BTS "Take Two" 若さってなんだ 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.132
Take Two
変わらずそこにいてくれる?
流れゆくあの時間を
つかまえておきたい
僕と一緒に 進んでくれる?
どんな顔で立っているのか
もう思い出せない夜明け前
そうさ あゝ
僕は ただ漠然と走り回っている
僕らは幾多の道を歩き続けている
胸が 張り裂けそうだ
君にはこの
テイク2が見えていないの?
ただ君の為に紡がれる物語
君と共にある青春
今この手を取って
僕らは共にその歌を歌う時
若さを感じたことなどない
互いの視線を合わせ
暗闇の中であろうと
君が傍にいると感じる時
納得できたことなどない
一緒に歩いてきた道を辿って
僕らの輝く瞬間は永遠に続く
砂漠も海となり
僕らは際限なく泳ぎ続ける
寂しがっていた クジラも
もう 一緒に歌っているよ
一緒だから、
永遠を望んでも怖くない
僕の信心は君そのもので
ただひとつの理由だから
君は 僕にとっての希望のサイン
まさに僕を照らし出すのは君だよ
いつだって 君をそばに感じられる
夕陽がビルに落ち
僕らはこうやって 互いに与え合う
そうさ あゝ
僕は ただ漠然と走り回っている
僕らは幾多の道を歩き続けている
君を 壊れるほどに抱きしめる
君にはこの
テイク2が見えていないの?
出さなかった手紙は
君と共にある青春の
始まりかもしれない
僕らは共にその歌を歌う時
若さを感じたことなどない
互いの視線を合わせ
暗闇の中であろうと
君が傍にいると感じる時
納得できたことなどない
一緒に歩いてきた道に従って
僕らの輝く瞬間は永遠に続く
あなたと一緒だから可能だったし
あなたと一緒にいて 幸せだった
あなたの声に生かされて
あなたの涙で立ち直った
あなたたちのこの身に余る愛を
受け取る資格が僕にあるのかな
数年かけ築き上げた魂の共通項
一緒だから
とてもありがたく幸せなのです
どうか これからも
幸せになりましょう
僕らは共にその歌を歌う時
若さを感じたことなどない
互いの視線を合わせ
例え雨が降ろうとも
君が傍にいると感じる時
納得できたことなどない
一緒に招き迎えた星に従って
僕らの輝く瞬間は永遠に続く
こうして歌うよ
(僕らはそれほど若さを感じたことがない)
この手を取ってくれないか
僕らはそこまで納得できたことがない
今夜 僕には君が必要なんだ
(僕らはそれほど若さを感じたことがない)
僕らの輝く瞬間は永遠に続く
(それほど若さを感じたことがない)
感じたことなど一度もないのさ
少年のままでいられるだなんて
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6202691
『Take Two』
作曲・作詞:SUGA , 장이정 , RM , Gabriel Brandes , Matt Thomson , Max Lynedoch Graham , j-hope , Nois upGrader
*******
今回は、2023年6月にリリースされたBTSのデジタルシングル "Take Two" の歌詞を意訳・考察していきます。
この楽曲はデビュー10周年となる2023 FESTA開催に合わせて発表され、全世界のARMYに向けたファンソングとして知られています。
SUGAにより制作され、RMと、当時既に入隊済みだったj-hopeも作業に参加したと紹介されているこの楽曲は、同じく入隊済みだったJinをはじめメンバー7人全員が参加した(The Planetをのぞく)公式制作曲としては "Yet To Come" を始めとした「Proof」収録の新録曲以来約1年ぶりの新曲でした。
タイトル「Take Two」の意味は、ひとつのパフォーマンスに対する2回目の録音や録画を意味する「テイク2」ですが、これを本人たちが提唱しているバンタンのグループ活動における「第2章/チャプター2」に重ねる解釈が一般的なようです。
ただ、歌詞を読み解く限りその結びつけは単純で表層的であるかのように思います。
ここでは「Take Two」が意味するものが何なのかをあらためて考えてみたいと思います。
1.思い出せない夜明けたち
