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久しぶりにオンラインワークショップをやってみた

お久しぶりです。
何と一つ前の投稿が2020年11月20日なので、一年以上も更新していなかったことに驚きを隠せませんが、皆様お元気でしたでしょうか?

noteではコロナ禍を機にはじめたオンラインワークショップをはじめ、自分のワークショップ活動について書いていたのですが、ここ最近は本業の作家活動の方が忙しく、作品の制作や展覧会の準備に明け暮れていたら、すっかり一年もブランクが空いてしまった訳です。

そんな事情で更新がないにもかかわらず、つい先日、驚くことにnoteに掲載した文章を読んでくださった方からワークショップの依頼を頼まれました!改めて、web上に記録を残すことの重要さを思い知りました。

さて今日、久しぶりにオンラインでの対話型ワークショップをやったので備忘録として、そして長らく休眠状態だったnoteを復活させるきっかけとして振り返りたいと思います。

2年目のミテ・ハナソウ・プロジェクト
佐倉市立美術館とARDAさんが2013年からはじめている共同プロジェクト「ミテ・ハナソウ」の活動として、子供達との対話型美術鑑賞を主体にしたワークショップを行いました。「ミテ・ハナソウ」とのコラボレーションは、2020年度にも実施した試みで、今年度もゲストアーティストとして参加させてもらい、2年目の活動となりました。このように同じプロジェクトに継続して関わらせてもらえるのは、とても有り難いことです。公立美術館が主催する事業のため、公平性を考慮するならば同じアーティストに毎年仕事を振るのはとても珍しいケースだと思います。自分の場合は佐倉市に一年程住んでいたし(2018年3月〜2019年7月)、今もそんなに離れていない地域に住んでいるので準地元の作家として少し特殊な例なのかもしれません。
とはいえ、2020年に実施した内容や可能性を評価してくれてのことでもあるので、継続しての依頼は素直に嬉しいことです。

今日は佐倉市内のある小学校の3、4年生を対象にワークショップをおこないました。実は、今年度は小学校に訪問して、対面形式で行う予定だったのですが、年明けからのオミクロン株の急激な感染増加を受けて急遽オンライン形式に切り替わりました。2020年度の内容からバージョンアップさせようと、新しく考えた形式やテーマも昨年から仕込んで準備していたのですが、ただでさえ小学校の授業時間内に行わなければいけない制約(びっくりしたのですが現在は一コマ40分)に頭を抱えていたので、それがオンライン形式での実施になると、さすがに難しいよねと美術館の担当学芸員さんとARDAのメンバーと判断して、直前に2020年に実施した「アートって何だろう?」というオンラインワークショップに内容を変更しました。

「アートって何だろう?」とは
このワークショップは、2020年のコロナ禍を機に子供達向けに考案した対話型ワークショップです。その当時、僕は成田市内にある子供向けの造形教室でアルバイトしていたのですが、オンラインでできるワークショップを実験的にはじめてみました。普段の造形教室では「つくること」を主体にした活動になるのですが、「みること」を主体に、気づきや考えることを促すような時間を子供達に提供できないかなと考えたのです。どうしてかというと、「つくること」よりも、「みること」の方が長い目でみると大事だと思っていたからです。その方法が、一方的な講義形式ではなく、対話型鑑賞というすでにある方法を活用したワークショップだったのです。

アートのはじまり
子供達への一番最初の質問はタイトルのとおりストレートなものです。
「アートって何だと思う?」
大人でさえ難しい問いだということは百も承知で聞いています。とはいえ、中にはアーティストである自分もハッとするような鋭い言葉を返してくれる子もいるので、子供が相手だからといって侮れません。
とにかく最初の質問は準備体操なので、何を答えても構いません。むしろ、明確な答えが一つにまとまらないことが、アートを主題にしたこのワークショップの肝なのです。

一通り子供達の意見を聞いたあとに、ようやく最初の図版を見せます。何かというと洞窟壁画です。そう、かなりベタですが、ラスコーの壁画ですね。まずこの洞窟壁画の絵を、子供達に観察してもらうところから出発します。つまり抽象的な問いかけから、アートのはじまりと言われるような、現在の時間とはかけ離れた時代の表現を見てもらい、対話します。中でも重要なのはこの洞窟壁画が描かれた時代がどんな時代だったかを想像してもらうことです。つまり、2万年前と現在がどう違うのかについて話し合うのです。
旧石器時代の人類の暮らしについてあれこれ考えてもらうのですが、タイミングを見計らいながら、少しずつ補足を伝えていきます。当時はまだ農耕する文化は無かったよとか。ここで一番伝えたいことは、文字がまだ生まれていなかったこと。つまり、文字が生まれる前から、人間は絵を描いていたという事実です。ここ、子供達がいつも良い反応を返しくれるポイントです。彼、彼女らの中では、文字→絵の順番に誕生したと思っているみたいで、「絵って、すごいじゃん」という、絵にたいする価値の転換がここでドラマチックに生まれます。

洞窟壁画を通した対話でかなり温まったところで、アートという言葉の来歴について説明します。このあたりのくだりは、はっきり言って小学生には難しいんですけど、アートという言葉を抽象的な概念のまま、すっとばしたくないんですよね。長くなるので詳しい内容は省略します。

