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僕は本気で、ITの力で貧困を解決したい。

あけましておめでとうございます、大阪府出身27歳、CLACK代表の平井大輝です。大学4年生で立ち上げたCLACKも今年で5年目を迎え、新大阪、堺、京橋、五反田と4つの拠点を構えることができました。これもすべて皆さんの応援無しには達成できなかったことです。昨年は本当にお世話になりました。

突然ですが皆さん、ここでクイズです。NPO法人CLACKとはどんなことをしている団体でしょうか!「プログラミング教室?」「貧困解決NPO?」何となく名前だけは知っていても、意外と説明は難しいという方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはず、CLACKは、1つのキーワードで事業内容を説明できる多くの企業点団体と違って、「”IT”で”高校生の貧困”を解決する」という2つのキーワードで構成されているからです。

2023年は、この2つのワードを知っていらっしゃる方をどうにかして増やしたいと思い、noteを書くことにしました。これをきっかけに、CLACKに親しみを感じてくださる方が増えれば幸いです。

なぜ高校生の貧困なのか?


大阪の下町、うどん屋を経営する両親、倒産、離婚。これが僕の子ども時代の全てでした。通学路はラブホテル街を抜けていくようなところで、数時間おきになり続ける救急車の音が印象に残っています。繁盛しない昔ながらの飲食店を象徴するかのようにうどん屋には大量の漫画が並べられていて、僕は中学にあがるまではお店に入り浸り、置いてある漫画をだらだらと読みふける生活を送っていました。

転機を迎えたのは中学2年生のときでした。
上の兄弟が家を出るタイミングで、父親が自営業を辞めました。さらに勢い余って(?)両親も離婚してしまい、家族はバラバラになってしまいました。

中2の僕はどちらの親権を選ぶのかという選択を迫られました。
・教員免許を持っていて頼れる人もいるように見えた母親
・50歳を超えて借金を背負って無職になった、職人気質で友人の少ない父親

このとき、僕の選択に影響を与えたのは「ジョジョ」でした。
僕はジョジョの中でも5部、特にブチャラティが好きでした。


離婚した父と母、どちらについていくか母に訊ねられた場面で、
当時7歳のブチャラティは
「父さんといっしょに暮らす」
と答えます。

その時ブチャラティは本能的に離婚で真にダメージを負ったのが父親の方であると悟っており、自分がいっしょにいてやらねばならないのは父の方だと
判断したのです。

そんな彼の真似をしたかった僕は父親の親権を選び、その結果、経済的に非常に厳しい状況になりました。

部活の試合に行くための交通費がない。家の電気やガスが止まる。父の給料日前には冷蔵庫に食べるものがなくなる。そんな子ども時代、僕が抱えていたのは「なんかしんどい」という気持ちでした。なんか、周りに置いていかれてる気がする。なんか、自分だけ高いハードルを越えなきゃいけない気がする。

(余談ですが、当時の美術の時間に書いた自画像です。絵の具セットを没収され買えなかったので、友達に借りた茶色系の絵の具だけで描きました。美術は5段階で2でした)

大人になった今思うのは、僕のようにひとり親家庭や生活困窮家庭で育ってきた子たちに不足していたのは、①経験 ②つながり ③考え方なのではないかということです。

一般家庭の子どもたちは塾や習い事、旅行といった経験から、自分の興味関心、得意不得意を幼少期から追及できます。しかしながら、貧困家庭に暮らす子どもたちは、そのような経験に乏しく、学校と家以外の環境を見たことがあまりありません。そのため、自己決定の機会が不足し、自分自身の人生の選択を上手にできない、また、して良いと思えないような状態にあります。

経験が不足していることで、家族と学校の友人(同じように貧困家庭であることが多い)以外に繋がりもなく、学校の先生と親くらいしか大人を知らないことも多いです。一般家庭の子どもたちには居るであろう「困ったときに頼れる人」「こんな風になりたいと思えるロールモデル」に出会うことができないため、自分自身の困難な状態を認知出来なかったりします。

