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ep.12 名前も知らない映画のような日々の話 後編


ep.10 ep.11 『名前も知らない映画のような日々の話』シリーズの続きです。




付き合うなら次が最後がいい。27歳までに結婚したい。


元恋人と別れた時に自分の中で掲げたライフステージへの理想と、今自分が立っている状況との乖離。
そもそも、30歳まで結婚はしないと思う、と言われたところで、いつまで一緒にいられるかなんてわかるわけがないから難しく考えなくても良いのだろうか?
でも、仕事を優先すると先に言われていて、きっと寂しい気持ちになる時があるだろう、と最初から分かっているのに私は「好き」の気持ちだけでその場に飛び込めるほど強い女だっただろうか?というか、彼の言う付き合う覚悟はいつ出来るのだろうか?


次会うまでの数日間色々なことを考えましたが、明確な答えは出ないまま、気づけば次に会う日がきていました。



仕事終わり、待ち合わせした駅までの30分ほどの時間がとても長く感じました。
駅を出ると彼は出口からすぐのところで待っていました。彼が、「美味しいから百ちゃんを連れて行きたい」と言って教えてくれた町中華に二人で行って、ビールと定食を頼みました。
この間の話はお互い特に出さず、他愛ない話をして過ごしました。私の瞼に乗っている大粒のラメが時々自分の服に着いていて、居ないのに存在を感じる、だとか、まとまった休みがとれたらどこか旅行に行きたいよね、とか、そんな話を彼はのんびり、ゆっくり、しました。




「私達が出逢ってからの毎日って まるで どこかの小さい映画館のレイトショーで流れている、知らない誰かが作った自主制作映画のような日々じゃない?」

二人でそんな話をしました。

「いつか百ちゃんを題材にして絵を描くって決めているんだ。」

「えぇ本当?じゃあ楽しみにしてるね」




帰り道、いつも駅まで送ってくれる彼に、いつも送ってもらっちゃって悪いよ、と伝えると


「百ちゃんはお姫様だからね、何でもお申し付けください」


と、彼は執事のようなポーズをとっておどけてみせて私を笑わせてくれました。


「ちょっと変な目で見られるからやめてよ!恥ずかしいじゃん」


と、周囲の視線を感じながら慌てる私を見て嬉しそうに楽しそうに笑っていた彼の顔を今でも覚えています。
「次会う日はまたLINEで」と交わして 改札を入り、少し歩いて振り返ると彼は笑顔で手を振ってくれていました。私も笑顔で振り返しました。



この日を最後に会うことをやめました。



別れはわりとあっさりとしていて、電話で「会うのやめよう」と言った気がします。付き合っていない、中途半端な形のない関係性でい続けることも、少なくともあと6年は結婚出来ないと既に分かっているのも、やっぱり私は嫌だった。もう24歳、周りがチラホラ結婚し始めるのを見て、結婚を意識してお付き合いできる恋愛がしたい、と思うようになった、多分自分は焦っているんだと思うと伝えました。


彼は、私の話を静かに聞いて、ひと通り私が話終えると、優しい声で「分かった。そうだよね、中途半端なままにしてごめんね」と言いました。
ズルい。謝らないで欲しい、私だって中途半端なままにしていた、私こそごめんなのだ。



形がなく始まって、形がなく終わって。
私達は恋人にもなれず、最初から他人のまま、また他人に戻ることになりました。





一緒に夜の赤羽を散歩した時

「百ちゃんは、蝋燭の炎みたいだよね。」

と言われたことを今でも時々思い出します。


「百ちゃん、蝋燭の炎みたいに美しくてずっと見ていたいと思うのだけれど、どこか消えてしまうような気がして儚い。」

どちらかと言うと消えて欲しくても消えない図太さの方が私には似合う言葉な気がして、その時は
「私、儚いと程遠いところにいそうだけど」
と笑って返してしまったけれど、彼の言葉に近い終わりになってしまった。そう思いました。

自然に一緒にいるようになって、それが当たり前で、お互いに好きだとか付き合おうとか言葉にしなかったけれど、私は彼が紡ぐ言葉、感性がとても好きでしたし、言われた言葉は今も人生で言われて嬉しかった言葉の1つとしてしっかり覚えています。




「いつか、仕事が良い感じになって、自分の気持ちが整理出来た頃に、個展を開くことにする。百ちゃんとの日々を絵という形に残すから、その時は見に来て欲しい」



電話の最後に彼にそう言われました。
「お仕事、応援している、ありがとう」 と答えて電話を切りました。




私は彼に言った理想のとおり、次に付き合った恋人と26歳で結婚、今は旦那と二人、幸せに生きています。

彼が今どこでどうしているのかは分かりませんが、私が知らない誰かと、私が知らないところで幸せでいてくれたら良いな、と思います。
ただ、彼の動向を知る機会がありました。





あの日の電話から1年半〜2年後くらいのこと、YouTubeで某アーティストの新曲のミュージックビデオを流して見ていた際に、最後の方に様々な制作スタッフの名前が流れてくる中で、美術、デザイン系で携わったスタッフの名前の中に見覚えのある名前が載っているのを見つけました。


彼の名前でした。




そしてそのアーティストは、彼が好きでよく口ずさんでいたアーティストでした。



ちゃんと頑張っているじゃん。



自分のことのように嬉しくなりました。


ちなみに、ep.1『はじめてのnote』で好きなものとして、"昔好きだった人に貰ったことから始めたフィルムカメラ"と書いていましたが、フィルムカメラを始めるきっかけとなったその人がこの彼です。
お別れしてからもそのカメラを使って何枚かは写真を撮ってみたりしましたが、なかなか使う気持ちになれず。現在の旦那と出会った時に旦那を撮るために別のフィルムカメラを購入してしまったため、結局現像出来ていないまま3年ほど経ってしまっています。枚数を撮り終えて現像したら、ここに載せさせて下さいね。



この彼のエピソードはここに書かなかったもので素敵な思い出として残っているものがいくつかまだあるので、また思い出すことがあった時にここに自分の気持ちの整理として、ちょっとした心の供養として、載せるかもしれません。
長くなりましたが、読んでくださってありがとうございます。






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