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メタバースを舞台にした映像作品を生徒たちが制作中、企画案は細田守監督らが講評

現在、角川ドワンゴ学園とMeta日本法人Facebook Japanの共同プロジェクト「メタバース学園ドラマ制作プロジェクト」が進行しています。プロジェクトの目的は、メタバースの学園生活を表現する映像作品(5分程度)をN高等学校・S高等学校の生徒で構成された各チームでつくること。

本プロジェクトには、アニメーション映画監督の細田守さんをはじめとしたプロクリエイターの方々が協力しています。6月のキックオフイベント、中間報告会を経て、9月下旬の映像作品発表を目指します。この記事では、6月に行われたキックオフイベントの様子を紹介します。


今までに体験したことのないプロジェクト

メタバース学園ドラマ制作プロジェクトのキックオフイベントは2部構成で開催されました。第1部では、角川ドワンゴ学園とMeta日本法人Facebook Japanによる共同プロジェクトの発足経緯を含めたそれぞれの取り組みの紹介が行われました。

実際にプロジェクトに参加する生徒の代表としてS高等学校 2年生の松尾和弥さんと、プロジェクトに協力するプロクリエイターの代表としてアニメーション映画監督の細田守さんが登壇し(細田さんはリモート参加)、本プロジェクトに対する意気込みを伝え合いました。

松尾さん 今までに体験したことのないプロジェクトで不安もありますが、仲間たちと一緒に新しいものを作り上げることにとてもわくわくしています。プロのクリエイターの方々にアドバイスをいただける貴重な機会でもあり、たくさんのことを学びたいです。

細田さん 23年ほど前からバーチャル空間を舞台にした作品を作ってきました。現在は、作品の中の環境が現実でも実現するような時代になっています。そうした中で、N/S高生が実際の生活の中で取り入れているバーチャル環境をテーマに作品を作っていくことに深い感慨を抱いています。生徒のみなさんが日常的に利用しているバーチャルの中に、どのようにリアルを感じているのか、それをもとにどんな学園ドラマを作っていくのか興味深いです。

今回のプロジェクトも含め、インターネットの未来やメタバースの展望について、松尾さんと細田さんは次のように話しました。

松尾さん バーチャル空間上にテーマパークを作ることを一番の目標にしています。バーチャル上なら現実を超えた演出が可能なので、現実よりも遥かにすごいエンターテインメントを提供したいです。

細田さん インターネットやバーチャル空間は若い人の自由を求める気持ちと相性がいいのでしょう。現実を超えてやるというのがおもしろいですね。それをやらなきゃつまらない。その志で取り組んで欲しいです。

4チームの企画案をプロクリエイターが講評

第2部では、バーチャル建築家の番匠カンナさん(リモート参加)と劇作家/俳優の山田由梨さんが加わり、各チームが企画案を発表しました。

左から、細田守さん、番匠カンナさん、山田由梨さん

参加チームは4つ。各チームの企画内容と、細田さん、番匠さん、山田さんからの講評は以下のようになりました。


チーム名:VFmovieエンターテインメント

案1「色褪せない君と過ごした夏」
15年前に亡くなった友人と約束した大会優勝の夢を叶えるために過去に戻る物語。

案2「IQ2万高校生」
宇宙から爆弾が降ってくる、IQ2万、といった非日常感と共感できる感情に心揺さぶられるシナリオ。

案3「夢文化祭」
メタバースらしさを生かした不思議体験を、文化祭を舞台に友情やドキドキ感とともに感じられる物語。

番匠さん テーマ、舞台のスケールが大きくて、日常からぶっ飛んだ作品がでてきそうですね。バーチャルだからこその部分をもっと検討してみるといいかもしれません。人の死や世界の滅亡などは、バーチャルだと現実と異なるものが考えられるのではないでしょうか。

山田さん 長編アニメーションができそうな壮大な案で、とても気合が感じられて嬉しいです。メタバース上での学園生活というそもそもの設定が少し抜け落ちている部分もありそうなので、メタバースの学園生活、そして5分程度という条件を改めて考えてみるといいでしょう。みんなが実際に体験しているメタバース上での学園生活の実感について追求すると、さらに良くなりそうです。

細田さん メタバースだからこそにこだわるというより、やりたいことをそのままやればいいのではないでしょうか。例えば「IQ2万高校生」などはタイトルもものすごくキャッチーなので、このまま進めてほしいですね。3案とも、とてもおもしろいと感じました。

チーム名:Diversity

案1「放課後の教室」
放課後におしゃべりをしていた仲のいい3人グループが、オーロラに包まれ、気づくとみんな同じAIになっている。

案2「非現実世界」
夏祭りのバーチャルワールドを友人と遊んでいるときに神隠しにあう物語。

案3「バグの入り口」
メタバースの東京で遊んでいるJK3人組がまちなかのバグを発見。その先には異世界があった。

番匠さん AIというキーワードが出てきましたが、ぜひチャレンジしてほしいですね。バーチャル世界とAIは相性が良くて影響も大きいはずです。メタバースの学園生活を描く上で、欠かせない視点になるのではないでしょうか。

山田さん 自分が(デジタル)ネイティブじゃない感をひしひしと感じた企画案でした。企画内容で私にとって意味が分からない部分も多く、例えば「バグの入り口」のバグを発見するという発想自体も私にはないものです。ものすごく興味がわいています。

細田さん 3案ともすごくおもしろいですね。どれもホラーめいていて、エンタメの要素も感じられます。アナログ的なものとデジタル的なものとの対比など示唆的でもありますね。3案の要素を合わせてもいいかもしれません。すごく期待しています。

