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支援付き住宅の全国展開 自立サポートセンター・もやいの状況

「コロナ緊急|家や仕事を失う人をひとりにしない支援を」から始まり、その後もコロナ緊急事業から生活困窮者全般への支援と発展していった「支援付き住宅の全国展開」。各地で担っていくパートナー団体の一つであり、首都圏を中心に活動する認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西さん、田中さん、川岸さんの御三方にお話しをお伺いしました。

左から、川岸さん、大西さん、田中さん

ーそれではまずもやいがどのような支援事業をやっているのか、また今現在大きく分けて4つの事業をされていますが、その概要・どのような経緯で始められたのか教えていただけますか?

大西:  もやいは2001年にスタートし、主に都内中心の生活困窮者への支援を行っている団体です。最初は住まいのない方がアパートを借りる際に、連帯保証人が必要なので引き受けるという活動をしていました。これまで延べ2400世帯ぐらいの方に連帯保証人を提供しています。最近は保証会社を使われる方が増えたので、そういった方に向けては緊急連絡先を提供するという形で延べ1300世帯ぐらい、合わせて3700世帯ぐらいの方の住まいの確保の支援をしています。


炊き出しの様子



しかし、住居を確保しても、家族だったり、職場や友人との人間関係・繋がりを失ってる方がたくさんいらっしゃって、我々が支援してアパートに入ってもその後の生活がうまくいかない人も出てきました。そこで居場所作りのために交流事業というものもスタートしました。この中にはいろいろな形態の事業があって、「サロン」といって毎週土曜日に食事会を開催したり(コロナ禍の影響で現在休止中)、コーヒーの焙煎や農業だったりとこの20年間でいろんな居場所作り・社会参加の機会作りをやっています。
また居場所があってもお困りの方もいます。そういった方に向け電話・面談・メール、コロナ禍ではチャット相談をする事業を始めました。コロナ以前だと年間4000件ぐらい、コロナ以降は年間6000件ぐらいの生活に困ってらっしゃる方から相談を受けています。元々野宿の方やその周辺にいらっしゃる方を支援していましたが、2000年代の半ば〜後半ぐらいには、当時TVなどで「ネットカフェ難民」と呼ばれていたような方からも相談が来るようになりました。ご家族連れやカップルだったり、家庭環境に様々な問題を抱える方など、首都圏に限らず全国各地からご相談いただいています。
以上入居支援事業と交流事業と相談事業の3つがいわゆる当事者の方、お困りの方を支援する事業で、そこから見えてきたことを情報発信メディアを通じて発信をしたり、国会や霞が関に対して政策を求めていく広報啓発事業の計4つの事業を行っています。

ーコロナ以降相談者が増えつつあるようですがそれに伴って事業内容に変化はありましたか?

大西:  コロナ以降事業を拡大して2020年4月から毎週土曜日に新宿都庁下で食料品の配布活動、先述のチャット相談、オンライン上のアプリで生活保護の申請書を作れるシステムを開発するなどの新しい取り組みを始めました。2020年9月ぐらいから始めたシェルター事業もその一つです。
 住まいを失ってご相談に来られる方へ公的に案内される施設・宿泊場所は年齢が全然違う人たちと複数人で共同生活をするような形をとっているところもあり、若い人たちや女性が住みにくいという話はよく伺っていました。なのでアパートのような場所で単身で生活し、ご自身のアパートを契約するまでのステップにしていただけるような環境が必要だと感じ、抱樸さんのパートナー団体としてシェルター事業を運営しています。2020年の下半期から5部屋でプレスタートして翌2021年には休眠預金の事業も合わせて取ったので全部で9部屋運営していました。現在は休眠が終わったので、ちょっと減って5部屋。現在までに26名の方が利用されています。

ー生活支援付き住宅はどのような方が利用されてきたのでしょうか?また運営してみて感じたことや気づいたことなどあれば教えてください。

大西: 40代50代で入られる方もいらっしゃいますが、全体的に見て若年層だったり女性の方の利用が多いかなと思います。これはコロナ禍という文脈自体が若い方や女性の方も困窮してしまう傾向に紐づいてることが要因ですが、一方で変数的に相談年間6000件のうち面談だけでも1000件以上来られるので全員の方に入っていただくということはできず、ご本人の課題感やバックグラウンドを鑑みてシェルターにご案内する形をとっています。初めて生活に困窮して支援制度を利用する方は若年だったり女性の方が多い傾向にあり、加えてご家族との関係が非常に厳しかったり精神的な疾患を抱えていたり複雑なバックグラウンドを持っている方が多い印象です。
 若年層の利用者さんは実家を出たり、友人宅からシェルターへ入られる方が多いので、実家の居辛さだったり、カップルで別れた後知り合いに泊めてもらって転々としていたようなケースが多く、これまでのホームレス支援の文脈には乗ってこなかった階層の人たちが多いと感じます。みなさん精神的にしんどい思いを抱えていたりするので回復まで時間がかかったり、携帯電話を滞納していたり、身分証をそもそも持ってなかったり。当然これらの問題をクリアしないと次のアパートに移れないのですが、想定してたよりかなり長い期間シェルターに入られる方が増えていると感じます。

