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夫の扶養から抜け出したい

「夫の扶養から抜け出したい」
ふと、目の前の彼女がそうつぶやいた。


ストレートで大学を卒業した彼女は、フルタイムで仕事をしていた。25で結婚して夫の勤務先へ引っ越すことになり、仕事は辞めざるを得なくなって夫の扶養に入った。引越し先は縁もゆかりも無い土地だったけれど、事務のパートを始めて現地でも知人ができたようだった。ただ、夫は仕事が忙しくて全然家に帰ってこないし、知らない土地で一人は大変だとよく愚痴っていた。


戻ってきたよ、という連絡が来たとき、彼女は27になっていた。今何してるの?と聞くと、ほぼ専業主婦してる、と。パートの仕事はもちろん辞めていて、新しい土地でパートを探すのも疲れたんだよね、と言っていた。そりゃそうだ、夫は転勤しても同じ会社でキャリアが途切れないけれど、その妻が同じように正規で働ける環境、というのはなかなか想像しがたい。短期間で転勤を繰り返す夫についていく、というのは本当に大変そうだった。



今年、彼女は28になる。

30歳まであと2年。20代は残り2年。

たった2年、されど2年である。

女性の20代の2年は、
世の中が想像する以上に当人にとっては大きい。



彼女は、PCスキルもあればコミュ力も高い。人並みに小綺麗にしているし、激務の夫を支える家庭的な部分も兼ね備えている。それでも、仮に彼女が履歴書を出したところで、主婦としての数年の空白期間は「雇用される側」の条件として間違いなくハンディキャップになるのだろう。キャリアに途切れなく働き続けてきた女性たちと並んでしまえば当然だともいえる。


「生活するだけならね、いいんだけど。」

鬱憤を溜め込んだ顔で彼女は続けた。

「転勤するたびにパートの仕事を変えて、自分にはなんにも残っていかない気がする。特にこれからの時代、子どもができた時はパートの仕事だけでは難しくなるでしょ。こうしてる間にもどんどん20代は終わるんだよ。夫だって変わらずに働ける保証なんて無いし、このままでいいのかなって。」

社宅に住んでいた隣近所の奥様は、ほぼパートか専業主婦だったという。なんて時代錯誤な、と思ったけれど、男尊女卑的な思考がまだ根強く残っている地域があることを、彼女の話から知った。


「1年2年じゃダメなんだよね。持続可能な形で、自分の足で立ちたくて。夫の扶養に入ってたら、知らない間になんか取り残された気分になってて。」

今あるスキルでフリーランス的なことを始めてみようかな、と話す彼女の目には、緩やかな決意と、残り2年に対する焦りが入り混じっていた。


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