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メキシコシティの空気のビン詰め 『野生の探偵たち』ロベルト・ボラーニョ(1998 小説)

これは小説のような体裁だけど、詩だと思う。

70年代メキシコ。2人の若い詩人の旅をめぐって、1人の少年の日記と、53人の人物へのインタビューが綴られる。

これが詩であるとして、どんな詩なのかというと、「メキシコシティの空気のビン詰め」だと思う。
実際、ボラーニョは「僕はメキシコシティの詩人になろう」というメモを残しているらしい。

詩という表現手段は、憧れと相性がいいと思う。『野生の探偵たち』もメキシコシティへの憧れを抱かせる。
膨大な数の詩人や作家の名前や、作品名が出てくるのだが、正直言って、私はそのほとんどを知らない。(架空の名前もあるのかもしれないが、その見分けもつかない。)けれど、その固有名詞たちは70年代メキシコのなにかを表しているかのようで、想像力をかき立てる。
憧れは無知または未知と仲がいい。

最近読んだ本同士の関連づけになるけれど、オスカー・ルイス『貧困の文化』における「背景」(調査手法や調査対象についての説明、ルイスの主張の提示)は、『野生の…』で言えばガルシア=マデーロの日記、5家族に対する観察記録は、53人のインタビューに対応するのでは、と思った。
それぞれの2部構成を通じて、ルイスは低所得者の暮らしを浮かび上がらせ、ボラーニョはメキシコシティの鈍い輝きを再現しようとする。

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