川岸: メンタルが落ちてる方なんかは訪問看護・診療と繋げたり、ご自分でケースワーカーさんとうまくコミュニケーション取れない方がいたらその時はちょっと後押ししたり、外国籍の方だったら大使館と連絡を取ったり、お互い依存関係にならない程よい距離感を保ちつつ周りを巻き込んでサポートしていくっていうのが大事かなと思っています。

ー首都圏は家賃も高く、シェルターを出てアパートを探すのも大変そうに見えますが実際のところいかがですか?

田中: 物件探しは本当に大変ですね。住まいの貧困問題は深刻で、東京だと生活保護で53,700円住宅扶助が出るんですけど、23区内で地価が違うので新宿渋谷になると風呂なしの物件がざらですし、最低でも60,000円以上出さないとシェルターのような物件にはたどり着けないんです。

大西: これまで営んでいた生活水準と実際の支援・生活保護の基準のギャップに戸惑ってしまう方はおられますし物件に関しても、23区内でも郊外だと見つからないこともないのですが、一方で例えば新宿区とかで生活保護申請した人が住居を練馬区や足立区など他区に申請しようとすると移管手続きを役所同士ですることになるんです。移管元の区は問題なくても移管先の区は保護世帯を増やしたくないので何でみんな都心から郊外に送ってくるんだってバチバチやり合ったりして。そんなこと我々や利用者さんにとってみれば関係ないことですが、当事者の方からするとそういった役所同士のやり取りや不動産業界の慣習のせいで時間がかかり、煩わしさや戸惑いを感じてしまう方はいらっしゃいます。シェルターに入ってるときにも通院先だったり訪問看護が必要に応じてつきますが、新しい場所に移るときにはスムーズに移行できないことなど様々なハードルがあると思います。
もやいで持っているシェルター物件って実は結構良い物件なので生活保護の方が自分でアパート借りるとシェルターの環境よりもどうしても下がってしまうんです。ある程度我々の事務所からスムーズに訪問できる環境だとなかなかいい物件がなくて、住宅扶助を超える6万円台の物件だったりするんですね。ということは逆に言うとご本人で自分のアパートを借りるよりやはりシェルターに残った方がいいっていう気持ちになる人も出てきてしまうという難しさがあります。だからといって我々のシェルターを生活保護基準の物件にしてしまうと今度は物件・地域の環境があまり良くなかったり、我々が支援しづらい遠方の場所に借りなきゃいけなくて利用者の生活の利便性も良くなかったりするので悩ましいところです。政策実現ということを考えるとそこはハードルになるのかなと思いますし、モデル事業として何か工夫をしなきゃいけない部分なのかなと思いますね。


食料配布の様子

ーコロナもまだ終息とは言えない状況でさらに物価高や円安も叫ばれていますが、もやいの活動への影響はありますか?

大西: 毎週土曜日に都庁下でやってる食料品の配布活動に来られる方は、コロナ初期2020年の4月で100人ぐらいでしたけど今は毎回600人を超えるような人数になっていて、特に昨秋以降かなり増えてきています。こちらも若い方、特に女性の方が多くなってますので物価高や円安の影響というのはそういったところに見てとれるのかなと思います。

ー600人まで増えたのは驚くべき数字ですね。

田中: はい。2020年4月から現在でもう5万食を延べで超えたんです。600人が毎週来るんです。派遣村の時ですら500人でした。

大西: 派遣村の時、全体で500人中女性は5人だったんです。でも今都庁下に来られる方の600〜650人中110人ぐらいが女性なんです。その量の食料品を用意して配ってるってちょっと我々の理解の範疇を超えてるといいますか、我々も抱樸さんのようにお弁当にお手紙を添えてお渡ししたいんですけど650食分はちょっと無理なんですね。最初100食くらいの時はお弁当で出せていたんです。でも150食を超えた時点で業者さんからちょっともう作れませんと言われてしまいました。数のロットが加速度的に大きくなっていたので、そこでアルファ米や果物や缶詰などいろんなものを組み合わせる形にしました。

