見出し画像

The Picture of Dorian Gray から学ぶ英語術 〈前編〉

「英語圏で作られた英語圏の人々のためのコンテンツ」からネイティブの言葉術を学ぶ Lingohack。

今回は The Picture of Dorian Gray(邦題:ドリアン・グレイの肖像)を取り上げます。19世紀末に、主に詩人、劇作家として活躍した Oscar Wilde による、唯一の長編小説です。誰しもタイトルを耳にしたことくらいはあるのではないでしょうか。Wilde の著作は、日本ではおそらく The Happy Prince(幸福な王子)が最もポピュラーなのかな。

↓は読書録

二十章で構成された本作の各章からひとつ、印象的な文を抜き出し、そこで使われている英語表現に言及していきます。
長くなるので、前後編に分けてお届けします。ときどき暇つぶしにでもつまみ読みしてもらえたら。



Chapter 1

In the centre of the room, clamped to an upright easel, stood the full-length portrait of a young man of extraordinary personal beauty.

narrative

[場面:どこに]stands sth/sb.
<場所>に〜がある/いる

物語の冒頭、Basil Hallward 画伯による the picture of Dorian Gray(ドリアン・グレイの肖像)がさっそく現れます。

「〜がいてね」「〜があってね」のようなニュアンスで、人、モノ、コトを話題に初登場させるとき、普通は There + be という文章を用いますが、there の代わりに[場面:どこで(に)]から始めると、意味を変えることなく聞き手(読み手)の注意を「場所」にグッと引き寄せることができます。

e.g.
On the table was a broken grass.
( = There was a broken grass on the table. )

stand は「平面から垂直に立った状態で、ある/いる」ことを表すことができます。例えば木や建物を思い浮かべてください。その「立っている」様も含めて、どこかに「ある/いる」イメージを伝えられるのです。

e.g.
The castle stands on the site of an ancient battlefield.

ちなみに、横たわった、あるいは平面に沿ったような状態で「ある/いる」ことを表す場合には lie を用います。

e.g.
By the door of the kitchen lies a dead man.


Chapter 2

Dorian Gray 登場の場面から。この段階では、いかにも溌剌とした印象の美青年なのですが…。

'You must lend me these, Basil,’ he cried. ‘I want to learn them. They are perfectly charming.'

Dorian Gray

must do
ぜひとも〜すべきだ/してもらいたい

must を習うときに「〜しなければならない」という語義解説や「義務」という補足が伴うために、あまり気軽に使えないと考えてしまいがちですが、好意的な提案や強いお願いごとにも用いることができます。

e.g. 1
You must watch this film.
e.g. 2
You must invite that boy to the party for me.

cry
(〜と)声を張り上げる/声を大にして言う

「泣く」「叫ぶ」以外にも、文脈次第で「大声で勢いよく話す」あるいは「声を強める/荒げる」「声をうわずらせる」様子を表すことができます。

charming
好ましくて魅力的な

日本語化した「チャーミング」だと、女性や子供への褒め言葉に限られている印象がありますが、「好ましく魅力的」なら、男性に対してだって、モノについてだって、際限なく用いることができます。

e.g.
The cottage is tiny, but it’s charming.


Chapter 3

Dorian Grey に興味を持った物語のキーパーソン Henry “Harry” Wotton 卿が、彼の素性を探りに、世間に詳しい叔父の Fermor 卿を訪れます。何を考えているのやら…。

'Well, Harry,’ said the old gentleman, ‘what brings you out so early? I thought you dandies never got up till two, and were not visible till five.'

Lord Fermor

What brings sb A?
<人>は何用でAへ来たの?
※Aは場所・方向の表現

来た理由や目的を尋ねる表現です。A には here がよく入ります。Fermor 卿 が out を使っているのは、その後に続く文章でわかります。「お前がこの時間に出歩くのは珍しい」というニュアンスのことを言っていますよね。「外出してきた」ことを out が表しているのです。

e.g.
What brings you to Japan?

bring が現在形なのは不思議な感じがするかもしれませんね。What brought you to Japan? だと「何が君を日本へ運んできたの? = どのような交通手段で日本に来たの?」という意味合いになることもあるので、誤解を回避する手段として現在形が用いられるようになったのかもしれません。文脈でそうとわかるなら、どちらでも来た理由・目的を尋ねる質問として通用します。

