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『MAC会議』 明治産業社員が自分たちで企画・実施するアート活動

株式会社明治産業では 2023年3月より「MAC会議」と呼ばれる、社員たち自らが企画・実施する独自のアート活動が行われています。

「全社的な文化芸術・地域活動の取組」そして「各社員の経験獲得と創造力の向上」を目的として始まったこの活動。Meiji Art Culture(明治産業・アート・カルチャー)の頭文字からなる名称の通り、アートのプロや専門家に頼って任せるのではなく、まず自分たちなりに考え、調べ、共有し合いながらアートの面白さを模索することに重心が置かれています。
そうして社員同士が楽しみながら活動を重ねていくうちに、社内には早くも新たな機運が芽吹き始めているようです。担当者2名にお話を伺いました。


右:田邉さん(広報/2023.2月入社) 左:宮口さん(営業/2022.4月入社)

MAC会議について

——MAC会議とは何ですか?

宮口さん MAC会議は、Meiji Art Culture(明治・アート・カルチャー)の頭文字のとおり、明治産業の社員自らが企画・実施する文化芸術活動です。はじめは社内向けの活動からスタートしましたが、最近では対外的な活動として地域に向けた文化芸術増進のための活動も行っています。
 
——活動が始まったきっかけは?

宮口さん 明治産業は、社長がもともとアート鑑賞ワークショップやVTS(Visual Thinking Strategy、対話型鑑賞法)を採用や社内研修に取り入れるなど、アートが身近にある会社ではありました。そこから2023年に入り、会社から「より目に見えるかたちで街にアートを浸透させていきたい」ということで社員への呼びかけがあり、MAC会議が発足しました。
 
田邉さん 2023年の3月からスタートしたので、ちょうどいま1年くらいですね。

MAC会議のコンセプトを社員へ提案する明永社長

——MAC会議はどのような体制で運営されていますか?

宮口さん プロジェクトチームとして、今は10名くらいのメンバーが中心となって活動をしています。まず、このプロジェクトが始まる前の2022年12月に、福岡アジア美術館と明治産業が一緒になって開催した アートの体験企画 へ参加した社員たちに声がかかり、そこに広報や経理など、色んな部署の有志社員が集まっていくかたちで今のメンバーとなりました。
 
——MAC会議の普段の活動について教えてください。

宮口さん メインは、朝礼の時間を使って全社員に向けて行う毎月第3月曜日の「MAC浸透会議」。そして、その日に向けて事前にメンバー同士が集まって行う月2回くらいの打合せが基本的な活動です。

月ごとに実施する「MAC浸透会議」では、10人程度のメンバーを3つのグループに分けて、順番に企画を回しています。発表に向けての打合せでは、月ごとの担当グループが作ってきた資料を事前に皆で目を通し、「どんなワークが良いか?」「どうやったら社内にアートが浸透していくか?」といった意見を互いに交わしながら調整し、出来上がったものを月1回の「浸透会議」で発表する、という具合です。
 
——朝礼時間を活用した「MAC浸透会議」は、1回あたりどれくらいの時間で行っているのですか?

田邉さん 8:30の始業後、朝8:40に開始してから大体2〜30分間くらいですね。MAC浸透会議の日は割と毎回、時間オーバーになります(笑)。

どうすれば皆にアートを楽しんでもらえるか?

——メンバーのほとんどがアートの専門知識を持ち合わせていないなかで、毎月の企画はどのように考案しているのですか?

田邉さん MAC会議では、リーダーのようになってくれている社員が一名います。大学でアートマネジメントなども学んでいた彼女が「どのような体験なら、普段あまりアートに触れてこなかった社員の皆にも楽しんでもらえるか」を考えながら、柱となって進めてくれています。

もちろん宮口さんをはじめ、メンバーの社員一人ひとりも自分で企画を考えてきてくれるので、そうやって皆で出し合った企画を臨機応変にお題としながら進んでいます。

——宮口さんはもともとアートにご興味があったのですか?

