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あの日私たちが埋めたのは、ただの灰なんかじゃなくて。

どちらが言い出したのか、今となってはもう覚えていない。


「やっとお別れだね!」

* * *

小学校2年生の時点で数字関係につまづいた私にとって、その後の理系の授業は苦しいものだった。
うちの高校はクラスごとで平均点を出し、その半分以下の点数が赤点となる決まりだったため、理系のテスト返却の際、
”平均点÷2”
を計算するのは、めっちゃ速くなった。それだけが高校生活で身につけた、唯一の数学スキルだと言い切れる。


数学って悪いヤツじゃないけど、仲良しの人とはスンスーン!と数段飛ばしに話を進めて、そうではない人を置き去りにする傾向にあるよね。
幼なじみの彼女も、しばしば置いて行かれて嫌な思いをしていたようだ。

* * *

卒業式の日。


ピンク、白、黄色、粉っぽい線で黒板に描かれた、後輩たちからのはなむけの言葉。
体育館に響く、いつになく丁寧に歌われる校歌。
寄せ書きを書きあい、いつもより近い距離まで肩をよせて撮る写真。


そんな時間を過ごしたあと、私と幼なじみの彼女は海にいた。

* * *

私たちは海のある町で育った。
高校の教室からは青い空と、それよりも更に青い海が見える。
ショッピングモールもカフェもない田舎だから、友達と話すときに海へ行くのはごく自然なことだった。


大笑いした日も、悩みを相談した日も、恋を打ち明けた日も、全部知っている。海は、日常にあって当たり前のものだった。


進学したらはじめて、海のない街で暮らすことになる。
高校を卒業するということは、同時に海からも離れるということ。
式典のあと、いつもよりしんみりしているのを払拭しようと


「やっとお別れだね!数学と!」


10代らしく、私たちははしゃいだ。


「せっかくだから、海で数学のお葬式をしよう!」


そう決めたのだった。

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* * * 

一度帰宅し、制服から着替える。
ボックスプリーツのプレスが少しゆるんでいる。
感傷を認めたら負けな気がして、意識しないよう、さっと脱いだ。
数学の教科書を持ち、彼女と合流して海へ。

まず、砂浜に穴を掘る。
もくもくと掘っている自分たちの姿に、笑いがこみあげる。

次に、教科書を燃やす。
一度着いたら結構な勢いで燃えあがり、叱られないかビクビクしたのを思い出す。

灰になったら、穴をうめる。
どこからか出没したかまぼこ板的なものに
これまたどこからか出没したペンで
「すうがくのおはか」
と書き、墓標にした。


完全に悪ノリで褒められた行動ではないけど、数学のお葬式をしたことでなぜかとてもスッキリしたのだ。
きっと、埋めたのは教科書の灰だけではなかったのだろう。
”高校生活”という時間へ区切りをつけ手を振り、未来に手を伸ばしたのがこの瞬間だったのかもしれない。


そして、笑い転げる幼なじみを見て

”環境が変化したとしても、大切なものはきっと変わらず在りつづける”

と、確かに感じられたから。

* * *

卒業はそれぞれの形で、それぞれの時におとずれる。
どういう形になろうとも区切りは必ず来て、未来は変わらず先にある。
そして大切なものも、変わらず在る。

だから、安心して手を振ろう。
卒業、おめでとう!

お読みいただきありがとうございました!
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