チーム名:Virtual Vision

案1「未知のバーチャル学園」
一つの視点から見た群像劇コメディで、正反対のものどうしの融合(例えば現実と非現実、学校と放課後など)がキーワード。

案2「多様性との出会い」
多様性を主なテーマにバーチャル空間上の学校を舞台とした物語。

案3「トワ・エ・モア(君と僕)」
現実とバーチャル空間の融合を主なテーマとしたギャグファンタジー。

番匠さん 企画書のイメージがとても魅力的でわくわくしました。3案とも、とまどいから出会いを経て変化するという共通したストーリー構成がありつつ、案ごとに微妙に違いがあって、自分の居場所をみつけるのか、自分の考え方が変化するのかなどで描くものが変わってきそうですね。バーチャルなら、個性などの本来、目に見えないものも可視化できるので、その辺りも映像化のヒントになりそうです。

山田さん バーチャル空間に抵抗のある登場人物が自分の居場所を見つけていく過程を描くことはドラマ制作自体のコンセプトにも合っていますね。バーチャル空間に馴染みがない人にとっても共感できる部分です。ビジュアルがかわいくてキャッチーで、キャラクターの設定が細かく考えられています。

細田さん 全体的にメタバース的なものの王道に真正面から取り組もうとしているところがいいですね。N/S高の生徒しか知らないバーチャルの学園生活を世界に伝える作品になるという点でも、ものすごく意義深いです。特に、案3の「トワ・エ・モア(君と僕)」のギャグファンタジーはとても楽しみです。

チーム名:RINK2 STUDIO

案1「Endless Reality」
「このメタバース空間から脱出する方法をみつけなければ、現実の世界での生命力も失われる」というメッセージから展開するミステリー。内気な主人公が困難を乗り越えて成長していく物語。

案2「キャンバス」
自己表現に悩む主人公が友人と描く絵を通じて成長していく物語。

案3「超越」
メタバースの学園の青春がテーマなのに学園が舞台ではない点が注目ポイント。

番匠さん 案2の「キャンバス」など、小さなものから想像を広げていく考え方に魅力を感じました。バーチャル空間では、ちょっとした指先の動きで世界全体に大きな変化をもたらすことができるので、相性も良さそうです。トランスジェンダー、性差の問題がカジュアルに不思議な崩れ方をしていますね。

山田さん 私も案2の「キャンバス」に注目しています。容姿にコンプレックスを抱いている女の子と、心が女性の男性の話ですね。企画案を読んで、バーチャル空間におけるある種の平等性を考えさせられました。バーチャルの中におけるコンプレックスからの解放や自由な自己表現の可能性など示唆的です。

細田さん 企画案全体に批判性があります。例えば、案1の「Endless Reality」は、メタバース空間から脱出する方法を見つけるというストーリーですが、単純にバーチャルの空間がいいというわけではなく、バーチャル自体の問題や人間そのものの問題に対する批判精神が感じられます。案2もそうですね。

新しいコミュニケーションと新しい身体性

イベントの最後は、生徒たちの企画案を聞いた上で感じたこと、考えたことをプロクリエイターの3名が伝えました。

―メタバースの学校にどのような可能性と課題を感じているか

番匠さん まず公平性の面に希望を持っています。多くの人の場合、学校や教師を選択できない状況にあります。運ゲー的な要素がある中、メタバースの学校という存在が開かれていけば、さまざまな人が公平に隔てなくおもしろい教育の機会を得ることができるのではないでしょうか。

インターネットやバーチャル空間の存在によって、今まで諦めていたことが諦めなくていいことになっていくでしょう。

また、バーチャルを活用すれば既存の教育を超えられます。バーチャルの強烈な視覚・聴覚体験は映画に似ていて、自分の意志でアバターを操作できる点ではゲームに似ていたりもします。現実と見紛うような記憶に残る強烈な体験が可能です。

学校にとってメタバースはとてもおもしろい空間になるので、みんなで可能性を広げていきたいですね。

―まだ実現していない未来の世界をバーチャル空間の中でアバターを着て演じる作品制作のあり方は制作者にとってどんな意味があるのか

山田さん 非常にアナログな演劇の世界に身を置く私にとって分からない世界です。たとえばアバターは、演劇の演出家の立場からすると表情やアクションが少なすぎてたじろいでしまいます。

一方で、バーチャルの世界ではそれを踏まえて相手の気持ちなどに対して想像を含んだコミュニケーションが成立しているのでしょう。すでに新しいコミュニケーション、そして新しい身体性が生まれているのだと思います。

バーチャル空間上でアバターで演じるということは、そうした新しいコミュニケーション、身体性を使って表現をしていくことになるのでしょう。

―未来の社会を物語として描くとき、観客には一体どんなことを問いかけるべきか

細田さん 23年前にインターネットや仮想空間をテーマにした映画を制作したときは、若い人が古い世界を壊して新しい世界を打ち立ててほしいというポジティブな思いだけで作っていました。

インターネットや仮想空間が一般化してきた現在は、肯定的な面と否定的な面が浮き彫りになってきて、そうした背景の中で改めて、現実とは何か、自分とは何かが問われる世界になってきています。作品としてこのような世界を描く場合、より深みのあるおもしろい内容になるでしょう。

また、人間とは何か、心とは何かがバーチャルを経ることで分かるかもしれない、そんな期待感もあります。このプロジェクトは、高校生のみなさんがそうした問題に取り組めるいい機会です。ぜひ楽しんでほしいですね。


このキックオフを経て、各チームはさらに企画をブラッシュアップ。9月の最終発表会に向けて、現在、映像制作中です。各チームの作品が仕上がりましたら、また紹介させていただきます。ご期待ください。

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