田中: 大西さんや僕は配布活動のために毎週倉庫作業で大汗をかいて作業しています。倉庫作業は本当に肉体労働で、あちこちが傷だらけになります(笑)。

ー毎週ご苦労様です。他に何か呼びかけたいことというか、何かもっと知ってほしいことなどありましたらお願いします。

大西: コロナの文脈は国とか自治体支援の政策の中でこれから徐々に薄れていくと見ています。例えば緊急事態宣言やまん防が出ていた時、東京都は若い年代の方とか女性で住まいがない人向けにビジネスホテルを借り上げて必要に応じて提供していて、これは複数人部屋の施設ではなくて個室のビジネスホテルに入れるという点ですごくいい事業だと思いました。ただそういった事業はもう終わってしまっていて、多分これからちょっとずつコロナ前の状態に戻ってしまうと思います。もちろん東京都のホームレス対策事業も個室化を進める方針を出しているので、全部が全部ネガティブなことではないんですが、ただそのような施設では個室だったとしても集団生活になる部分があるので、そうじゃないような環境をきちんとセーフティネットの一環として用意していくっていうことは必要だと思ってますし、ささやかながら20数人の支援実績でしかないですが、このコロナで約2年とやってきて手応えは感じています。我々のシェルターがなかったらうまくアパートに繋がれなかった方はたくさんいたんじゃないかという思いもあるので、ビジネスホテルみたいな宿泊もそうですし、よりアパートに近いような形のシェルターがもっと普及して、そこからアパート転居へ向けた支援だったり、いろんな支援調整をするような相談機能が政策の中で重要視されていくといいなと改めて感じています。




田中: 支援の選択肢としてビジネスホテルがなくなってしまったことは本当に悲しいことですが、住民票が置けないのでマイナンバーが作れない問題点も確かにありました。だからその場合はアパートが良かったりする。やはり選択肢が選択的に担保されることと、それをコーディネートする役割が必要で、それこそその役割を担うシェルター担当川岸さんがもやいに来てくれてすごく効果があったんです。
けれど実際にシェルターに入りたい人はもう本当にいっぱいいるんですよ。毎回相談の度にシェルター使えないのか?っていう声がすごくたくさんあって、すごく苦しい思いながらももやいでなければいけない方に限らせていただいて使ってもらってるので、本来だったらもっとシェルター数や相談調整をする人員をもっと持っていればもっともっとできたことはあっただろうなということを反省しつつ、勿論資金的な部分にもすごく気を使いながら日々相談・連携しながらやっているということですかね。

川岸: 現場担当としてはやはりマイナンバーカードがもう少し早く取れないかなと思っています。これは行政の問題なんですけど。やっぱり根本的に行政との連絡が取りづらいとか、手続きの時間がかかるとかそのあたりが足かせになって本人のやる気も挫いてしまってるようなところがどうしてもあるのでその辺りもう少しどうにかならないかなと思います。

大西: 支援調整とか相談対応もそうなんですが、やはり役所じゃない立ち位置に我々がいるっていうことに価値があると思っていて、役所、例えば福祉事務所担当ケースワーカーさんとのやり取りで、我々が外部の人間として独立した立場から物を申せるっていうことは政策化をするにあたって大事じゃないかと思っています。支援者側も役所の人に紐づくと役所的な対応になってしまうので、実際に政策化していくっていうことを想定すると我々は下請けみたいな形じゃなく、協働相手でもあり時には対立までいかないにしてもきちんと距離を取りながら役所とコミュニケーションをとれるような関係性がいいんじゃないかなと思っています。役所の方で時間がかかってしまう物理的な問題が発生するケースも勿論あるんですけど、本当に担当ケースワーカーによって対応がガラッと変わることもあるのである程度独立した支援調整機能というものをきちんと持たないと下請けみたいな支援調整になってしまって当事者の利益・権利っていうものをちゃんと守ることができないんじゃないのかなと。今回抱樸のnoteに載るということなのであえて言うと、我々は権利(人権)というものを住まいであるとか、生活保障という形で守るということをすごく大事にしているので、それが本当に守られる形での住まいの支援じゃなければならないと思っているので、そこのバランスは常に意識しながら政策実現を目指すポイントの軸にしていかなきゃいけないと思っています。

田中: 支援者と被支援者の関係を超えて人間と人間として付き合っていくっていうのがすごく重要だと思います。やはり相談数が増えてくるとどうしてもそこを忘れがちになってしまうこともあるので、合理主義的な考え方になったり事務的になってしまわないよう意識しています。お家にヘルパーさんたくさん来てくれるけど寂しい方ってたくさんいるんですよ。それはなぜなんだろうかってことを真剣に考えなきゃいけないんですね。

大西: 単にソーシャルワーク的に考えるとサービス付ければいいと思いがちですけど、ヘルパーさんにしてもただちょっと業務を超えたような、個人的な会話だったりとか挨拶があるだけで変わったりするんです。機能的な意味のサービスをどう拡充するかっていうところは政策として勿論必要ですけど、ただその根っこにある人と人との繋がりというか、労わりとか思いやりというものが実はすごく重要だと思うんですね。ベースにあるハードの部分と、そういう意識って自己責任論とかいろんなもので削られてきたものだと思うんですけど、このご時世、コロナ禍を受けてそこを回復できたら生きづらさというものがちょっとでも軽くなるんじゃないかなとシェルターに入ってる若者たちを見て感じます。

ー本日はお忙しい中、貴重なお話どうもありがとうございました。


いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。