宮口さん そうですね。昔からアートには興味があって、学生時代には1年くらいVTS(対話型鑑賞)の講師役に挑戦してみた時期もあります。芸術系の大学に行ったり、専門的に学んだりしたわけではありませんが、好きが長じたところからまずやってみていました。

そうした活動を通してアーティストや作家さんとのつながりも増えていきましたし、改めてアートの力を感じられる場面がたくさんありました。そんな自分だったこともあって、就職先にはアートに力を入れている明治産業を選びました。

——なんと。明治産業がアートに力を入れている企業だったことが、宮口さんの入社動機に関わっていたのですね!

宮口さん はい、それは結構大事なポイントでしたね。

——お好きなアートのジャンルなどはありますか?

宮口さん 現代アートのインスタレーションを見るのが好きです。塩田千春さんや、最近はポケモンとコラボしていたダニエル・アーシャムも気になっています。

——田邉さんはそれまでアートへのご興味がありましたか?

田邉さん 私は正直に打ち明けると、入社するまでアートに触れる経験はゼロでした。本当にまったくその機会が無くて、好きも嫌いも無いくらいに遠い存在でした。入社してから「会社がアートに力を入れている」と聞いても「アートに力を入れる……とは?」というところからのスタートでした(笑)。

これまでの活動(第1〜11回)

——月1回の「MAC浸透会議」では、これまで11個の企画が行われてきたとお聞きしています(2024.2月末時点)。どのような企画が実施されてきたのか、具体的にお聞かせください。

田邉さん まず1回目は、MAC会議立ち上げの前に福岡アジア美術館でメンバーたちが体験してきた「“推し”視点からのアート鑑賞法」を社員向けに実施するものでした。事前にこちらで準備したアート作品のなかから、参加者それぞれが自分の好きな“推し”作品を選んで、その“推し”ポイントを皆の前で発表する、というワークショップでした。

続く2回目は、社員の皆が自分の宝物を写真で持ち寄り、それぞれがその理由を発表してみるワークショップです。色んな価値観があることを共有し合えるような場を目指して実施してみました。

宮口さん そして3回目は「ニッチなアートのシェア会」と題した企画でした。会社には、たとえば田邉さんのように、まったくアートに触れたことが無く分からないという人もいたので、ここまで最初の3回で意識していたのは、まず「アートの敷居を下げる」ことでした。

いきなりすごい画を持ってきて見せるのではなく、たとえば日常にありふれたゴミから作られた廃材アートだったり、花を束ねて作られているアート作品だったり。「こういうものもアートなんだ」と発見し合えるようなワークを意識して、続けてみました。

MAC浸透会議(第1回)のようす
作品に使う廃材集め。明治産業はCSR活動として月1回の地域清掃活動も欠かさず続けています

田邉さん アートの敷居を下げるための第1〜3回目を通じて「アートが身近に感じられるようになった」という声が聞こえてきたところに、次の第4〜6回はいわば「知識編」。メンバーそれぞれが興味を持っているテーマを講義スタイルで発表する企画を試してみました。

内容は4回目が「ウォールアート」、5回目が「デジタルアート」、そして6回目は「各国のアート予算と取組」。グループごとに「聞けばちょっとだけ知識も身につけられる」ような講義を企画して、順番に回していきました。

企画メンバー同士でも事前の準備では「この内容を朝礼の時間帯に行っても、皆ちゃんと興味を持ってくれるかな?」みたいなことも意見を交わしながら進めました。

——その後も色んな企画を実施されています。

田邉さん 7回目と8回目にはVTS(対話型鑑賞)をやってみました。

7回目は「久留米の画家」をテーマに作品を選び、皆で対話鑑賞する企画。MACメンバーのなかでも特にアートへの思い入れが強い社員が企画してくれました。続く8回目は「明治産業の創業年=1961年に描かれた作品」。その年に生まれた作品をお題にして、皆で対話型鑑賞を行いました。

9回目以降は、メンバー社員たちが持ち寄ったワークショップ企画を実際に社員皆で体験してみる「実践編」へ。9回目は宮口さんが持ち込んだ、廃材アートのアーティスト・綾海(あやみ)さんによる体験ワークショップにむけて、企画説明を行いました。

