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現役世代で「ステージ4」の肺がん患者になってみたら、解脱しないと辛くなる(患者を知る)

ステージ4の肺がん患者の心情STP   (Segmentation & Targeting & Positioning)

テレビのドラマや映画などに登場する「一般的ながん患者」は、化学療法を行っていて、激しい副作用に耐えながら、がんと闘っている様子で表現されることが多い。確かに、そのような人たちもいる。しかし、一見「健常者」と変わらないようみ見える「がん患者」も存在している。「ステージ4」のがん患者(以後、ステ4患者)の場合は、既に転移している状態である。また、「ステージ4」であっても、がん告知を受けた時にステージ1~3で、残念ながら再発&転移してステージ4になった人と突然ステージ4を宣告される人もおり、一概にステージ4といっても状態は様々なのである。

臨床的なセグメンテーションは専門の医療従事者に任せて、ここでは、がん患者本人の立場から(と言っても、私の独断と偏見でとなるが)、ステ4患者の心情についてセグメンテーションしてみたいと思う。

<ステ4患者の気持ち ポジショニング>

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当事者になって、色々なことを悲劇のヒロイン的立場で考えた。そして、自分と同じ環境や境遇の人たちの思考や行いなどを、勉強させてもらっている最中ではあるが、俯瞰的に考えると上に描いたポジショニングマップを描くことが出来る。
横軸の「若い」と「高齢」は、読んで字のごとく物理的な状態を表している。基本的には、自立して生計を立て始めたステ4患者を「若い」の下限、一通りのお勤め(例えば、会社勤め、子育てなど)を全うして年金生活を営んでおられたり余暇をご自身やパートナー等と自由気ままに生きるステージにおられる方々で、日本人の平均余命に近い方を「高齢」の上限とする。
縦軸の「元気っぽい」と「体調すごい悪そう」は、がん患者本人が感じている体調を第三者がどう感じているかを「患者の視点」で表している。
そして、各象限に記載されてるコメントは、がん患者の心の叫びや思いを表現しており、自分自身が実際に思ったことや、がん患者が集うサイト等から感じ取られる状態を表現している。

このポジショニングマップに飛び込んでしまって、半年を過ぎて以下のような要素が複雑に絡み合った世界があることに気付いた。

1.当たり前のことだが、各自の環境や背景など様々異なる集合体
2.治療を戦い(=闘病)と考える思考の存在
3.長く生きたいと思っている希望の存在
4.毎日を楽しく生きたいと思う傾向に包まれている環境
5.新薬開発や新たな療法に対する高い感度
6.「緩和の海」に漂っていると朗らかになっているような非日常の空間
7.直面している学習したことのない未来への漠然とした家族の不安
8.患者当人と家族の中に出現するエゴ

上記のような存在を理解すると、ステ4患者の気持ちポジショニングに記載したコメントが何となくご理解いただけるのではないだろうか。

ステ4患者のセグメンテーション

では、ステ4患者の気持ちポジショニングマップをセグメンテーションし、特徴を整理してみることとしよう。

【セグメンテーション定義(独断と偏見による)】
野心満々セグメント:「若い」+「元気っぽい」
・年齢的にも若く、未来に向けたプランを多く持っている
・副作用が比較的軽度で、薬物療法施行前とほぼ変わらない日常生活
不安先行セグメント:「若い」+「体調すごい悪そう」
・年齢的にも若く、未来に向けたプランを多く持っている
・薬物療法による副作用が強く、日常生活に支障をきたしている
・副作用による体調不良が先行している
・化学療法による、免疫抑制に伴う脱毛など副次的な影響が大きい
余生を楽しむセグメント:「高齢」+「元気っぽい」
・勤め人生を満了し、余生をどのように過ごそうかと考えている
・子育てからも既に開放されている(子供は全員自立した)
・身体が動くうちに、色々と自分(達)の為に時間を使いたい
・毎日を楽しく生きる
身を任せるセグメント:「高齢」+「体調すごい悪そう」
・勤め人生を満了し、余生をどのように過ごそうかと考えている
・子育てからも既に開放されている(子供は全員自立した)
・薬物療法による副作用が強くて辛いばかりでいいのかと疑問
・無理して長生きしなくてもいいと感じる

