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コラム「境を越えた瞬間」2022年4月号-岩崎健一さん-

プロフィール

岩崎 健一(いわさき けんいち)

画家。1969年、仙台市生まれ。3歳の頃に筋ジストロフィーを発症。94年に気管切開して人工呼吸器を装着、声を失う。97年から仙台西多賀病院に入院し療養介護を受け生活今日に至る。
20年ほど前にパソコンで絵を描く生き甲斐を見出し、四季の草花の絵を描く。作品数はおよそ400点。2014年、宮城県石巻にて自身の絵と弟の岩崎航の詩とで合同作品展を開催。2018年6月、航と共著で画詩集『いのちの花、希望のうた』(ナナロク社)を刊行。WEBに作品の展示サイトを開設。

病院の1階のエレベーターホールにて


『転機になった大きな一歩』

花の絵を描く活動を続けている中で、2019年に縁あって「境を越えて」主催の『「生」を支える人と社会』をテーマにした作品の展示会とトークイベントへの参加の打診を受けました。様々な葛藤があり悩みましたが自身の壁を乗り越えたい気持ちが勝り、参加するご返事をしました。

数年ぶりに病院から外出することになりましたが、気管切開のため上手く意思疎通ができないのもあり、人前に出て自分の考えや思いを訴えるのは正直、苦手で避けていたというのが本音であります。展示会の要請は、私にとっては朗報で、願ってもないお誘いでした。これまで自作の絵の展示会は、各地で数回開催していますが、直に作品が展示されているところを目にしたことはなかったので、一度は足を運んで作品を見てみたいとの思いがありました。イベントの依頼を通じて「境を越えて」の方々の思いやりのある対応や人柄に触れ、活動の思いを伺い心から共感し、自分も少しでも貢献できることがあるのではないかと思い、清水の舞台から飛び降りる覚悟で参加させていただきました。

参加を決意したその時が私の境を越えた瞬間ではないかと思っています。勇気を出して自分で一歩を踏み出して、今までは見えなかった景色や可能性が広がっていることを知りました。

この決断は私にとっては、今までの考え方や生き方を変えるきっかけとなり、その後の生活にも良い影響を及ぼしています。

今回の件を通じて「境を越えて」の方々と出会い、活動に共感して共に集えたことは私の人生のかけがいのない財産となりました。「境を越えて」の皆様に心から感謝しております。在宅療養での介護ヘルパーの確保の難しさや様々な課題も聞くことができ、大変勉強にもなりました。

暮らしている場所は、在宅と病院とで異なっていますが、介助者の不足は共通する課題であることも分かりました。私は、障害の有る無しに関わらず、どこで暮らしていようと人生において自身の生きがいを持ち生き生きと暮らしている人こそが、一番幸せな人生を歩んでいる人ではないかと思っています。今後、障害者が自身の自由意思で暮らしの場所を自由に選び、差別意識や偏見がない、より良い社会となり、地域で共に安心して生活を営んでいけるようになることを切に願っております。

東北文化学園大学で行われたトークイベントに登壇(2019年10月)



コラム「境を越えた瞬間」は、これまでメールマガジン「境を越えて通信」にて連載してまいりました。今後は一稿一稿このように連載をしていくことになりました。
バックナンバーも、皆さまに読んでいただけるよう順次投稿してまいります。