楽曲歌詞は冒頭、聴いている者にこう問いかけます。
「あなたはそこにいてくれる?」
「自分と一緒に進んでくれる?」
※1 Will you ~?…~してくれる?(参考)
※2 どこで改行するかが解釈の違いに発展するかと思いますが、「잡아두고 싶어」 と「with me」はそれぞれ前後の行と一緒にすると読みやすくなるかと思います。
楽曲の根底にあるのは「決して止まらない時の流れ」の存在であり、その流れに抗うことは出来ないけれど「離さず掴んでおきたい」し、「君にとどまっていて欲しい」と思っている。
そしてもし、先に進むその時が来るならば君には「僕と一緒に進んで欲しい」。
どんなに良き時代を生き、そこに留まっていたいと望もうが時の流れに抗うことはできない。進むにしても、先を案じる恐れから逃れることはできない。
そんな複雑な感情が吐露されています。
この絶大なる時の流れの力を更に決定付ける歌詞がこちら↓
새벽、それは「陽が昇る前が最も暗い」と下積み生活で燻る自分を鼓舞し、「今の自分を絶対に忘れるな」と必死に言い聞かせた少年たちが見た成功前夜の景色そのものです。
"Tomorrow" で「絶対に忘れるな」と釘を刺していたにも関わらず、まだ何者でもなかった自分がどんな顔をしていたのか、"Take Two" では「思い出せない」と歌っており、とどまることのない時の流れを如実に感じることができる箇所だと思います。
2.'納得できずに'重ねるリテイク
あらためて「テイク」という言葉が指すものを確認してみます。
音楽や映像の分野でより良いものを残すために同じ箇所を何度も録音・撮影することがあります。単語takeの「取る」の意を取ってそれらの1回分を「テイク(テーク)」と呼び、「テイク2」はその2回目にあたります。
以下は歌詞の中でこの「テイク2」が登場する部分のひとつです。
冠詞theを伴っているので、ここで歌われている「テイク2」が他でもない彼ら自身の「テイク2」であることがわかります。
※3 in a daze…呆然としている(参考)
※4 have been ~ing…~し続けている(これからもする)(参考)
※5 ~ㄹ 것 같다…~みたいだ、~ようだ(参考)
※6 Can't you ~…~できないの?★否定疑問文(参考)
この記事を書いている2024年6月から遡ること2年前、2022年の防弾会食で宣言されたバンタンのグループ活動における「第2章/チャプター2」の始まりですが、ではなぜ、この楽曲においては敢えて「テイク2」としたのか。なぜ「チャプター2」ではないのか。
「チャプター2」という言葉を聞かされた時、今までにない新たな章が始まるのだと受け止めた人がほとんどなのではないでしょうか。私もそのひとりです。そして、〈新しく変わった〉部分がどこなのか、どんなものになるのかを考えながらその後の活動を見守ったこの2年間だったのではないかと思います。
でも実は、彼らがこの軍白期を経て始めようとしているのは〈新しく変わった〉ことだけではなくて、今までの活動、今までの人生において納得のいかなかったことを〈再びやり直す〉、〈リテイクを重ねる〉ことでもあるのではないかと私は思うのです。
歌詞には、曲タイトルを「チャプター2」ではなく「テイク2」とした理由に関連があると思われる表現が登場します。
※7
・feel right…しっくりくる、納得する(参考)
・I get you…君のことがわかる(参考)
音楽表現の源でもある自身の人生の充実、ひとりの人間としての成長を渇望しながらも、K-POPアイドルとして、ワールドスターとして、あらゆる場面で最も大切な〈個〉を封印せざるを得ない状況を長きに渡り続けてきた彼ら。
特に、バンタンが始まるきっかけそのものでもあるナムさんが、自分の人生に足りないものを自覚しながらもそれを補完できない日々をこれ以上送り続けることは、チームが長く存続していくための原動力が失われることと同じなのではと私は思います。
この2年でソロアルバムを2枚リリースしたナムさんの言葉にあらためて耳を傾けてみると、彼がバンタンを続けていくためにやろうとしていることは決して奇をてらった真新しいことでも、より大衆に受け入れられることでもなく、彼自身のキャリアの「テイク2」、つまり「やり直し」なのではないだろうか、もう一度自分のために人生を生き直そうとしているのではないか、という思いに至ります。