同じステ4患者であっても、罹患(告知)された時の背景によって、今後をどのように見据えて、今を生きて行けばよいのかを考える軸は変わってくる。病態によって、患者をセグメンテーションすることは、治療を行う上で身体的状態をエビデンスを持って行われており(病期)、客観的な区分けとして正確である。一方で、罹患してしまった当事者としては、「自分はステ4患者」という代名詞をキーとして、患者の集いで色々なコミュニケーションを交わしていることが多く、その区分けも病態的な区分けに基づいて行われていることも多い。その結果として、やり取りされている情報は多様化されており、「まとまりがつかない状態」であることも少なくない。

<ステ4患者のセグメンテーション>

タイプ説明

ステ4患者としては、これら大量にある情報の渦に飲み込まれることがないように、自分自身のポジショニングと適切な情報を選別する冷静さが必要である。
私が、ビジネススクールに通っていた時に、あるマーケティングの講義で、日本の多くの企業では「KKD」で意思決定を行うことが多いと習った記憶がある。

KKD=「K:勘(カン)」+「K:経験(ケイケン)」+「D:度胸(ドキョウ)」
(各単語をアルファベット表記した際の頭文字)

ステ4患者初心者は、がん患者としての経験が浅いため、全てが不安なことしかない。普通の会社であれば、「新人研修」と「OJT」といった研修システムを通して、無知の領域のいろはがインプットされ、経験曲線によるスキルアップの為に上司や先輩方からの個別インプットが行われることで、無知な新人社員も一人前の社会人へと変化していく。
ステ4患者であっても、新人と経験者という経験曲線による差分の存在であれば、普通の会社で経験するような例も参考になるのであろう。しかしながら、病気≠会社なので経験値の違いがそのまま新人に通ずるものでは無いのである。何故ならば、人の人生にKKDは適応されないからである。

ステ4患者のポジショニング

STPでは、市場をセグメンテーションしたのちに、ターゲティングを行う。ステ4患者のSTPでは、自分自身がターゲティングの対象となるため、ポジショニングを行うこととする。
ステ4患者のポジショニングは、ターゲットがどのような心情ポジショニングにあるかを理解することを目的としているため、セグメンテーションで使用した横軸(年齢)をベースとして、心情の違いを明確にしていきたいと思う。

<Happines(ステ4患者心情)と時間軸の関係>

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期待生涯獲得Happiness

人が人生の中で、勝手に自分自身で獲得できると思っている(希望)Happinesを表した図である。横軸は、年齢の掲示的変化を表しており「加齢」を意味している。縦軸は、生涯において獲得できるであろうHappinessの量を表している。Happinessの量としては、個人が感じる満足度(自己満足)は全て100%として変わらないという前提であるため、誰であっても、死亡した時が100%として考えている。
例えば、表中にある「Aさん」は35歳でステ4患者、「Bさん」は60歳でステ4患者になったとする。この場合、それぞれが罹患したタイミングでのHappinessにはGAPが既に発生している。これは、60歳ー35歳=25歳分の物理的差異によって生じるものであり、Aさんがステ4患者にならずに60歳まで生きていたとしていたら、期待生涯獲得Happinessは同等になる。
次に、AさんとBさんがそれぞれステ4患者となったタイミング以降の未来については、死期のその時までに獲得出来たであろう期待生涯獲得Happinessの量をAUCで表している。
この表のKey  findingsは「タイミングと剥奪説の存在」である。ステ4患者となったタイミングが若ければ、獲得Happiness<期待生涯獲得Happinessというバランスになっており、高齢でステ4患者となった場合には、獲得Happiness<=期待生涯獲得Happinessとなっていることである。