「理由」を尋ねるからと言って Why did you come ~? を使うのはNGです。「来た」という行為について疑問を呈する、ちょっと失礼な響きになってしまいます。

dandy
伊達男

これは英語+文化史の話になります。カタカナの「ダンディ」は「紳士的」というイメージですが、イギリスでは本来ある時代特有の人物像を表す語なのです。

dandy とは、18世紀後半から19世期前半のイギリスに現れた、すっきりと洗練された身なり・装いや機知に富んだ話術、趣味の追求といったものに執着しながら、あくまで無頓着を装って余裕をかまし、自らに陶酔する精神性、またはそのような人物を指す語です。貴族の下にいる中産階級の出ながら、充分な資産を持ち労働を免れた若者たちが多勢を占めていました。代表的 dandy に、近代以降の男性ファッションの礎を築いた George Bryan Brummell がいます。親の残した遺産(3万ポンド:現在の価値に換算しておよそ240万ポンド=約3億9千万円)のほとんどを dandy 的な生き方に費やして破産し、人知れず没した最後は、dandy の典型的な末路と言われています。そのように、dandy には負のイメージがあるのですが、その一方で、折り目正しく洗練された装いが「dandyism = 男性における英国らしさ」の本質的要素の一つとみなされ続け、未だに世界的に憧れの的であり続けているのも事実です。

Brummel の肖像画


Chapter 4

稀な輝きを放つ舞台女優 Sibyl Vane に夢中になり、結婚しようとまで思い詰めた Dorian が、 Henry 卿に彼女の魅力を語る場面から。興奮を抑えきれない無邪気な Dorian の様子に、なんとなく嫌な予感が…。

‘Sibyl! oh, she is so shy and so gentle. There is something of a child about her.’

Dorian Gray

gentle
(動作・声・景色などが)穏やかな、物腰柔らかな

charming とは逆の例です。「ジェントル=紳士的」というイメージから、男性への褒め言葉と思われがちかもしれませんが、gentle は上に示したような意味合いで女性やモノ・コトを形容することもできます。

e.g.
That cream is gentle to the skin.

There is something (of a [役者]/[化粧]) about sth/sb
<人や物事>に独特の雰囲気/妙に気になるところがある、どこか(〜
のような/〜な)ところがある。

人について用いる場合、近頃の日本語だと「オーラがある」に近い表現かもしれません。「言葉にし難い独特な雰囲気」を something の一言だけでも伝えることができます。something of Aまたは something[化粧] とすると、より具体的に「〜のような雰囲気」を表せます。

e.g. 1
I don’t know Paul very well, but I can tell there is something about him.
e.g. 2
There is something of an idealist about my boss.
e.g. 3
I can’t agree on the plan. There is something vague about it.


Chapter 5

Dorian から求婚されて幸せいっぱいな Sivyl が、母に向かってその胸の内を朗らかに語る場面から。無邪気な彼女とは対照的に陰鬱な母の様子や恵まれない生活環境が、まるで立ち込める暗雲のようで…。

‘Mother, mother,’ she cried, ‘why does he love me so much? I know why I love him. I love him because he is like what Love himself should be. But what does he see in me? I am not worthy of him.’

Sibyl Vane

see sth in sb/sth
<人/物事>の内にある<魅力や特質>を認める、見出す

上の There is something about ~ と似たような意味合いの表現ですが、こちらの方がよりはっきりと人や物事の潜在的な魅力や特質に[主役]が気付いていることを表すことができます。

e.g. 1
Some people like to spend a summer day lying on a beach, but I don’t see the fun in that.
e.g. 2
I can’t understand what she sees in him.

worthy of sb/sth
〜に値する、ふさわしい

素直に「AはBに値する」という意味合いで用いられるのはもちろん、Sivyl のセリフのように否定の文章で「〜(の寵愛や恩恵などを受ける)に相応しくない」と遠慮がちに用いられることもよくある表現です。

e.g. 1
Very few of his ideas are worthy of further attention.
e.g. 2
He felt he was not worthy of her.


Chapter 6

Henry 卿から「Dorian 婚約」の知らせを受け、Basil Hallward 画伯は驚きを隠せません。

But think of Dorian’s birth, and position, and wealth. It would be absurd for him to marry so much beneath him.’

Basil Hallward

but think of/about sth/sb
しかし〜のことを考えてもみたまえ

話題について疑義や異論、反論を唱える際に、その根拠となる物事を示すことができるフレーズです。上では地位のある男性風に訳しましたが、要はそういう意味合いだというだけのことなので、カジュアルに使えるフレーズと考えて大丈夫です。

e.g.
Well, yes, he is rich and handsome, but think of his drinking habit.

birth, position, wealth
出自、身分、資産

誰と付き合おうが好きにしたらいいけど、結婚は… と考える人がいるのは、21世紀の今でも、きっと古今東西同じなのではないでしょうか。それが19世紀末のイギリスともなれば、困惑や反発はなおさら大きかったことでしょう。
依然として社会に存在する障壁や格差のキーワードとして、頭に入れておいた方が良いかも。


Chapter 7

婚約者がいかに素晴らしい女優であるかを Basil と Henry にお披露目するはずだった夜、Sivil の演技は目に余るほど酷いもので、Dorian は激しくうろたえます。

‘I want to be alone. Basil, you must go. Ah! can’t you see that heart is breaking?’

