撮影(3/4)

「え、ちょっと、続けんの?」

 ずっと息を殺して動いていたからだろう、そう言う近藤の声は喉に絡まって前半がうまく発音されなかった。僕と山崎さんは思わずまた笑って、視線を交わした。

「ちょっと待って、あんま見られると恥ずかしい」

そう言って彼女は脇にあったタオルケットの端で自分の胸を隠した。また視線を自分に覆いかぶさる近藤に戻す。そして「続けて?」と、いかにもそれっぽい表情で首をかしげて近藤にささやく。

「いや、AVかよ!」笑いながら近藤はそうツッコミを入れて山崎さんから身体を離そうとするが、彼女の両脚の力は依然強いらしく、なかなか離れられない。

「ちょっと、直嶋さんも冷静に見てないでくださいよ」

そう笑いながらこちらを振り返るが、やはり恥ずかしいのか、目を合わせようとはしない。

 僕は寝起き特有の澄んだ頭のおかげで、ずいぶん落ち着いていた。いつの間にか酒もたいがい抜けて、自分の顔に張った脂から平和の印象を感じる。

「でもすごいな、あんだけ酒飲んで、いまこういう状況になってまだ勃ってるって」

「あ、はい、俺けっこうタチはいい方なんすよ」と少し恥ずかしそうに、近藤らしい低い声で言う。また僕と山崎さんが笑う。

「ね、全然。なに、見られたい願望とかあるの?」

「いや、ないと思うけど……。お前平気なの?」

「うん、なんか」

 しかしやはりこの状況でまた動き出す気にはならないらしく、僕は決断を迫られる。僕は両手で顔の脂を拭いながら、

「うーん、じゃあ」と提案を始める。「いまこのまま進むと、たぶん三つくらい選択肢があって、」

「はい」としゃがれた声で近藤が答える。

「ひとつは、このまま二人がヤリ続けて、俺が気まずくなって帰る。けどまだ始発出てないし寒い。二つ目は、俺も混ざって山崎さんとエッチしちゃう。もう一つは、せっかくだから二人のを俺が撮る、とか?」

 二つ目の提案に対しては「え~」と非難めいた声を出していた山崎さんだったが、全部を聞くと大きく伸びをした。その表情は、突然スイッチが切れたように無表情だった。それから何か言いたげな表情になって、近藤の顔や首を両手を撫でた。僕は辺りを見回して、それを見つけ、手に取った。

「山崎さん、パスコードは?」

 山崎さんは自分のスマホを手にした僕を眺め、それから近藤に目を戻した。近藤の目は彼の長めの髪に隠されて、僕からは見えない。

「ゼロ、サン……イチ……ゴ」

 何度か言い澱んだものの、山崎さんはそう教えてくれた。そのパスコードは本当で、僕はカメラを起動させる。

「え、本当に撮るの?」

 ようやく喋り始めた近藤の言葉はあまりに陳腐で、僕は笑ってしまう。いつの間にか、外からぱらぱらと音が聞こえてきている。

「あ、洗濯物とか大丈夫?」雨に気づいて、山崎さんが近藤に訊く。

「大丈夫。てかいま問題はそんなところじゃない」

 僕は二人が画角に収まるところまで移動して、次の動きを待つ。

「いやいやいや! さすがにきついっすよ」

 そう笑いながら近藤は僕の方を見るが、それはカメラの真正面だ。山崎さんはそんな近藤の顔に手をやって、自分の方に向かせる。彼女は微笑を浮かべて近藤の顔を見ている。けれどもカメラの方は向きもしない。

 近藤はきっと持ち前の、勝負事に全力で挑んでいくスイッチが入ったのだろう。カメラの方は見ないようにしながら、また身体を動かし始めた。そのさまに、はじめ挑発的だった山崎さんもときめいたと見えて、たちまちスマホの画面には一カップルのセックスが映され始めた。

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