サバイバーHappiness

がんサバイバーとは、一般的な理念として「がんの診断を受けた人は、その瞬間から生涯にわたって、がんサバイバーである。家族、友人、ケアに当たる人々も、当人のサバイバーシップ体験から強い影響を受けるため、がんサバイバーに含まれる。」としている。
サバイバーHappinessとは、ステ4患者として診断を受けた時点を「0:ステージ4スタート時点」として、それぞれが受けるHappinessに対する影響を見たものである。ただし、このサバイバーHappinessは単独で成立させることは、事実を正確につかめることが出来ないと作者自身が考えており、期待生涯獲得Happinessと合わせて活用し、ステ4患者の心情STPとしてとらえることが望ましい。
サバイバーHappinessでは、スタート時点でのHappinessは、各ステ4患者に1つのみ存在している。つまり、人それぞれであるということである。また、Happinessのゴールは期待生涯獲得Happinessとなる為、スタート時点で発生している他人との差(GAP)によって、斜線の角度(自己満足を得る為に必要となる量と反比例に存在する物理的時間の関係)に勾配の差が生じることとなる。
例えば、AさんとBさんが同じタイミングでステ4患者になったと仮定すると、ステージ4スタート時点で獲得Happinessには「ギャップ」が存在した状態で、サバイバーHappinessの獲得に向けたステ4ジャーニーが始まることになる。この場合、AさんとBさんのインサイトには、ポジショニングの違いによる異なったゴールが存在しているはずである。しかしながら、ステージ4スタート時点では、自分のゴールよりも未知の疾患である「癌」に対する、漠然とした不安と「癌=死」という死に対する恐怖からの回避に思考が支配されている為、ポジショニングの違いを正確に認知することが出来なくなっている。
不安が先行する空間では、KKDが暗闇の中に現れる星の光(マイルストーン)のように見えることがある。その星に客観性があり、絶対的な存在であれば、その判断は間違いがないものとなり、目標を達成することができる事になる。しかしながら、KKDは個人の経験値に過ぎず、再現性や検証も行われていない。結果として、その時は上手く行っただけであり、その客観性の無い事実を信じて、自分の意思決定を下すことはリスクが高いと考えるのが一般的である。

ステ4患者のターゲティング

上記した通り、ステ4患者のSTPにおいて「ターゲティング」とは自分自身のことを指している(少なくとも、この場では)。つまり、自分の意思決定が「ステージ4」の肺がん患者を知るということなのである。そして、ステ4患者は、日々ステ4患者のSTPでビジブルにされた海を漂っているということを当事者以外の方々には知っていただけたら幸いに思っている。

がん患者は面倒くさい

先が見えない状況において、人に与えられるマイルストーンを見つけているようでは、お先真っ暗である。お先真っ暗になることが明確であるならば、自ら進んで行く必要がある。混沌とした状況の中で、最初の1歩を踏み出すにしても、前例がない場合は足踏みしてしてしまう。しかし、待ってさえいれば、誰かが行き先を明示してくれるわけでもない。いわば、アントレプレナーと同じ状況にいるのが、ステ4患者なのである。
しかしながら、ステ4患者=アントレプレナーと言っているわけではなく、ステ4患者の心情=アントレプレナーの心情としてとらえても違和感はないと言っているのである。
エフェクチュエーションの著者であるサラス・サラスパシー教授が示していたように、「自分は誰で」「何を知っているのか」「誰を知っている」のかがベースとなり、つまり「何を行う」のかが決まってくるのである。そうであるならば、まさにステ4患者の心情において、ターゲットとなる自分自身の今後の生き方について、何かを決める場合にはエフェクチュエーションの思考がフィットするのである。

ビジネス上の議論であれば、エフェクチュエーションをベースとして未来を考えることも重要なポイントとして捉えることが出来る。しかしながら、ステ4患者の場合は、ビジネスとは違い人生において議論をする必要があるため、ビジネスのように簡単にはいかないのである。そこには、がんサバイバーの範疇が適応される為、自分以外へ及ぼす影響を死というキーワードを持って考えなければならないのである。
がん患者が面倒くさい理由は、死が現実味を帯びて居るということである。ここで言う「現実味」とは、少なくとも「がんで死ぬ」ことを知っているということを指している。浅はかな考え方の人の中には、「人はいずれ皆死ぬ」と簡単に言い放つ人も存在している。それらの人たちが認知しているレベルの死ではなく、目の前で存在してしまったのである(=余命宣告)。



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