展覧会記録#01 個人出版の展示【SSPP】
東京都新宿区・theca (コ本や honkbooks) で開催された 【SSPP (Small Scale Playing Press) 】にお邪魔しました。
出展者は、グラフィックデザインや出版のお仕事をしながら、個人で出版の活動をされている4組のメンバーです。
タイトルの"Small Scale Playing Press"は、「小規模の出版(印刷)」を表しますが、"Playing"とはどういう意味だろう?と考えました。
展覧会のハンドアウトによると、"Playing"には「実験性や探究性を帯びた『真剣な遊び』」というニュアンスがあるそうです。
出版や印刷を楽しみながら、真摯に探究する。
制作された本を手に取ってみたら、「本は読むためのもの」という考え方が覆りました。
「本」が先にあるのではなく、「こういう表現がしたい」という意欲が先にある。「表現を形にする方法として最適なのが本だった」という順番なのだと理解しました。
出展された4組のメンバーは以下の通りです。
展示されていた本の紹介
展示されていたすべての本を掲載したいのですが、今回は私が購入させていただいた本をご紹介します。
(以前購入した本も含みます。本当は展示されている本を全部購入したかった…)
text,(橋詰冬樹さん+橋詰ひとみさん)"true noon"
"true noon"は、アートユニット・O'Tru no Trus(オートゥルノトゥルス)の作品や日々の暮らしをテーマに制作された本です。O'Tru no Trusは、海辺の漂着物と金工を組み合わせて作品を制作されている方々です。
こちらの本は、通常は廃棄されるテストプリントを表紙に用いたり、波や浜辺の境界線を描いたスリーブを付けたりと、こだわりがひとつずつ折り重なって出来上がっています。
アーティストの思想や制作に対する姿勢を形にするだけでなく、デザイナーであるご自身が解釈したことを、本の細部まで緻密に表現されていると感じました。
単なる作品集ではなく、アーティストの言葉や暮らしを織り交ぜることで、その土地や生活をも浮かび上がらせます。本を開くと波の音が聞こえ、ページをめくるたび自分もその場所を訪れているかのように錯覚するのです。
漂着物は、たとえ量産された工業製品であっても、海を渡ることで原型を失います。
"true noon"は、「一点ものの複製物」をテーマに制作されたそうです。このテーマは、漂着物の特徴を内包しているように思います。
表紙の印刷やスリーブの加工に変化を付けるなど、ひとつとして同じ本は存在しません。
「一冊の本が、思想や暮らしを形として出現させるのか」と衝撃を受けました。本の概念が覆った一冊です。
△□(三上悠里さん+保田卓也さん)『色の本2』
『色の本2』は、グラフィクデザイナーの保田卓也さんが制作された本で、色の印刷見本帳シリーズの2冊目です。
ブルーの色相に特化した見本帳ですが、単純に色を選ぶための本ではありません。
色をどのように並べるか、どんな順番で掲載するか…。
保田さんが持っていらっしゃる編集の力と、色に関する歴史的な考察力に圧倒されました。
例えば、ブルーは空や水など触れられないものが持つ色でもあります。ブルーは特別な色だと思ってしまいますが、江戸時代以降に濃藍色が庶民の色として親しまれたり、ブルージーンズが世界各国で受け入れられたりと、身近な色でもあるのだと知りました。
(参考:『色の本2』付録「『色の本2』をつくりながら考えたこと」)
保田さんは、人々がブルーとどのように関わってきたのか、ブルーが私たちに与える印象は何なのかを注意深く考察し、『色の本2』を制作されたのだと感じました。
自分がいかに色に対して無頓着だったかを思い知り、周りの色をもっと観察しようと考えた一冊です。
本は身体とコミュニケーションするメディア
私は読書が好きで、日常的に本に触れていますが、本=情報として文章をただ眺めていただけでした。
展覧会で本を手に取った時、自然と五感がフル稼働していると気がつきました。本は手に持てる(触れられる)、ページをめくる音を聴く、目でとらえた情報からイメージを膨らませる…。
「本は身体とコミュニケーションするメディア」だと感じます。
本を身体全体で知覚することを疎かにしていたと自省しました。
こちらの記事でご紹介した"true noon"や『色の本2』は、思想を本という形にし、触れられる(知覚できる)ようにしていると感じます。
また、形として取り出された思想を、自分なりに丁寧に読み解いていこうと思えた展覧会でした。
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