”泥中の蓮” お盆に家族で過ごした時間。そして遠い記憶からの気付き...フォトエッセイ towazugatari
令和6年の夏…
猛暑に負けて、亡き母のお墓の掃除にも行かないまま、お盆を迎えてしまいました。
その事に後ろめたさを感じながらも、今年は穏やかな時間を過ごせたように思います。
例年は仕事の関係で、この時期に顔を合わすことが出来なかった兄。
今夏、新たな職場に移り、やっと人並みに連休というものが取れる様になったとの事。
駅で待ち合わせをし、昼食をとりながらゆっくりといろいろな話をした後、日差しが照りつける中を、揃って実家へと向かいました。
高齢の父親は、相変わらず同じ話を何度となく繰り返し話します。
どこまでこちらの話が通じているのか、怪しいところではあるのだけれど、
やはり家族が揃うというのは嬉しいらしく、終始笑顔だった事にほっとすると同時に有り難い事だとも感じました。
お盆でしたので、おそらくそこへ訪れていたであろう母親の魂も、その姿にきっと安心したことでしょう。
何しろ、ほんの数年程前まで父親と兄は、顔を合わせれば対立する場面があり、とにかく穏やかでは無かったので…
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いったいどのように甘やかされて育ったのか...
お坊ちゃん育ちだと聞いている父親は、とにかく傲慢で我儘な上に、大して強くもないお酒で度々酔い潰れて、職場や家族に迷惑をかけていました。
それだけには収まらず、気分次第で、事あるごとに他人にも幼い我が子にも情け容赦なく、気が済むまでしつこく暴力を振るうという、実に嘆かわしい人でありました。
自立して家を出るまで僕たち兄弟は、世間一般の家庭よりも、心身共にかなり劣悪な環境で育ったと言えるかもしれません。
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兄は高校生くらいになると、父親が手を出せない程に身体を鍛え、身長も父親を超えていたので、いつの日からか暴力を受けることもなくなっていたようです。
しかしその分、4歳年下の僕が標的になる機会は増えました。
何が理由で急に怒り出すか分からないので、その暴力に対しては身構える暇もありません。
その後は、ただひたすら身を縮めたり、両手で頭を守りながら我慢するのです。
武道の有段者である父親に反撃をしたら、武道の心得の無い僕は相手の思う壺です。
更に痛手を負うだけだという事が分かっていたし、僕自身は誰かと殴り合いたいなどとは、最初から思っていなかったのですから。
常日頃から僕の中には、人と争うという概念が無かったのです。
日々ひたすら耐えながら、実はその裏で僕は虎視眈々と自立の計画を立てていました。
高1の時から卒業まで、学校に内緒で時々バイトをしていました。
そして、大学へ通っていた兄よりも先に、そのお金を元手に18歳で独立。
理不尽な親の支配下から一刻も早く抜けて、自分の力で生きようと決めていたからです。
誰にも相談せず、それは強行突破での決行でした。
念願の一人暮らしが始まった初日の開放感は、今でも昨日のことのように覚えています。
開放感というよりも、大きな安心感という方が相応しいかもしれません。
暴力に怯えなくても良い空間は、知らない町でたった1人だという不安をも感じる余地が無い程の宝物でした。
何しろ、家族と暮らす安心なはずの我が家が、最も恐ろしい場所だったのですから...
・・・
これはもう随分と前の話で、今ではまるで前世の経験なのでは…と思えるくらい、そこには何の感情も湧かない単なる記憶となっています。
もちろん、家を出てからの人生に於いても、良き事もあればそうで無い事も、これでもかという程たくさんありました。
どうして自分ばかり… と恨み言を言いたくなるような出来事も次から次へと降り掛かって来た時期もあります。
ただ、それらを一つ一つ超えて行く度、僕の魂は自ずと成長を続け、昔の出来事を知らず知らずのうちに昇華させていったのではないかと感じています。
確かに順風満帆などとは程遠く、なかなかと厳しい道のりではありました。
しかしながら、深い学びの時間を人一倍与えて貰えたのではないかとも思っています。
・・・
禅の言葉に「泥中の蓮」というものがあります。
泥の中にあっても、美しい花を咲かせる蓮の姿に擬えて、
”どんな環境下にあっても泥に染まるような事無く、清らかに生きる”
というようなことの例えです。
実にそう在りたいものです。
僕などはこれまでの人生で、何を成し遂げた訳でもなく、誰かのお役に立てた訳でもなく、いつの間にか親を見送らんとする年代となりました。
願わくばこの先に、今暫くゆっくりと進めるような道のりが残っていて欲しい。
そうであるのならば、僕の人生の泥の中にも、
何かの、誰かのお役に立てるような美しい花を一つ二つと咲かせてみたいものです。
その想いが叶ったならば、
「我が人生に悔いなし」
そんな風に笑顔で言えるような気がします...🍀
noZomi hayakawa
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