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正しい選択、正し「かった」選択

 「人生は選択の連続だ」年を取るにつれてこの言葉の意味を思い知ることになる。どの高校に行くか、部活に入るか、大学に行くか、どんな仕事に就くのか、結婚するのかしないのか、などなど。そして、一度選択した後も「あの時こうしていればよかったんじゃないか?」「あれは正しい選択だったのか?」考えてしまうことがある。何かを選択するのに悩み、一度選択してからも悩み。とにかく、何かを選ぶのはつらいし、めんどくさい。そして今回紹介したいのは、この「選択」が一つのテーマになっている本。

 朝井リョウさんの「武道館」という小説だ。

 タイトルからも分かるように主人公は5人組アイドルグループ「NEXT YOU」。彼女達が、あこがれの舞台「武道館」を目指して活動する日々を描いたお話。基本的に、メンバーの一人である愛子の主観で物語が進んでいくが、アイドルから見たファンの視点、アイドルを支える運営の視点なども節目節目に織り込まれている。

 あらかじめ言っておくと、別に俺自身はアイドルに興味がない。好きとか嫌いとかそういう次元の前段階。ところが、物語にぐいぐい引き込まれる。それは、朝井リョウさんが、彼女たちが「選ぶ」ことに葛藤する姿を、鮮明に(「鮮明に」という言葉が正しいのか分からない。とにかくいちいち目に留まる言葉の使い方をしているということが伝えたい。)描き出しているからかもしれない。
 俺なんかよりは、ずっと早くアイドルになることを自分一人で選び、それ以外の、例えば普通の中高生として文化祭や体育祭をクラスメートと楽しむ道、部活に熱中するなんかは選ばなかった彼女たち。
 そんな彼女たちの内、武道館という大舞台を目前に、「選ぶ」という壁にぶち当たる2人がいた。1人はもちろん、主人公・愛子。そしてもう一人はNEXT YOU不動のセンター・碧。2人にはそれぞれ、思い合っている人がいた。もちろん、当時アイドルに恋人なんてのはご法度。彼女たちはアイドルであることを選ぶのか、それとも一人の女性として幸せになることを選ぶのか。(この二つの道が両立しないのがアイドルという矛盾した存在で、なんか興味深い。)そんな土壇場での二人の会話。

碧「ねえ、愛子。私、これまで、正しい選択をしようってずっと考えてた。
アイドルとして間違ってないかとか、ファンを裏切らないかとか、マネージャーに怒られないかとか、とにかく正しい選択をしなきゃっていっつも思ってたの。でも、正しい選択って、この世にあるのかな?」

愛子「正しい選択、あるよ、ある。だって今まで、私達、正しい選択ばっかりしてきたじゃん。だから武道館にも行けるんだよ。先生もそういってくれてたじゃん。」

碧「私はそう思わない。正しい選択なんてこの世にない。たぶん、正しかった選択、しか、ないんだよ。何かを選んで選んで選び続けて、それを一個ずつ、正しかった選択にしていくしかないんだよ。

 少し自分の話をする。元々勉強は好きだったし、自分の選択肢を狭めないためにそれなりに努力してきたつもりなので、大学に入るまでそんなに迷うことはなかった。今思えば、選ぶことから逃げていただけかもしれないけど。ともあれ、そうしてがむしゃらにやってきた結果、大学に入っても多くの選択肢が手の届く範囲にあった。そういう意味ではすごく恵まれた環境にいたのかもしれないけど、目の前に広がる無数の選択肢に戸惑い、迷った。一番迷ったのは2年前。1年間留学するのか、とりあえず4年で卒業して教員になるのか。

 結論だけ言うと後者を選んだが、「留学するべきだったんじゃないか」「お前、留学から逃げただけだろう」そんなことを考える夜があった。自分としては、人生で一番、悩んで悩んで悩んで、なんとか捻り出した結論だったが、それでも自信が持てず、もやもやしていた。

 引用した、碧の言葉に出会うまでは。葵が言う通り、何かを選んだその時にそれが、正しいかなんてわかるわけがない。ただその選択が、正し「かった」と思えるよう努力することはできる。自分で選んだくせに、それを誰かのせいにしたり、後悔したり、何かの言い訳に使ったり、なんてのは、なんだか悲しいことだとも思う。そう考えると、何かを選ぶということがそんなにめんどうなことでも辛いことでもないなあ、なんて思えてくる。

 「選ぶ」ことに葛藤する全ての人に「武道館」を読んで欲しい。碧の「正しい選択なんてこの世にない。たぶん、正しかった選択、しか、ないんだよ。何かを選んで選んで選び続けて、それを一個ずつ、正しかった選択にしていくしかないんだよ。」という言葉が必ず背中を押してくれるだろうから。

 ちなみに朝井リョウさんの本はまだ多くは読めていないけど、他には「少女は卒業しない」「もういちど生まれる」なんかがおすすめです。まずは「武道館」ね!!!


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