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「みんなのばしょ」が育むもの——NPO法人 岡山市子どもセンターのこと①

「おかやま親子応援プロジェクト」は、岡山県内で親子支援を行うさまざまな団体が連携して子どもの育ちをサポートする活動です。

今回はそのプロジェクトの“呼びかけ人”の一人である、NPO法人 岡山市子どもセンターの代表理事をつとめる美咲 美佐子さんにお話を伺いました。

 「子育て支援ではなく子育“ち”支援」——法人の活動コンセプトをそう語る美咲さんとのお話の中で見えてきたのは、子どもも大人も、だれもがゆるやかにつながり合える、新しい地域コミュニティのかたちでした。

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「みる」「あそぶ」「まなぶ」


——岡山市子どもセンターは50年以上の歴史があるそうですね。

そうなんです。もともとは「岡山子ども劇場」という前身の団体がありまして、昭和44年(1969年)の発足なんです。昨年ちょうど50周年を迎えたところですね。

——すごい。「劇場」が前身というのもちょっと面白いですね。

最近では学校での芸術教育に注目が集まったりもしていますが、もともと舞台芸術鑑賞を通じて子どもの感性を育む、というのが私たちの活動の原点としてあるんです。今では活動の幅がだいぶ広がり、「みる」「あそぶ」「まなぶ」という3つの軸で事業を行っています。

岡山市子どもセンターの3つの活動
 
「みる」
親子で参加できる舞台芸術鑑賞会(年5回)の企画・運営
「あそぶ」
「子どもが自分の責任で自由に遊ぶ」がコンセプトの子どもの遊び場「おかやまプレーパーク」の企画・運営。年に1回、その拡大版として「キッズフェスティバル」も開催
「まなぶ」
夏休みの間、中高生が地域の人と共につくる体験活動の場に ボランティアとして参加する「夏休みフリー塾」の運営

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「子育て支援」ではなく「子育ち支援」


——今でも舞台鑑賞会などの「みる」活動が中心になるんでしょうか?

いえ、今では「あそぶ」「まなぶ」の分野の活動がだんだん広がってきていいます。特に、子どものたちの自由な遊び場をつくる「おかやまプレーパーク」の活動は、日常的に常設で週5日開催するようになってから今年でもう13年目に突入しました。

そもそもプレーパークというのは、デンマーク発祥の子どもの外遊びのコンセプトで、日本では「冒険遊び場」と呼ばれたりもしていますね。「自分の責任で自由に遊ぶ」というのがその基本的な考え方なので、禁止事項やルールも特にないんです。

——なるほど。たとえば、プレーパークでは子どもたちはどんなことをして遊ぶんですか?

本当になんでもですよ(笑)。 「みんなで地面に絵を描こう!」という時もありますし、木材や道具がある時は「ハシゴをつくろう!」といって、皆と大掛かりな工作を始める子もいれば、一人で黙々と板に釘を打つ練習?のようなことをはじめる子もいますし、一人一人がおもいおもいに過ごせることが大切な遊び場なので……唯一、ルールのようなものがあるとすれば、それは「大人は手出しせず、見守りましょう」ということですね。つい、あれこれ口や手を出したくなるのですが、大人はグッと堪える。

プレーパークでは大人も子どもも関係なく、ただの「一緒に遊ぶ人」なんです。だから、気がつくとAくんのお父さんがBくんと熱心にベーゴマの対戦をしていたり、Bくんのお母さんがAくんとCちゃんの工作を手伝ったりしている……というような風景がプレーパークではよく見られますね。といっても、決して子どもを放ったらかしにしているわけではありませんよ(笑)。

プレーパーク_遊び6_大人子どもベーゴマ_Fotor

プレーパーク_野菜収穫_Fotor


——子どもが主体である、というところがキモなんですね。

はい、そこが私たちのこだわりでもあります。私たちの活動は「子育て支援」と言われることが多いのですが、これは大人の視点から見た時の言葉ですよね。より正確には「子育“ち”支援」だと考えています。もともと備わっている子どもの「育つ力」をサポートするために何ができるか?という視点を活動する上でも大切にしています。たとえば、料理する楽しさを知るためには、大人が用意した栄養満点の献立やレシピをなぞるよりも、多少失敗しても友達とあれこれ遊びながら楽しく作る経験の方が大切だと思うんです。そこに気がつくと、大人と子どもの関係性も変わってくるような気がします。

ここは「みんなのばしょ」


——もう少し「おかやまプレーパーク」についてお聞きしたいのですが……週5回開催ってなかなかですよね(笑)?