アートの歴史
その後、9つの作品画像を古い時代順に紹介していきながら、対話型鑑賞をしていきます。ここでも何の作品画像を子供達に見せているのかは、伏せたいと思います(そんな特殊な作品をセレクトしてる訳ではないので企業秘密にする必要はないのですが、希望者が多ければ有料記事にしてみようかな。今後検討します)。

はい。お気付きの方もいると思いますが、要約すると、このワークショップでは「美術史」をテーマにしています。時代の変化とアート作品がどう結びついているのかを視覚的に時間軸に沿いながら、タイムマシンに乗って冒険するかのようなイメージで進めていくのです。これまで先人が残してきた、てんでばらばらな表現を半ば強制的にタイムラインに沿って紹介することで、主観(好き嫌いや、美醜)だけでない「アートの見方」や歴史意識を、子供達なりにつかんでほしいという意図があるからです。

対話型鑑賞のあとに、ふたたび冒頭と同じ質問をします。
「アートって何だろう?」
最初は漠然としたこの問いに対して、思いもよらない視点から、それぞれが考えた言葉を返してくれることが多く、思考が飛躍している様子を垣間見れることが、このワークショップの醍醐味であり、自分にとっても子供達から刺激を受ける最もたのしい瞬間です。

自分が考案したオリジナルバージョンはここまでで60分。今回の企画では、ミテ*ハナさんと呼ばれる対話型鑑賞の研修を受けたファシリテーター役の大人達との対話を通して、さらに言葉を引き出してもらう特別版として2コマ(約80分)のワークショップを行いました。

一年ぶりにやってみて
3、4年生合同授業ではないので、一対一ではないグループワークの難しさ、子供達にとっては慣れないオンラインでのコミュニケーションの障害などはありましたが、約一年ぶりにこのワークショップをやってみて我ながら発見もあったり、子供の感度はすごいなと久しぶりに驚いたりしたのでした。

ミテ*ハナさん達とのコラボレーションでは、オリジナル版にはない特別な試みとして、ばらばらな時代につくられた5つの作品図版を最初に見せて、古い時代順に作品を並べるグループワークがあります。クイズみたいな形式ですが、予備知識なしでそれぞれの見方で、いつの時代につくられたのかを検証し、ミテ*ハナさんと一緒に対話しながら考えてもらいます。その後の対話型鑑賞時に、事前に作品について考えることで、能動的に関われるような仕掛けとして取り入れていますが、中々面白いアイデアだと思います。

新しさに対する子供の視点
並べかえてもらう作品図版の一つにモンドリアンの《コンポジションⅡ 赤・青・黄 》と題された絵画(画像下)を採用していますが、おそらくこの絵を初めて目にしたであろう子供達の反応がとても面白かったです。
4つのグループ分けした全てのグループが最も新しい作品に挙げたのですが、その理由の一つとして印象的だったのは「シンプルだから新しい」という、見方でした。シンプル、つまり色や形が洗練されているものは「新しい」と感じる思考回路が子供達にあるのがとても興味深く、次のワークショップのテーマを考えるヒントにもなりそうです。

実際は1930年に制作された作品なので、およそ100年近く前の絵画にもかかわらず、子供達の目には新しく映るモンドリアン作品のすごさを実感。

大人にやってみたらどうだろうか
ということで、久しぶりに思い出しながら行った「アートって何だろう?」は、一年という時間をあいだに挟んだことで、自分のなかでも客観的に考察できたり(コロナ禍の真っ只中、こんな難しいことやってたんだなとか)、実施することで新たに思い浮かぶことも多く、すでに先述したとおり、急遽オンラインに移行したことによって再び行えことは幸運でした。こうしてnoteを書こうという意識も復活したし。

ちなみに「アートって何だろう?」は子供を対象に考案したワークショップですが、以前から大人を対象にやってみても面白いのではないかなと考えていました。特に今回のワークショップでは一般公募ではなく、アートに関心がなかったであろう小学生も混じっての訪問授業形式だったのですが、全然成立していたと思うので、これまでアートに馴染みのない大人対象でも十分ワークショップとしてやれる自信をつかむことができました。2022年はどこかのタイミングで大人対象に実施できることを目標にしたいと思います。

参考図書
一年ぶりのオンラインワークショップに備えて、「なんで洞窟に壁画を描いたの?美術のはじまりを探る旅」という本があることを知り、ワークショップの直前に購入し、読んでみました。発売は2021年の1月。2020年にワークショップを実施した当時にはまだ刊行されていませんでしたが、本書の中でも美術のはじまりとしてラスコーの洞窟壁画が取り上げられています。
みんな考えることは同じだよなと思いつつ、国内でも巡回展となった「世界遺産ラスコー展」の学術協力者でもある洞窟壁画の研究者、五十嵐ジャンヌさんによる物語仕立ての記述は、これまで知らなかったことも多く、改めて洞窟壁画について多角的に学ぶことができて、読んでよかったです。個人的にはルロワ・グーランの考察が出てくるくだりが面白かったです。氏の著作も読むべきタイミングなのかもしれません。何かを学ぶとは、こうして知りたいという欲望が連鎖していくものですね。
今後もワークショップに関連する参考図書を紹介していけたらと思います。

参考ページ
こちらは2020年に開催した時のオンラインワークショップの記録です。

作品制作のための取材をはじめ、アーティストとしての活動費に使わせていただきます。