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【脚本】『この涙、星になって』(『アタシたちには明日しかない~Pieces of the Christmas~』より)

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本日も読み切りのこちらのショートストーリーを。
個人的にはかなり気に入ってる一作だったりします。

ワイアット・アープという西部劇のヒーロー(実在の保安官)と、騙されて娼婦に売り飛ばされた一人の移民の娘の物語。

ワイアットが、実はスターではなくてイタいおじさんだった・・・
という構図を思いついた時に、この本は勝てると確信しました。

登場人物
ルー・メイ:中華系移民の娘
ワイアット・アープ:伝説の保安官
リンダ:一瞬だけ出てくる娼婦

公演演出の都合上、一瞬だけ出てくる娼婦がいますが、基本的には二人芝居です。


『この涙、星になって』

サンフランシスコ。海岸。
割れる波の音。月のあかり。佇むルー・メイ。娼婦の化粧。
遥か遠くを眺めている。おもむろに海の方に歩き出す。

声 「待ちたまえ!」

一人の馬に乗った西部男(ワイアット・アープ)が駆け込んでくる。馬から飛び降りて。

アープ 「ハイドー!(馬に)よし、いい子だ。ちょっと待ってるんだぞ。命を粗末にするんじゃない。このサンフランシスコで命を粗末にすることは、この俺が赦さない。君はまだ若い。まだまだやり直しは出来る」
ルー・メイ 「え?」
アープ 「確かに俺もそうだった。若い頃は人生に迷い、傷つき、いっそ俺なんて死んでしまった方がいいのではないかと思い悩んだ日々もあった。若い頃っていうのはみんなそうだ。だがそんなはずはない、何くそ、と一念発起して今のこの人生がある。大事なことだからもう一度言うぞ。君はまだ若い。まだまだやり直しは出来る」
ルー・メイ 「あの」
アープ 「なんだ、悩みごとならなんでも聞こう」
ルー・メイ 「アタシ死のうとなんてしてないけど」
アープ 「またまたぁ」
ルー・メイ 「客が寝たから夜風に当たりに来ただけ」
アープ 「でも、ボーっと海を眺めて」
ルー・メイ 「ちょっと飲み過ぎちゃったから」
アープ 「海の方に歩いて行って」
ルー・メイ 「海に映る月がキレイだからもうちょっとよく観たいなと思って」
アープ 「え、そうなの」
ルー・メイ 「うん」
アープ 「とか言って本当は死のうとしてたんだろ」
ルー・メイ 「してないって」
アープ 「強がっちゃって」
ルー・メイ 「強がってない」
アープ 「でも、ちょっとくらいは迷う気持ちもあったんだろ」
ルー・メイ 「無いって」
アープ 「と見せかけて・・・」
ルー・メイ 「無いってば!なんなの、アタシを助けたいの、それとも死なせたいの。ていうか、誰」
アープ 「え・・・」

ショックを受けるアープ。

アープ 「えーっ、君は、俺を知らないのか。この町で俺を知らない人がいたとは」
ルー・メイ 「有名人?」
アープ 「Yeah.自分で言うのもなんだが、かなりの有名人だ」
ルー・メイ 「そうなんだ」
アープ 「顔は知らなくても君も名前くらいは聞いたことはあるだろう。俺はサンフランシスコ・シティ、名誉保安官、ワイアット・アープ」
ルー・メイ 「ふぅん」
アープ 「・・・サンフランシスコ・シティ、名誉保安官、ワイアット・アープ」
ルー・メイ 「うん」
アープ 「サンフランシスコ・・・」
ルー・メイ 「ちゃんと聞こえてるよ」
アープ 「え、俺の名前聞いたことない?」
ルー・メイ 「無い」
アープ 「去年、超盛大に歓迎式典とか名誉保安官就任式典とかやってたんだけど」
ルー・メイ 「そうなんだ」
アープ 「おお・・・マジか。・・・正直、ショックを隠しきれない」
ルー・メイ 「あ、なんかゴメンナサイ」
アープ 「いや、いいんだ。大丈夫だ。あ、ちなみに、なんだが、OK牧場の決闘って知ってる?」
ルー・メイ 「知らない」
アープ 「トゥームストン」
ルー・メイ 「墓石」
アープ 「うん、町の名前な。ドク・ホリディ」
ルー・メイ 「医者の休日」
アープ 「うん、人の名前な。クラントン兄弟」
ルー・メイ 「と賢者の石」
アープ 「違うの分かってて言ってるよな」
ルー・メイ 「じゃあ、とアズカバンの囚人?クラントン兄弟と不死鳥の騎士団!」
アープ 「・・・もういい」
ルー・メイ 「ごめんなさい、本当に知らない」
アープ 「そうか・・・いや、気にしないでくれ。俺もまだまだってことだ。そうか、俺を知らない子がいるのか・・・」
ルー・メイ 「めっちゃ引きずってる」
アープ 「あ、君、アメリカに来て何年?」
ルー・メイ 「もうすぐ5年」
アープ 「Yes!5年な。じゃあ知らないかもな。5年じゃあそりゃ仕方ないかもなぁ」
ルー・メイ 「世代の違いってことでとりあえず落ち着かせるのね」
アープ 「ところで君・・・えと・・・」
ルー・メイ 「ルー・メイ」
アープ 「ルー・メイ。本当に死のうとしてたわけじゃないんだな」
ルー・メイ 「本当よ」
アープ 「なら良かった。例え君が知らなくても、俺はサンフランシスコの名誉保安官だ。この町で困っている奴がいるとしたら見過ごすわけにはいかない」
ルー・メイ 「大丈夫、本当に死ぬ気なんて無いから。ていうかむしろ、それすらも面倒だわ」
アープ 「ん?」
ルー・メイ 「どうせ生きてたって死んでるようなものだもの」
アープ 「ん?ん?・・・ゴースト?」
ルー・メイ 「どうやって聞いたらそういう解釈になる?」
アープ 「失礼・・・ルー・メイ、どうやら俺の目は曇ってはいなかったようだ。やはり君を放っておくわけにはいかない」
ルー・メイ 「いや、放っておいてもらってもいいけど・・・」
アープ 「今日はもう遅い。もう帰りなさい。そしてまた明日、ここで会おう」
ルー・メイ 「え、明日?」
アープ 「ああ、そうだ。明日、日が暮れたらこの海岸で。ハイド-ー!」

と、アープ馬に跨って颯爽と去る。
取り残されるルー・メイ。

ルー・メイ 「何あれ・・・」

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