発表した楽曲がチャートで上位を獲るなどして応援してくれているARMYの存在を身近に感じることができても、正直「それほど納得したことがない」と打ち明けているのは、〈個〉を封印して作ったものに対しての違和感があるからなのだと私は思います。
僭越ながら表現する立場からみれば、どんなに多くの人の共感を得ようとも、それが他でもない自分の腑に落ちていなければ発表する価値が失われるのでは、と。
既に終わったことに対して納得がいかない場合に行われる再収録。
それが彼らの新章が果たすべきことのひとつであり、結果としてテイク1とは全く別物になったとしても、それを受け入れるだけの許容力が見守る側には必要なのかもしれません。
何故ならこれが、この先チームを長く長く続けるため、「Stories unfolding just for you(ARMYのためだけに展開する物語)」を続けていくために、彼ら自身が選び取った道だからです。
テイクを重ねる目的が「ARMYのため」だけではなく「彼ら自身の自己の実現」でもある可能性を頭の片隅に置いておくことが、今後の活動を一層深い所で楽しむための入り口になるのではと思います。
3.若さってなんだ
また、"Take Two" の歌詞にはこのような告白も書き留められています。
この「the song」が指す曲は、ウェンブリースタジアムでの大合唱が思い起こされる "EPILOGUE : Young Forever" であると私は確信します。
ARMYにとっても思い出深いこの楽曲に対して "Take Two" では「Forever we are young(永遠に僕たちは若い)」と歌いながらも正直「それほど若さを感じたことはない」のだとしているのではないかと思うからです。
「少年」をその名に冠するチームとして、また、旬が短いとも囁かれる「K-POPアイドル」に分類される身として〈若さ〉という呪いとどう折り合いをつけていくのかは、避けては通れない課題であると言えるでしょう。
化粧をし着飾ることにより「K-POPアイドル」としてファンダムの期待に応えてきた彼らですが、整理された美しいビジュアルと本来の素の自分との間にある距離について "Her" の歌詞で触れています。
整理された美しいビジュアルが「K-POPアイドル」の価値を決定づける要素であることは多くの人が察するところです。
美しく、若々しくあることが実年齢相応の輝きよりも重視される世界で〈若さ〉の呪いをかけられるアイドルたち。血の通う人間が避けては通れない加齢という名の前進も、その呪いの前ではあらゆる面において後退と成り得る。
そんな「K-POPアイドル」が敢えて〈永遠の若さ〉を歌うことが、どれ程過酷な挑戦であるか。それでも彼らはこう歌い上げます。
加齢に逆らえる〈若さ〉など在り得はしない。そして、整えられた美しさを基準とした〈若さ〉と自分との間には距離があると自覚している。
それでは、彼らが永遠に続くと確信し得る〈若さ〉とは一体なんなのか。
それはかつて〈青春〉という言葉にも置き換えられた「花様年華=人生で最も美しい瞬間(The Most Beautiful Moment In Life)」のことであるのだと思います。
よって "Take Two" の「we young forever」という歌詞は、「僕らは永遠に人生で最も美しい瞬間を過ごしている」と意訳することができるのではないでしょうか。
4.魂の共通部分
彼らはこの "Take Two" 以外にもファンソングと名打たれた楽曲をリリースしてきています。
"2! 3!"、"Masic Shop"、"For Youth" などがそれにあたりますが、今回 "Take Two" にてARMYへの思いを書き留めている主な部分がこちらです。
※8 silver lining…銀色の裏地(分厚い雲の裏側は太陽に照らされ輝いていることに由来)、転じて「最悪の状況にある希望の兆し」
17世紀の英詩人John Miltonが最初に言及したとされている(参考)
とても詩的な表現が並ぶこの部分はナムさんのパートです。
今回私は初めて「silver lining」というイディオムと出会いました。鮮烈な情景が目に浮かぶ素敵な表現だと感銘を受けました。
