業に包まれて、かきフライ。

かきフライが好きだ。
かきフライ定食。かきフライはじめました。
旬ののぼりに、壁のポスター。手書きのおすすめメニューに、その時期が来たら『待ってました!』と往年のスターみたいに毎年載ってくるのも、いいね。ニクいよ。

しかし、怒られるのを覚悟で、あえて言おう!

かきフライには、ハズレが多いと!!

かきフライ食べたいと思って、かきフライを食べて、『満足じゃー!!』となるの、すごく勝算が低いと思いません?ぼくだけ?
その打率たるや、長嶋茂雄がバットなしでヒット打つくらいに、イチローが三打席連続ホームランするくらいに、圧倒的に低い。
それくらい、人生で美味しいかきフライに出会うことは、難しい。

いや、そうじゃないのかもしれない。
あんなに繊細な牡蠣をどこでも食べれる飽食の時代。その企業努力。料理人の粋。
そんなに、悪いかきフライが世の中に蔓延しているはずがない。

そう、逆に考えるんだ。
ハズレが多いんじゃない。
当たりが少ないんだ、と。

休みの日に、テレビを見ていて。
帰り道、電車を待っていて。
朝、駅のホームの階段を上がっていて。

ふと、「かきフライ食べたいな」と思ったら最後、僕の頭のなかはこうだ。

かきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフライかきフ…

食欲中枢の大本命。純度100パーセントの欲求で、頭のなかがかきフライ一色になったその時、ぼくは思う。

あー!かきフライーたべーてぇー!!

それ故に、かきフライには、常に100点が期待される。80点でも、90点でもダメ。100点じゃなくては、0点と同じだ。減点イズデッド。井筒監督も裸足で逃げ出す辛口採点。
そこに、一切妥協は、存在しない。

かきフライには、常に完璧が求められる。
ああ、なんて業の深い食べものなんだ…。


いままでの人生で数少ないかきフライホームランのなかで、思い出深いのが浅草の神谷バーで食べたかきフライだ。

ハムカツと電気ブランとビールを目当てに行ったんだけど、吸い寄せられるように、メニューのなかのかきフライが目がとまった。
そう、そのとき、ぼくの食欲と運命が合致した。完璧が、そこにはあった。

美味しかったなぁ、あの日の神谷バーのかきフライ。

星の数ほどあるかきフライのなかで、100点のかきフライに出会える確率は、とても低いのかもしれない。
でも、ぼくはかきフライが好きだ。
この世界のどこかに、必ず、100点のかきフライは、ある。また、出会える。

そう思いながら、今日もぼくはバッターボックスに立つ。

ああ、かきフライ。食べたい…。

待てうかつに近づくなエッセイにされるぞ あ、ああ……あー!ありがとうございます!!