この2つによって、困難が立ちはだかったときに自分で対処する、自分の力で未来を切り拓くための頭の使い方が身についていないことが多く、生涯に渡って結局貧困から脱出できない、「なんとなくしんどい」状態になってしまうことが多いのです。

大学で様々な環境からやってきた友人と話すうちにこんなことに気づいた僕は、漠然とこの3つの不足を解決できる事業を立ち上げたいと思うようになりました。

「小中学生への支援は多いけれど、なぜ高校生への支援をしたいと思ったの?」と言われることも多いです。まさに、食事支援、学習支援、居場所支援などの小中学生への支援は少しずつですが拡大しています。しかしながら、義務教育を終えた高校生はその支援から漏れてしまうという現状があり、親の離婚等で青年期に貧困になった層への支援はほとんどありません。高校を卒業してしまうと、「日常的に接するコミュニティ」が無くなり、就労支援がより困難・高コストになることもあり、最後のセーフティーネットとしての「高校生」に的を絞ることにしました。( https://www.murc.jp/library/column/sn_160926/ 幼少期の貧困の放置の社会的損失は、40兆円にものぼるとのデータがあります。)

「高校生の貧困」のためになにをやっているの?

CLACKでは、高校生が3つの不足を乗り越え、「ワクワクして自らの足での人生を走りぬいていく力を身に着けること」≒自走 できるようになることを目標にし、①キャリア支援 ②プログラミング学習支援 の二つの事業を行っています。

プログラミング教室に通う中でつながりと経験は出来ても、最後まで変えるのが難しい「考え方」について学ぶのがキャリア支援です。現役エンジニアや大学生たちの実体験から、お金や生活に関する知識、仕事における問題の解決方法などを学んだり、IT系の企業を見学したりする機会を月2回提供しています。キャリア支援を行う専門の人が高校に赴くよりも、普段のプログラミング教室で培った絆があるメンターが行うほうが響きやすいです。

特に反応が大きいのは奨学金の話をするときかもしれません。実際に奨学金を借りている大学生メンターがの実体験を話してくれるセッションでは、ひとり親家庭の場合はこのくらい、等と具体例を交えることで、自分の将来をどこか他人事だと捉えていた高校生が、ああでもないこうでもないと真剣な眼差しでワークに取り組んでくれます。給付型奨学金の手続きのタイミングを逃してしまって後悔した僕の話など、失敗談はやはり反応が良いです。

1人暮らしの費用を考えるセッションも人気です。家賃や進学費用等を計算し、実際にどれくらいお金がかかるのかを計算することで、自立するイメージが湧きやすくなります。

また、ホワイトカラー企業で働く人が周りに少ない高校生が、そのような企業で働くイメージを持つため、会社見学に行かせていただいたりします。鬼滅の刃などのゲームを製作しているゲーム系上場企業YUKE’S様や、世界最大の鉱業会社BHP様等の社員の方との交流は、高校生にとっても記憶に残るものとなっているようです。


僕自身、「王様達のヴァイキング」という漫画に「自分の使い道」に気づく尊さを教えてもらいました。キャリア支援の度に、この漫画のことを思い出します。

さだやす・深見誠/「王様たちのヴァイキング」/小学館
(出版社および作者の方から許可をいただいたコマを、note内で記事に自由に貼り付けて活用することができるサイトを利用しています。)


なぜプログラミング教育支援なの?


2つ目の、「プログラミング教育支援」について。

きっかけは些細なことでした。自分にできることは何かと学習支援のボランティアをしていた大学時代、ある生活保護家庭の男の子に出会ったのです。彼は精神的に不安定な母親を抱えるヤングケアラーで、学習支援に通っていたものの、ある日突然家を追い出されてしまいました。その後、離婚した父親と共に暮らし、不安な中でも「エンジニアの父を見て、パソコンを使う仕事に憧れた」と努力を続けており、そんな彼の姿に感銘を受け、無料でプログラミング教室を提供したいと思うようになりました。

キャリア支援を行う上での関係づくり、という点だけでなく、高校生のメリット、社会のメリット、機会づくり側のメリットの3つの点において、プログラミング教育支援は貧困解決にとても効果的だと思っています。

