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BTS "EPILOGUE : Young Forever" Wembley Stadium公演に寄せて〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.009

ああ僕ら、永遠に少年であれ
百合の花びらが舞う中で
さまよって走るんだ この迷路
僕ら 永遠に少年であれ
転んで怪我して痛くても
果てしなく走るんだ 夢に向かって
永遠に

EPILOGUE : Young Forever

幕が降りて 息が詰まる
複雑になった心でそれを吐き出すんだ
今日は何も失敗しなかったっけ?
客席の様子はどうだったかな?

それでも幸せだよ僕は
こんな僕になれて
誰かを熱狂させる事ができて
まだ失せない余韻を懐に抱いて

未だ熱気が残るがらんとしたステージに立った時
熱気が残るがらんとしたステージに立った時
要らぬ虚しさに僕は恐れをなす

複雑な感情の中で
人生の死線の上で
余計に僕は もっと余裕がある振りをする
初めてでもないのに
慣れていそうなものなのに
隠そうとしても隠せない

がらんとした舞台が冷めていく頃合で
空になった客席を後にするんだ
そして今 僕は僕を労うんだ
完璧な世界はないのだと
そう言い聞かせて
徐々に自分を空にしていくんだ

いつまでも僕のものではない大きな拍手喝采が
こんな僕に言うんだよ 平然と
「君の声を高めて もっと遠くへと」

永遠の観客なんかいなくても
僕は歌うつもりだ

今日の僕で永遠にいたい
永遠に、少年でありたい


ああ僕ら、永遠に少年であれ
百合の花びらが舞う中で
さまよって走るんだ この迷路
僕ら 永遠に少年であれ
転んで怪我して痛くても
果てしなく走るんだ 夢に向かって
永遠に

夢、希望、前進、前進
永遠に、永遠に少年であれ

ああ僕ら、永遠に少年であれ
百合の花びらが舞う中で
さまよって走るんだ この迷路
僕ら 永遠に少年であれ
転んで怪我して痛くても
果てしなく走るんだ 夢に向かって

永遠に



韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/4708543

『EPILOGUE : Young Forever』
作曲・作詞:“hitman” Bang, SUGA , ​j-hope, RM , Slow Rabbit


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今回は1枚目のスペシャルアルバムと位置づけされている2016年5月発表の「花様年華 YOUNG FOREVER」に収録されている "EPILOGUE : Young Forever" の歌詞を、2019年6月2日にロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われた「BTS WORLD TOUR ‘LOVE YOURSELF: SPEAK YOURSELF’」ツアー ロンドン公演2日目の様子をTV視聴した感想を交えて語ってみたいと思います。
※考察中の和訳は直訳

過去ライブ映像の放送がCSで続いているので、片っ端から録画してちょっとずつ視聴しているのですが、あのウェンブリー・スタジアムが会場の回があると聞いて放送日を楽しみにしていました。

実際にライブ映像を観てみて…いやもうなんか、こうやってリアルに数万もの人が集まる事なんてこの先一体いつになるかわからない状況で、そういう視点で見てもこの時間は奇跡としか言い様がないし、これだけの数の人の心をひとつに集められるアーティストと同じ時代に生きているって事を実感できた、大変貴重な時間でした。

しかも、非英語圏のアーティストが英語圏の会場でそれを成し遂げている事がどれだけすごい事か…10代の娘にはそんな私の力説も右から左に筒抜けでしたが。

この公演の映像記録としての意味や価値は、きっとこの先もう少し経ってからの方がより一層はっきりくっきり、鮮やかに輝いてくるのではないでしょうか。

それでは歌詞の中身について深読みしていこうと思います。


1.人は完璧じゃない

この曲の歌詞は、途中で読み進めるのが心苦しくなってくるくらい彼ら自身のものと思われる視界や心境が率直に表現されています。意図的に並べられたというよりは、溢れてこぼれ落ちるようにして歌になったような言葉たちです。

막이 내리고 나는 숨이 차 / 복잡해진 맘 숨을 내쉰다
(幕が下りて僕は息が切れる) (複雑な心 息を吐き出すんだ)
오늘 뭐 실수는 없었었나 / 관객들의 표정은 어땠던가
(今日は何も失敗は無かったかな?) (観客の表情はどんなだったかな?)

https://m.bugs.co.kr/track/4708543

冒頭には、ステージ上で堂々と煌めいている彼らの姿からは想像もつかない弱音が並びます。Bulletproof Pt.2で表現したような経験値がもたらしてくれる強固な自信や、夢に対する飽くなき欲求からも少し遠ざかっているような気がします。
こんなにもナイーブな不安を抱えていたんだと知るだけでも胸をえぐられるようなのですが、この後も不安の吐露が続きます。