そして10回目は人形師・中村弘峰(ひろみね)さんを講師に迎える博多人形の絵付け体験ワークショップの企画説明。これは「NEXT Traditional」と題して2022年から明治産業がLOVEFMと一緒に行っている、市内の小学校向けの伝統工芸の出前授業を自分たちで体験してみる企画でもありました。

MAC浸透会議(第9回)のようす

田邉さん そして先日行った11回目では、対話型鑑賞の変形版みたいな企画に挑戦してみました。
フランスの画家であるロートレックが描いた3枚の似た絵を準備して、まずひとりが絵を見て、それがどんな絵なのかを口頭で説明します。そして残りのふたりは、その絵が3枚のうちどの絵のことを言っているのかを当てる、といったワークショップです。
説明する人は「説明する」という観点から、絵を普段見ないような細かいところまで見る経験になり、また聞いている人たちは言葉だけで絵をイメージすることで想像力が働く、というような企画でした。

MAC浸透会議(第11回)のようす

あちこちで変化の種が芽吹き始める

——約40名の社員の皆さんは、朝イチに実施されるこの会にどのような雰囲気で参加していますか?

宮口さん 会社にはもともと「何事も全力で楽しむ」や「アグレッシブにチャレンジする」といった社風、価値観が浸透しているので、皆いざワークが始まると、意見もたくさん交わし合いながら、部署を超えて前向きに参加してくれる人がほとんどです。積極的に参加しない人は、あまりいない印象ですね。

——このプロジェクトを続けるうちに、会社のなかでは何か変化が生まれていますか?

宮口さん まず、色んなことに挑戦出来るようになったし、その幅がすごく広がったという実感はあります。

うちの社員に限らず、世間の多くの人々が、中学や高校での美術の授業を最後に、それ以降ずっとアートに触れないまま歳を重ねていくことってありますよね。そんななかで、社会人になっても自分でアート作品をつくるような経験を「会社の活動」として提供されることなんて、なかなか珍しいなと。そういった活動が自然に出来てしまうこの会社は、実はちょっとすごいのかも……、と思うようになってきました。

——しかもそれを就業時間中に皆でやるんですもんね。

宮口さん そうなんです。すごいですよね(笑)。

——企画メンバーとして、これまでの活動にはどのような手応えを感じていますか?

宮口さん 社内でアートにまつわる会話がすごく増えました。たとえば先輩とお昼ご飯を食べにいく時にも、街中の何かを見て「これもアートじゃない?」なんて話が出るようになりました。

あと、仕事でも活かせるところが出てきています。僕は普段、営業をしているんですけど、お客様と話すときに「うちの会社ではこういうアートの取り組みをやっているんですよ」とお話しすると「面白い会社だね」とすごく食いついてくださります。そして、そういう反応をもらったことを営業同士でまた共有し合ったりして。社員たちの意識も、少しずつ変わってきているんだと思います。

田邉さん また、MAC会議には「社員にアートを身近に感じてもらう」ことに加えて、「明治産業がやっている(MAC会議以外の)アートの取り組み」を社員へ再周知する場、という役割もあります。

社員の皆に、これまでは何をしているのか十分に周知しきれていなかった社外向けのアート活動も、MAC会議を通して「いま会社はこんなこともやっているんだな」と理解し、定着してもらえるようになってきました。それによって、「明治産業はなぜアートに力を入れているのか?」ということについても、社員全体が少しずつ理解し始めてくれているんじゃないかと感じます。

最近では、MAC会議が終わった後のアンケートの回答傾向も変わってきました。アンケートには「今後やりたいことはありますか?」と尋ねる欄があって、最初のうちは空白で提出する人が多かったんです。だけどある時期からは「日本のアーティストをもっと知りたい」とか「〇〇派って何なのかを知りたい」とか、そういう具体的な声が寄せられるようになりました。社員自身も、アートへの興味が少しずつ高まってきているんじゃないかと感じています。

MAC会議実施後のアンケートにも、色んな声が集まり始めています

——これまで美術に縁がなかったと仰っていた田邉さんご自身にも、変化があったのではないですか?