街に落ちる夕陽が表現しているのは、いずれ必ずやってくるバンタンの「(数字的な)衰え」でしょう。それでも、そんな自分たちにも、互いを支え愛を与え合えると信じることができるARMYがいる。
そして後続のユンギパートでは、数学に縁のない私には聴き馴染みのなかった「교집합=交集合(積集合)」という言葉が、彼らとARMYの関係性を巧妙に表しています。
※9 교집합…交集合(積集合)=二つ以上の集合がある時に、それぞれの集合に共通する元素全体で作られた集合。共通部分。「○○であり△△でもある」【数学】(参考)
※10 名詞+여서…~だから、~なので(参考)
※11 ~ㅂ시다…~しましょう【勧誘】(参考)
二つ以上の集合において「○○であり△△でもある」部分が積集合なので、○○には△△ではない部分もあり得て、△△には○○ではない部分もあり得る。
かつて「MAP OF THE SOUL : Persona」のビハインドトークで「방탄과 아미는 같잖아요(バンタンとARMYは同じじゃないですか)」と表現したナムさん。
"Jamais Vu" や "=(Equal Sign)" で「君と僕はイコールサイン」だと歌ったホビ。
互いを互いの鏡映しのように想い合う関係であるバンタンとARMYですが、この双方の間にも共有し得ない部分が確かに存在するという非常に現実的なことをユンギはここで明確にしています。
ですがここで교집합の存在を明記したのは、それがバンタンとARMYが何年もかけて共に作り上げた信頼の元にだけ存在し得るかけがえのない無二の「魂の共通部分」である、という点で、ただ単に関係性に線引きした訳ではないのだということがはっきりとわかります。
決して全てが同じではなくても、バンタンとARMYの間には確固たる共通部分があって、それを頼りにこれからも共に進み続けることができる。
だから一緒に幸せになりましょう。
こういう形のファンソングを書けるようになるまでの歴史が、「魂の共通部分」という言葉に凝縮されているのだと感じます。
☆
また、過去曲の歌詞を想起させ、当時の辛い想いが今では報われていることが明かされているこれらの箇所も、ファンソングを語る上で重要なポイントだと思います。
「砂漠も海になって」は 「希望があるところには必ず試練がある」と歌う "바다(Sea)" の歌詞から。
「寂しがっていたクジラ」は自分がどれ程悲しいのかをわかってくれる人は誰もいないと歌う "Whalien 52" の歌詞から。
「砂漠と海」そして「寂しいクジラ」はどちらもバンタンの歌詞世界を象徴する景色・要素であり、逆に、ここでこれらを歌詞に登場させる意図を汲むことができない限り、彼らに寄り添おうとすることはもう不可能だとも思います。
ARMYならわかるという信頼の元に作られた楽曲という意味でも、この "Take Two" は、正真正銘のファンソングと言えるのではないでしょうか。
まさしく「魂の共通部分」だけが為せることだと思います。
この "Take Two" がリリースされてからここまであっという間の1年間でした。
その間にとうとう7人全員が入隊を済ませ、そしてとうとう最初のひとりであったジンくんが数日後に除隊を控えている今、私自身どれ程成長できたか、どれ程結果を残せたかと振り返ってみるこの頃でもあります。
そもそも軍隊など必要がなくなるような、互いが互いを思い合える世界が実現できるよう、私はせめて、自分のすぐ隣にいる人たちを大切にしたいと、家族にもそういう人であって欲しいという思いを伝えながら生きていたいとあらためて思います。
生きていればリテイクはいくらでも重ねることができます。
どうか大切な人たちが、末永く健康であり、いつまでも幸せでありますように。
今回も最後までおつきあい下さり、ありがとうございました。
🎬
※補足(2024.6.10)
「never felt so〜」の訳は逆説的なことを言っているのか否か色々と迷ったのですが(今も迷ってる)まんま否定的に「それ程〜と感じたことが一度もない」という受け止め方を敢えてしています。
逆説的に読めば「この上ない若さを感じ、納得感がある」ということになるので、その方がファンソングの受け止め方としてはより良いのかもしれません。