(高校生のメリット: 学びやすさ)
先ほどの男の子の例のように、5教科の勉強に比べると「かっこいい」「最新」「役に立ちそう」とのイメージから、憧れ、目標になりやすいです。また、書いたコードがすぐに反映されるため、小さな成功体験を積みやすく、学ぶ意義が明確で、勉強へのモチベーションも高められます。CLACKに通う多くの高校生が「ゲームが好き」「インターネットが好き」と話します。まだ日本の学校教育ではゲーム等は娯楽とされていることが多いですが、関心の向け方次第で武器になるのです。

(高校生のメリット: 成果の出やすさ)
ITエンジニアの需要から安定した雇用に繋がりやすいのは明白でしょう。短期的にも仕事が得やすく、仮に高校生が高卒就職をしたとしても安定した人生を歩みやすくなります。また、学ぶ過程で、1人で困難から脱するのに必要不可欠な情報検索・情報活用能力が身につき、「自走力」をつけやすいです。

こちらは、高校生が3か月のプログラミング教室を経て作ったプロダクトの一例です。

棒倒し法アルゴリズムを使って生成した迷路を攻略するゲーム


大好きなアンティークショップのホームページ

(社会の需要)
皆さんご存じの通り、デジタル人材へのニーズも急速に高まっていますが、供給が追い付いていません。76%の企業がDX人材不足を感じており(IPA「DX白書2021」)、2030年にはデジタル人材が45万人不足するという試算もあります。

みずほ情報総研株式会社,IT人材需給に関する調査/2019年


そんな中、情報系大学以外の方法でIT人材の育成が出来るのは、社会にとっても需要が大きいことかと思います。

(機会づくりの容易さ)
ITエンジニアの労働環境が改善され、空いた時間に社会貢献をしたいと考えているエンジニア(支援できる人材)が増加しています。現にCLACKでも「何か社会貢献をしたいけれど、何をしたらいいかわからない」というエンジニア出身の方が教師やプロジェクトマネージャー、ひいてはCLACKの経営陣として参画されています。

また、プログラミング教材/言語も年々初学者が学びやすいものになっています。3ヶ月で基礎的なスキルを身につけるプログラム「Tech Runway」ではHTML/CSS, Java Scriptを学んでおり、学びやすさと応用可能性両方を意識して教材を用意しています。

CLACKでは、高校生に無料でパソコンを提供していますが、それはすべて企業の使用済みPCを寄贈してもらっています。データ消去専門の企業の方にデータを消去して頂いているのですが、パソコン寄贈がはじまり1年半で500台を越えました。サステナビリティ関連の活動を探している企業の方にもとても協力して頂きやすく、活動も広めやすいものと思っています。

これは個人的な肌感覚なのですが、2000年以前には貧しかったり、勉強についていけなかったりしたらヤンキーになっていた中高生たちが、今はその不良になる気力もなくなってしまっている感じがします。当時のヤンキーにが更正してボクシングで一旗あげる、そんな夢物語があったように、貧困や不登校で苦しむ現代の子どもたちにとって、プログラミングは「一発逆転」の手段になり得ると思っています。


森川ジョージ/「はじめの一歩」/講談社

どんなプログラミング教育支援をやっているの?

オンラインの教室や自習が多いプログラミング学習では、自分自身で進むことが要求されるため、挫折しやすいと言われています。しかしながら、僕たちの強みは徹底した対面での伴走です。生徒一人一人のつまづきやすいところを把握し、一緒に進んでいくことで、プログラミングを失敗体験にしないようにしています。

また、関心を持つ層がそもそも恵まれていることが多いプログラミングですが、CLACKに通う高校生の殆どが、プログラミングに抵抗を感じている高校生です。そんな高校生に、無料でパソコンを支給、交通費を完全に補助することで、「パソコンが無料で来れるから来ました(笑)」という高校生たちがプログラミングに夢中になるまでを徹底サポートしています。

①体験会
支援を潜在的に必要としている高校生に効果的に情報を届けるため、地域の高校・NPO 団体などとの協力関係を築き、高校生へのチラシの配布や直接の呼びかけ、出張プログラミング体験会の開催などに協力していただいています。



