掌編「みつどもえ」
終わると、田中はすぐに寝てしまう。
横ですやすや息する顔は、嫉妬深く独占欲の強いふだんからは想像ができない表情だ。
「親は相当悩んだらしいよ。」
「なにを?」
「なんでも取り合ってケンカになるから。きょうだいに同じものを買い与えるか。違うものを与えるか。」
「それで?」
「結局、ふたりにそれぞれ違うものを買うようにした。分け合って、仲良く使えって。」
反対には、似たような目と鼻と口。眉。ふだんは物静かなのに、終わると田中は饒舌になる。
「それで、わたしをシェアしたんだ。」
そう。知ってる?子どもが自分と他者をしっかり分けられるようになるのは、けっこう遅いんだって。思春期の少し手前。だから、小さい頃に引かれた線は、消えない染みみたいに残るんだよ。
取り合う。分け合う。仲良く使う。
自分の領域の、中と外。
何度も見たはずなのに、ベージュの天井の壁紙はいつも違う模様に思える。
「ふーん。」
「きみが、ふたりいたらいいのに。」
「贅沢。」
「だね。」
ふふっと笑う顔。寝ている顔。
何度見ても、区別ができない。
わかってない。
何言ってんだこいつ?
私は、半分では満足しない。
待てうかつに近づくなエッセイにされるぞ あ、ああ……あー!ありがとうございます!!