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グラスホッパー~High Jumpの読書記録~(ネタバレあり)

High Jumpの読書記録のコーナー!

今回読了したのはこちら!!

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自分が一番大好きな作家さん、伊坂幸太郎先生の「グラスホッパー」です!

いわゆる「殺し屋シリーズ」の第1作になってます。

個人的には、伊坂作品を読むのはこれで11作目になります。
(密かに伊坂作品を完全読破するのを今年の目標に設定中(笑))
前回「フィッシュストーリー」を読んでから1ヵ月ぶりの伊坂作品で個人的にも楽しみにしていました。
(「ほんタメ」の動画が更新されるたびに読みたい本が増えて、積読本がたまりにたまり、なかなか回らないんですよね(笑))

コメディ?シリアス?
サスペンス?オフビート?
分類不能な「殺し屋小説」の誕生!
(帯より引用)

主人公が、妻を事故で亡くし、その復讐をするために「フロイライン」という怪しい会社に派遣社員として潜入しそのタイミングを伺っている元数学教師である"鈴木"、殺し屋でありながらもターゲットを自殺させるという不思議な能力を持つ"鯨"、他の殺し屋が嫌がるような女子供の殺害依頼にも一切臆せず、任務を遂行できる若き殺し屋"蟬"の3人の視点が順番に入れ替わりながら物語が進行していく群像小説になっていて、少しずつ三人の距離が縮まり、絡まり合う展開に目が離せない作品になっていました。

読了した感想は、「これこれ、これが伊坂作品だよね」といった感じで、素直に楽しめ、面白さが保証されている分、安心して読み進められました。「殺し屋小説」ということから物騒な話と思われそうですが、物騒なストーリーの中にもクスッと笑えるような場面だったり、「殺し屋」という世間一般的には非難されるような人物を描いているのにもかかわらず、その人物の生い立ちや信念などを上手に表現していて、どこか憎めない、そんな登場人物が出てくるのは、伊坂作品の特徴であり、自分が好きな理由でもあります。

個人的には、"蟬"が好きでした。女子供もかまわず殺せる、一見、冷酷な人物のように感じますが、窓口になっている岩西の操り人形になっているように自分自身が思い、それに嫌気がさし、自ら自由になろうとするのだが、岩西が死んだと聞かされたときに、どこか動揺しているところに"蟬"の人間性が垣間見え、愛おしく感じた。そんな"蟬"が放ったセリフで印象に残ったものがあったので、紹介して終わりにしようと思います。

これは蟬"が死に際に、意識が朦朧となりながらも、幻想で見えているすでに死んでしまった窓口役であった岩西と会話している場面である。(以下本文より引用)

「知ってると思うけどよ」岩西が顎を突き出した。
「何だよ」
「おまえ、死ぬだろうな」
「知ってるっつうの」蟬は横に唾を吐く。血が混じり、よだれのように口の端にこびりついた。「人は死ぬんだ」
「言い残すことはねえのかよ」
「ねえよ」と答えてから蟬は、「ああ」と呻き声を出した。「しじみ」
「しじみ?」
「しじみの砂抜き、やったままだな」蟬はぼんやりと呟いて、それから、アパートの台所の器で、呼吸を繰り返す貝のことを思い出した。ぷかっ、と砂を吐き出している、しじみを頭に描く。「ずっと、あそこにいるのもいいかもな」
「しじみのことか?」
「しじみだよ。おまえさ、人としじみのどっちが偉いか知ってるか?」蟬は訊ねる。
「人に決まってんだろうが」
馬鹿か。いいか、人間の知恵だとか科学は、人間のためにしか役に立たねえんだよ。分かってんのか?人間がいてくれて良かった、なんて誰も思ってねえよ、人間以外はな」言い終えると、寒気が走った。目が回る。
「まるでおまえは人間じゃねえみたいな言い方だな。それなら次は、しじみに生まれ変われって」
「そうなりてえよ」蟬は胸に当てた手を、その血を見つめながら、言った。

確かに、人間が苦労して研究した結果や技術は、すべて人間のために使われていて、環境に配慮しているというが、配慮して人間の使いやすいように事を進めているだけであるし、絶滅危惧種の保護であったって、その種にとっては、実はお節介としか思っていないのかもしれない。人で言うと緩和ケアや延命治療と似ていて、本人の意志を重要視するが、相手が動物であっては当然分からないため、人間が都合の良いように解釈をしてこと進めているだけだ。死に際に蟬がこんなことを言うのは、人間は愚かで利己的であり、最低な生物であるという考えが、蟬の思考の根本にあったからではないだろうかと思う。だからこそ女子供であってもかまわず殺しているのだという所に繋がる。蟬の生い立ちについてはあまり触れられていなかったが、どんな過去を送ってきたのかが気になった。非常に魅力的な人物だった。

伊坂幸太郎先生の「らしさ」が全面にでていて、伊坂ファンの自分にはたまらない作品でした。
まだ未読の方は是非!
次は「マリアビートル」を読もうと思います。
ではまた次回、バイバーイ


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