「自分に出来るはずがない」。そんな思い込みが、貧困の連鎖の原因です。そんなプログラミングへの先入観を断ち切るべく、VRやドローンで楽しみながら学べる機会を実施しています。また、参加してくれた高校生を生活支援(社会福祉協議会・児童養護施設・就労支援施設)につなげるなど、地域と子どもたちの橋渡し的な役割も担っています。5年間で、478名もの高校生に参加して頂きました。

②Tech Runway

3ヶ月間にわたって週に2回、プログラミングの授業を提供しています。修了時には、簡単なゲームやサイトを自力で制作できるスキルが身につきます。教室外のコミュニケーションツールにはSlackを利用し、教室以外での学習で行き詰まったときに講師に質問・相談できる環境を整え、5年間で125名の高校生に参加してもらいました。

③Tech Runway +
Tech Runwayを修了した生徒が希望した場合の、より専門的な知識を学べるプログラムです。3ヶ月間で、今後のキャリアを見据えた実践的なプログラミング技術を身につけます。教室に通うのは週1回ですが、Slackからいつでも質問や相談ができます。こちらは、23名の高校生に参加してもらいました。

④インターン/受託業務

学んだ知識を応用して、インターン、アルバイトを行い、実際にお金をもらいながら実践経験を積んでいきます。「学んだスキルを活かして、お金を稼げた!」という経験は高校生にとって大きな自信に繋っています。
https://note.com/daigoog/n/na2c507b2fed0
こちらはインターン生を受け入れてくださった株式会社夢峰さんのnoteです。プログラミングスキルだけでなく、プレゼンテーションの仕方、個性の伸ばし方等を学び、いつしか職業体験が人生体験になっているようです。

終わりに -未来志向の僕たち- 

僕がITの力で貧困に取り組みたい理由。それは、子どもたちの未来、結果を考えた時、それが一番優しい選択ではないかと思うからです。現金を給付する、食べ物を与える、居場所を提供する。それらは非常に大切な支援です。しかし、現実的にずっとその支援をし続けることは難しい。一生寄り添い続けることが出来ないのならば、他の人よりも逆境に置かれることの多いであろう彼らに、魚を与えるのではなく、魚の釣り方を身につけてもらいたいのです。自分の人生を自分で切り拓いていくための力を身につけてもらいたいのです。高校生までの15年ほどの人生で身についたあきらめ癖や無気力感をCLACKで関わるたった数ヶ月で拭い切るのは簡単ではありません。一度頑張れるようになっても家族や周囲から再び足を引っ張られて容易に貧困の連鎖に引き戻されることは、僕自身の実感としてもすごくあります。それでも、プログラミング教室での学びをはじめの一歩として、地域のあらゆる資源をフル活用して安心して何度でも挑戦できる環境をCLACKでは届けていきたいと思っています。

「自分が高校生時代にあったらよかったなと思う支援」をつくってきましたが、僕の高校生時代から約10年が経過し、コロナ禍も経て、今の高校生にはまた違ったしんどさがあるように日々感じています。一人ひとりの高校生の声をしっかり聴きながら、これからの時代を生き抜く上で必要なよりよい機会をつくるために探求し続けようと、高校生はもちろん、高校教員、NPOの支援者、ソーシャルワーカー、行政職員、大学教授らとともに学びをアップデートする日々です。

僕自身大変なことも多い人生でしたが、漫画や小説、過去の偉人の言葉に励まされ、なんとかここまで歩んできた27年間でした。これからは、困難に苦しむ子どもたちが、CLACKを支えてくださる全ての方々が、それぞれの物語の主人公になれるよう、精いっぱい裏方として努めていく所存です。皆さんの寄付、助成金、応援で何とかやってこれた5年間でした。次の5年間も更なる飛躍をしていくので、2023年もCLACKの応援をよろしくお願いいたします。



みなさんのご寄付によってCLACKはよりよい機会を経済的・環境的にしんどさを抱える高校生に届けることができます。応援したい!と思った方はご支援いただけると非常に嬉しいです!!