복잡한 감정 속에서 / 삶의 사선 위에서
(複雑な感情の中で)(人生の死線の上で)
괜시리 난 더 무딘 척을 해
(余計に僕はまた心が広い振りをする)
처음도 아닌데 익숙해질 법한데
(初めてでもないのに 慣れていそうなのに)
숨기려해도 그게 안 돼
(隠そうとしてもそれができない)

https://m.bugs.co.kr/track/4708543

トップアーティストとして生きるか死ぬかのデッドライン上で、余裕のある振りをして不安や弱音を隠そうとするけれど隠しきれない。何度となくステージをこなしても、幾度となく声援を浴びても消えないそんな複雑な気持ちが、訥々と歌われていきます。

実際様々な悩みを抱えていた時期が彼らにはあった様ですが、この歌詞の中ではしっかりと自分自身を見失わない術を得ている事も書かれています。

지금 날 위로하네 / 완벽한 세상은 없다고
(今僕を慰労するんだ)(完璧な世界は無いのだと)
자신에게 말해 난 / 점점 날 비워가네
(自身に言って僕は)(徐々に僕を空けていくんだ)

https://m.bugs.co.kr/track/4708543

自分で自分を労う」という姿勢でいること
完璧な世界は存在しない」という感覚を持つこと

彼らの年でこれを実行できるって、すごい事だと思うんです。どうしてこんなにも達観してるのでしょうか…私はこの鋼の自己肯定マインドを手に入れるのに彼らの倍の時間を費やしてしまいました。

自分自身も、当然周りの人も、人間である限りは誰ひとりとして完璧などあり得ないし、万人に好かれようとして完璧を目指すのはナンセンスです。この「完璧」の呪縛から自力で逃れられる術を彼らが既に心得ているという事に、私は勝手に安心したのでした。


2.いつまでも

「언제까지(いつまでも)」はK-POPの歌詞に頻出するフレーズです。「いつまでも一緒だよ~」みたいな感じで、恋愛の歌に良く出てきます。
ところがこの曲でひとつだけ登場する언제까지は逆の意味で使われています。その部分がこの曲で一番訳すのが難しいところでした。

언제까지 내 것일 순 없어 
(いつまでも僕のものにはなれない)
큰 박수갈채가 이런 내게 말을 해 뻔뻔히
(大きな拍手喝采がこのような僕に言う 図々しく)
니 목소릴 높여 더 멀리
(君の声を高めてもっと遠くへ)

https://m.bugs.co.kr/track/4708543

直訳だけでは少しわかりづらかったので、私はこう意訳しました。

いつまでも僕のものではない大きな拍手喝采が
こんな僕に言うんだよ 平然と
「君の声を高めて もっと遠くへと」

https://m.bugs.co.kr/track/4708543

(更に意訳:今、自分たちを支持してくれているたくさんの人たちも、いずれはひとり、またひとりと離れていく時が必ず来る。どんなに売れているスターでも、必ず売れなくなる時が来るものだ。どうせいつかは離れていく癖に「もっと」だなんて、そんな風に良くも平気な顔して言えるものだ。)

…ちょっとキツい言い回しになりましたが、いつまでもどこまでも続いていきそうなスター街道を走り続けている彼らにしかわからないこういった不安があるが故に、この不穏な언제까지の使い方になったのかな、と。
応援している側としてはもちろん「そんなことないよ!」ってなるんですがねぇ。

そして、核心にふれる1行が訪れます。

영원한 관객은 없대도 난 노래할거야
(永遠の観客はなくても 僕は歌うつもりだ)

https://m.bugs.co.kr/track/4708543

(更に意訳:永遠にこっちを見ていてくれなくたっていい。自分たちにできることは、今、聴いてくれる人たちの為に歌う事。)

なんて謙虚なの…。

謙虚であること。これまた取得するのに困難を極めるはずのスキルなんですよ。ほんと恐るべし。

こんな風に謙虚に構えつつもやはり、だからこそ、本心としては「永遠に(拍手喝采を受けることができている)今日の僕でいたい」と渇望することになるのかもしれません。


3.永遠に少年であれ

ウェンブリー・スタジアム公演2日目のアンコールにて起こった素敵な出来事については、その感動を伝える各国のニュース記事が検索したらわんさかヒットしました。

この曲を使う事を決めた方はもしかしたら、この歌詞で書かれた彼らの果てしない不安をどうにかして払拭したい、そんな思いで選んだのではないかと思い、その場面を思い出してまた泣きました。

人が皆完璧ではないのと同様に、皆永遠ではないことも確かです。
曲も歌声もその姿も音源や映像としては残り、我々はそれを半永久的に楽しむことはできますけれど、アーティスト本人目線で考えるとそれは楽しめるものからは程遠いものかもしれません。

栄光がいつまで続くのか。幸せがどこまで続くのか。答えの出ない問いに答えを出すため、彼らは迷いながらも永遠に走り続ける事を選び、今現在に至るのですね…。

永遠、という言葉に深く関係している曲 "We Are Bulletproof : the Eternal" は、この "EPILOGUE : Young Forever" を踏まえるとまた更に深みが増しますね。


最後まで読んで下さりありがとうございました。


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