うーん、大変は大変ですけれどね(笑)。でも13年間同じ場所で続けてきたおかげで、当時遊びに来ていた幼児や小学生たちが成長して、中学生・高校生になって学校帰りにプレーパークに立ち寄ってくれたり、手伝いをしに来てくれたりするんですよ。中には結婚してお子さんを連れて親として来てくれる方や、おじいちゃんおばあちゃんがお孫さんを連れてきたりもしますね。それこそ、赤ちゃんからご年配の世代までいらっしゃいますよ。

——いい話ですね。そういう誰でも入れる「ゆるいコミュニティ」ってありそうであまりない気がします。

そうですね。コミュニティというよりも「居場所」という響きの方が近いかもしれません。たとえば、学校帰りに立ち寄ってくれる中学生や高校生たちは、手伝いのついでに悩みというほどじゃないけど、ちょっと悶々としていることなんかを、その日来ている大人や同世代の子達にボソボソっと打ち明けていたりします。なかには学校に行きづらい子どももいますが、プレーパークには来られるという子もいますし、日中はご年配の方もいますからベンチで一緒に座って過ごしたり、たまに碁盤を囲んだりしている姿も見かけますよ。

最近では在宅勤務の方が増えたせいか、今まであまり公園に来られなかったお父さん・お母さんたちが知り合う場所にもなっているみたいです。なぜかお父さんたちはずいぶん居心地がいいみたいで、朝に来てお昼過ぎてもまだお子さんとくつろいでいたりしますね。屋外の広い場所ですし、無理に誰かと話したりしなくてもいいのが気楽なのかも(笑)。

プレーパーク_遊び3_Fotor

——わかります(笑)。

でも、そういういろんな人のゆるやかなつながりがある場所だからこそ、時々思いがけない交流が生まれたりするんですよ。

——ぜひ聞かせてください。

そうですね……例えば、パッと見ただけではわからない持病や障害のある子っていますよね。ある日、その子育て中のお母さんがプレーパークで休憩されていて。そこで近くに座った方とあれこれ子育てについてお話しされていたんです。おそらくですけれど、お悩み話とかだったんじゃないかな。で、そのすぐそばで遊んでいた小学生の女の子がその話をたまたま聞いたみたいで。クルッと振り返って「えー、そんなの私も一緒だよ!全然変じゃなくない?」とあっけらかんとそのお母さんに向かって言うんですよ。「うんうん、大丈夫だよ」って。

どんな人に言われるよりもそのお母さん、励まされたと思うんですよ。その女の子には、これっぽっちも「励ましてあげなきゃ!」とかそういう気持ちはなかったと思うんですけれど。そのお母さんも女の子に向かって笑顔で「ウチの子もあなたみたいな子になったらいいね」なんて声をかけたりして。その女の子もニコニコ照れくさそうにして。

2020_鑑賞事前_ランドセル2_Fotor

——めちゃくちゃいい話じゃないですか……。

このお話はなかでも印象的だったものなので、頻繁にそんなことが起きているわけではありませんが……たとえば、美容師のお母さんが、髪の毛が伸びている中学生の女の子の髪を切ってあげたりとかね。そういうちょっとした交流はプレーパークのそこここで生まれていますね。

——単なる子どもの遊び場の提供、というよりも、今おっしゃったようなそこで生まれる交流の多様さ、バリエーションの豊かさみたいなところに「おかやまプレーパーク」の魅力があるんだろうなと思いました。

そんな風に言ってもらうと、恐縮してしまうんですが(笑)。でも偶然にせよ、初対面の大人と子どもが向き合って話せるようなシチュエーションが生まれる場所ってそんなに多くないと思うんです。いつもコテコテにつながっている必要は全くなくて、だれでも、ゆるやかに、なんとなくつながりあえる、そして時々支え合ったりもできる……私たちのプレーパークが、そういう「みんなのばしょ」になればと思っています。

場所_こどもの森_美咲_Fotor

だれもひとりではない


——今後はどんなことに力を入れていきたいとお考えでしょうか?

学校でも異年齢集団の交流活動などが始まっていますが、多様な人や価値観との出会いの場を持つことは、子どもの育ちにとってはすごく意味のあることなんです。両親や学校の先生や塾の先生だけじゃない、いろんな大人のいろんな価値観に触れることで子どもは「自分とは違う考え方が世の中にはこんなにたくさんあるんだ」そして「人と違っていて当たり前なんだ」ということを体験をとおして知ることができます。

子どもに限らず、コロナ禍で人や社会やコミュニティとの物理的なつながりが失われて、孤独を感じたり不安を感じたりする人は増えたと思います。そんな時に、オンラインでもオフラインでも、誰でも参加できて、ゆるくつながりあえる場所への入り口が開かれていることは、これまで以上に重要になってくると考えています。

——コロナ禍をきっかけに「おかやま親子応援プロジェクト」という新しい活動も開始しましたね。美咲さんはこのプロジェクトの“呼びかけ人”でもあります。最後にこの活動にかける意気込みをお願いします。

今、いろいろなことが変わり始めていると思います。テレワークが普及したことで働き方が変わり、家庭環境が変わり、子どもたちの周囲でもオンライン授業などの変化が生まれています。そんな変化の最中で、「子どもたちの育ちを止めない」ためにできることはなんでもやろう——そんな思いで立ち上げたのがこのプロジェクトです。

岡山には、さまざまな形で子どもやその親たちをサポートしている団体や個人の方が本当にたくさんいます。私たちのような一つの団体では実現できないことも、一緒に取り組むことで「だれもひとりではない」というメッセージを多くの人のもとに届け、地域に新しいインパクトが起こせるのではないかと思っています。

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美咲さんへのインタビュー後編は後日 UP 予定です。お楽しみに!


インタビュー/文:前川達彦(楽天株式会社)
取材協力:NPO法人 岡山市子どもセンター


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