Dorian Gray

Can’t you see (that) 〜?
〜であることがわからないのか?

空気が読めない、あるいはこちらの意図や気持ちを理解していないことへの苛立ちを示すことができる表現です。そのような時は、日本語でも同じような言い回しをしますよね。
前後の入れ替えも可能です。

e.g.
Can’t you see that you’re precious to me?
= You’re precious to me, can’t you see?


Chapter 8

まずい演技に失望し、Sivil を厳しく詰った翌日、Henry 卿から Dorian に彼女の訃報がもたらされます。断定はされていませんが、おそらく自殺。ここから Dorian の脆弱さが露わになり、人格に破綻が生じていきます。

‘Oh, Henry, how I loved her once! Then came that dreadful night — was it only last night? — when she played so badly, and my heart almost broke. She explained it all to me. It was terribly pathetic. But I was not moved a bit.’

Dorian Gray

この how は、喜び、悲しみ、驚きなど気持ちをストレートに表す、いわゆる「感嘆文」を作る how なのですが、例えば How beautiful it is! のような…

How[化粧][主役][矢印イコール]!

…という形ではない文章には、不慣れな方が多いのではないでしょうか。引用した Dorian のセリフは「一度は彼女をどんなに愛したことか!」「かつてはあれほど彼女を愛したというのに!」のようなニュアンスです。
慣れていないと、きっとどう解釈したら良いのか悩んでしまう類の文章ですよね。こういった場合、理屈で考えるより、「how を頭につけるとストレートに感情を吐き出す表現になるんんだな」と、言葉の機能を素直に受け入れてしまうのも、ひとつの手です。下の例文は、how 抜きだと「夏休みを楽しみにしてる」と、ただ事実を述べる文ですが、how を頭に付けることで「夏休みが本当に楽しみで仕方ないよ!」くらいの感情表現になります。

e.g.
How I’m looking forward to the summer holidays!

pathetic
情けない、惨めな、痛々しい

イギリス人がかなり頻繁に用いる語なので、ぜひ覚えていただきたいです。文脈や言い方次第で、情を寄せる表現にも嫌味にもなり得ます。Dorian の気持ちは、どっち寄りだったと思いますか?

e.g.
He’s a pathetic and lonely old man.


Chapter 9

Sivyl の訃報を知った Basil は Dorian のもとへ駆けつけますが、彼の様子は尋常でなく、言い争いになります。なんとか場をおさめ、モデルは続けて欲しいと懇願しますが、Dorian はそれを拒絶し、さらに肖像画を作者である Basil から隠して見せようともしません。

Do you mean to say you don’t like what I did of you? Where is it? Why have you pulled the screen in front of it?’

Basil Hallward

Do you mean to say (that) 〜?
〜だということなのかい?

シンプルに「〜なの?」と疑問を投げかけるのではなく、相手の言動が信じ難くて、あるいは腑に落ちなくて、問いただす言い回しでの尋ね方です。相手に訂正する機会を与えるようなフレーズと考えることもできます。

e.g.
Hold on. Do you mean to say we’re trapped in the basement now?


Chapter 10

肖像画を決して人目に触れさせたくない Dorian は、額装業者に移設を依頼します。作業後、業者へ丁寧に礼をいう場面から。

’I am much obliged for your kindness in coming round.’

Dorian Gray

be obliged (to sb) for sth
<相手がしてくれたこと>に深く感謝します

感謝を表現する、Thank you. よりもはるかにかしこまったフレーズで、「恐れ入ります」や「痛み入ります」「恩に着ます」などに該当するかと思います。much を付けると、より慇懃な印象になります。場合によっては大げさに過ぎますが、立場をわきまえたお付き合いには、欠かせない言い回しです。

ちなみに、Dorian の礼へ、額装業者の Hubbard 氏は次のように応じます。

Not at all, not at all, Mr Gray.’

「およしください」「いやいや」のようなニュアンスの、感謝への返答です。これも合わせて覚えておくと良いでしょう。また、ことあるごとに相手の名前も付け加えることも、英語で交流する時の習慣にして欲しいですね。


後編へ続く



さて、いかがでしたでしょうか?

今回取り上げた言葉には、肝心な部分の前に一言付け加えてニュアンスを少し変化させる、勿体をつけた言い回しが多かったように思います。実際にそういう言い回しが必要な場面はありますよね。

それでは、I wish you happy learning!


この記事が参加している募集

#英語がすき

20,071件

Your support in any shape or form counts!