導体産業においては、シリコンサイクルと呼ばれる、好不況の波が存在している。グラフに示す通り、シリコンサイクルの好不況の波は、基本的に激しいものがある。
 台湾経済は、いわば、シリコンサイクルの波に翻弄されてきた。シリコンサイクルが上向きであれば、追い風になるが、下向きになった場合は、非常に厳しい経済環境になる。
 今後についても、シリコンサイクルをどのように予想するかによって、台湾経済の先行きに対する見方が変わってくる。2020年から2021年にかけては、コロナ特需によって、世界の半導体需要が拡大し、シリコンサイクルも大きく上昇している。しかしながら、2022年には後半から急減速し、2023年の見通しは、マイナスに転じている。2023年の台湾経済の見通しが、あまり芳しくないのは、シリコンサイクルの影響が大きいものと見られる。

地政学的リスクは意識せざるを得ない

 中国の影響は、経済面にとどまらない。より深刻な影響が懸念されるのは、東アジアにおける地政学的リスクの増大である。中国の事実上の独裁者である習近平は、台湾を統合することに関して、極めて強い意欲を示している。そして、武力行使をも辞さずという姿勢も表明している点が懸念される。
 今すぐにではないとしても、2027年までには、何らかの軍事的行動を実行する可能性が高いと見られている。あくまでも可能性の段階ではあるが、中国の軍備の状況などから、今後数年以内に、離島への上陸など、限定的な軍事行動が可能になると推定している。もちろん、実行可能だからといって、即実行するわけではないのも事実で、様々な状況変化によって、全く違った局面に至ることもあり得る。ただし、中国としても、アメリカ等と全面的な戦争状態に至ることは回避するだろうと考えられるため、中国による台湾本島への、全面的な軍事侵攻の可能性は高くないと見られる。


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