うさぎのたべのこし

 私は更衣室で上履きを手に立ち往生していた。自分のロッカーがわからなくなってしまったからだ。

「かわいいって使えなくなったんだって」

 隣にいた友人がそんなことを言った。『かわいい』という言葉が突然廃止されたのだと。

「え、じゃあなんて言えばいいの」

「『うさぎのたべのこし』だよ」

 なるほど。確かに可愛い気がする。

 私はようやく自分のロッカーを見つけて、上履きをしまうことができた。4人で一つを使うタイプの、少し大きなロッカーだった。

 そのロッカーの中には古いパソコンが入っていて、掲示板のようなものが開かれていた。丁度、とある人の話題でもちきりだった。

 とある人は最近新しい家に引っ越して、広い部屋で大きな抱き枕を抱いて眠っているのだけれど、何でもその抱き枕は、クマの形をしているらしい。それに呆れた同居人は出ていってしまった、とも書かれていた。

『うさぎのたべのこし』

 少し考えて、私はそう書き込んだ。賛同のコメントがいくつか、その下に続いた。私は嬉しくなった。

 とある人は、うさぎのたべのこし。それから、それが当たり前になった。

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