おうちで読もう百人一首 格闘記
ステイホーム2020
2020年3月のある日、暗い声で電話がかかってきた。俳優の金子あいからである。仕事は全部キャンセル、自主公演も中止、どうすりゃいいのさ。
ボヤ程度でおさまるだろうと高をくくっていたのに、あれよあれよという間にコロナが日常を変えていく。
人との接触を避け家に閉じこもるべし。ステイホーム!
わたしが非常勤講師をしている短大も、オンライン授業に切り替わった。オンライン授業を飛び飛びに2年経験した今ならやり方もすこしはわかるけど、いきなり。しかし「いやーん、わたしできない~」なんてかわいく言ってもだれかがなんとかしてくれるはずはなく、しかたない、PowerPointでビデオを作って、「みなさんこんにちは、のざわです」と声を吹き込む。適当にしゃべってうまくまとめるという技は身についていないので、台本も書いた。自分の声を何度も聞き返すのは、なんか恥ずかしい。だから、俳優ってすごいよね。
百人一首のビデオをつくろう
私だって映像は避けてきたわよ、と金子は言う。
ねえねえ時間があるならさぁ、百人一首のビデオをつくろうよ。短大の授業でも使いたいのよと、前のめりに誘いかける、わたし。
まず、原案となる台本を書く。最初から完成台本ができるはずもなく、ああでもない、こうでもないと、金子と台本を練り直すやりとりが電話でつづけられる。これがとても苦楽しい時間だった。
何本か台本を作っていくうちに、はじめに200%ぐらいネタを仕込んでおいて、それを剪定すると、ちょうどいいことに気づく(でも第7作紀貫之は大作なので、さらに材料を追加して合計400%ぐらいは仕込んだ)。
第1作藤原定家の台本が完成すると、金子は部屋を片付け、お手製グリーンスクリーンをはりめぐらして、iPhoneでひとりで撮影を始めた。金子はデザイナーでもあるので、光琳かるたの画像をすごく時間をかけて加工して使い(その道の人が見ると一目でそのすごさがわかるそうです)、編集もする。
なお、撮影する過程で編み出した高度な(?)ひとり撮影テクニックなど、裏話は、後日、金子にインタビューする予定です。撮影の現場写真無いの?と聞いたら、一人で撮影してるから写真とれるわけないやんと言われました。ごもっとも。
背景に凝り始める
第3作清原元輔のエピソードに賀茂の祭が出てくる。背景に賀茂の祭の画像を使いたくて、京都産業大学図書館に申請して、「賀茂祭草子」の画像の使用許可をいただいた。*京都産業大学図書館 貴重書電子展示室
絵巻の画像をつかうといい感じになることに気づくと、第4作以降の作品でも背景に使えそうな画像を探した。そして東京国立博物館のHPで「ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システム」を発見する。何度も説明を読んで、このような画像が自由に使えることを確かめた。すばらしい!
オリジナルテーマ曲
お箏のオリジナルテーマ曲は、島根県出雲市の箏曲家、大月邦弘さんが作ってくださった。2018年4月に島根で初演した『気ままに源氏物語』(金子のひとり芝居で、脚本・構成がのざわ)で、狩衣姿で音楽を担当してくださったのが最初の出合い。わたしたちは大月の中将様とお呼びしております。
衣装
衣装は、金子の舞台の衣装とヘアメイクを担当している、細田ひな子さんに協力していただいた。細田さんは袿(十二単)も狩衣も長絹も作れるので衣装をたくさんお持ちだ。第5作小野小町の衣装に注目。ステイホームなので、衣装は宅配便で配送。
英語と日本語の字幕もつけた
外国の人にも楽しんでほしいなあと思って、英語の字幕を浜本妙子さんにお願いした。第4作紫式部では月子(仮名)という幼なじみが登場するが、英語版では「ルナ」はどうですか?と提案していただく。よきかな、よきかな。なお、百人一首の和歌については、こちらからお願いして、ポエムではなく、散文的なわかりやすい訳にした。
聴覚障害のある方にも楽しんでいただきたくて、日本語の字幕もつけた。
「おうちで読もう百人一首」作品一覧(YouTube公開順 )
第1作 97番 藤原定家 490年の時空を超えたラブレター
第2作 64番 藤原定頼 シティボーイの誤算!
第3作 42番 清原元輔 波は末の松山を越え、冠は落ちるもの?
第4作 57番 紫式部 幼なじみとめぐりあう物語
第5作 9番 小野小町 秘密のベールはそのままに
第6作 61番 伊勢大輔 八重桜は九重に咲く
第7作 35番 紀貫之 古今集撰者はひらがながお好き
ぜひご覧ください。
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