田邉さん
 そうなんです(笑)。実は先日のお休みの日に、美術館へ一度行ってきたんです!福岡市美術館で陶器の展示をやっていて、その後に常設展示も見てみました。

ただ、正直に言うと、MAC会議では企画メンバーが毎回分からない人でも楽しめるような作品を準備してくれるので楽しめていましたが、美術館に行ってみたときにはまだ少し自分には難易度が高いような感じもしました。だけど、まず美術館に行ってみようと思えたのは自分でも成長だと思いますし、これからMAC会議を積み重ねて、また行ってみたいと思っています。

和気あいあいでお話される二人のようすからも、MAC会議の雰囲気が伺えます

社内だけの活動に留まらない、次なる広がり

——MAC会議には「地域に向けた文化芸術増進」の活動も始まっていると仰っていました。現時点ではどのような活動を行っていますか?

田邉さん
 先ほども少し触れましたが、現時点ではまず人形師の中村弘峰さんとLOVEFMさんと一緒に行っている、博多人形 絵付け体験の小学校への出前授業を始めています。

宮口さん あと、これはまだ個人の構想に過ぎないのですが。いまアーティストや作家として食べていける人って、まだごく一部なのだと思います。そういう方たちがもっと活躍できるような社会を作っていくために、自分が出来ることも今後は考えていけたらと思っています。

例えば今度会社にやってきて一緒に作品づくりをしてくださる作家さんのように、うちと関ってくださった画家や作家、アーティストの皆さんが、その後に色んなところと繋がって、また新しい活躍の場が生まれるような……。そういう役割を果たせる企画も、今後は考えていけたらなと思っています。

——最後に、お二人が今後のMAC会議で挑戦してみたいことは?

田邉さん MAC会議を通じて、まず社員に向けて「なぜ明治産業はアートに取り組んでいるのか?」という、これまで少し理解されづらかったことも、少しずつ浸透できてきた手応えを感じています。だから今後は、社外の方たちにも「明治産業がアートを通じてこの街に描きたいビジョン」を発信できるような取り組みへと繋げていけたら良いなと思ってます。

宮口さん 4月には新入社員が入ってきました。彼らにもまずは「この会社はアートのことを色々やっていて楽しい」と感じてもらえたら嬉しいですし、いつか自分自身も何か企画してみたいという気持ちになってもらえたら最高ですね。

誰もが自分の思いついたことを実際にかたちにして、それがいつか社外に向けて展開できるものにまでなっていく。そんな状況を皆と一緒に目指していけたらと思っています。

——自分の「やってみたい」を、会社の「やる」に出来る。それを社長も含めて会社全体が応援してくれる仕組みがあるなんて、ヤル気が出ますね。

宮口さん
 すごくぜいたくなことだと思っています。普段なら、何か提案してみても、いざ実行するときには色んな困難があるものだと思いますが、この会社では本当に皆に応援してもらえるわけですから。

MAC会議はいわば社内に「アートにまつわる提案がじゃんじゃんかたちに出来る場」が設けられているようなものだと思います。提案のハードルも高くなく、楽しみながら企画提案が活発に行われ始めている感じがしています。

——社内にひとつ「提案すればかたちに出来る」環境があるだけで、その影響は会社の本業にまで波及していきそうですね。

宮口さん
 本当にそうだと思います。MAC会議ではまず社内の企画から始まっていますが、毎回「その場に参加してくれる一人ひとりに、どのような良いことがあるのか?」を真剣に考えるレッスンにもなっています。それって、営業で顧客のことを考えることにも、必ずそのまま繋がっていくものだと思うんです。


開始してわずか1年強で、社内全体に「新しい挑戦が生まれやすいムード」を醸成する取り組みとなった「MAC会議」。企画メンバーの話を聞いてみると、今後もまだまだ挑戦してみたい企画もたくさんあるようで、これからの展開が引き続き楽しみな活動です。


PHOTO:橘ちひろ、社員提供
TEXT:三好剛平(三声舎)


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