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他人事とは言えない 『マフィア国家』工藤律子(ルポ 2017)

メキシコの麻薬戦争に関するルポ。麻薬カルテルによる殺人・誘拐などの暴力と、それに立ち向かおうとする人々を取材したもの。国家とカルテルの癒着を問題視している。

歴代のメキシコ政府はカルテルと結びつき、彼らの縄張りを容認してきた。
警察の一部もカルテルと関係しているので、事件が起きても捜査をしない。それどころか、殺人や失踪に関与している。

読みながらふと思ったのだが、カルテルを巨大企業に置き換えれば、アメリカも同じようなものではないか。そして日本も。
麻薬は消費財に、殺人は貧困に置き換えられるのではないか。

本書にも、現在の麻薬カルテルは「犯罪の多国籍企業」だという指摘があった。治安問題や紛争解決を専門とする、コロンビア大学のブスカグリア教授の言葉だ。

さて、メキシコは、なぜそのような極端な「マフィア国家」になってしまったのか。筆者が要因として指摘するのは、主に下記の3つだ。

・新自由主義
・マチスモ(暴力による支配を肯定する価値観)
・貧困、経済格差

犯罪被害者への支援を行なっている青年は、メキシコの学校教育は人間科学や倫理を教えず、「くだらないものを買い集めるだけの消費者ばかりを育てている」と話す。

私自身がメキシコに来て受けた印象は、「アメリカ化した大量消費の国」だ。米国資本の大型スーパーには、商品があふれている。ショッピングモールはきらびやかで、ファストファッションなどのグローバルブランドが客を集める。道路沿いには新興住宅地の看板。もっと稼ごう、もっと買おう、というメッセージに満ちているような気がした。日本もそうであるように、富める者も貧しい者も、物質的な豊かさを求めているように思われた。

本書の終わりには、新しい政治・経済の仕組みが必要だと考える人々の活動が紹介されている。彼らは、「メキシコは再び、革命を必要としている」と訴える。

この本の取材が行われたのは、2010年から2016年。その後、2018年に大統領選挙が行われ、新自由主義を否定するロペス・オブラドールが大統領となった。状況はどのように変化しているのだろう。

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