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四辻御堂物語~水龍の巫女と妖狐の罠~(暗雲③)(無料試読多め)

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以下本文


 結局、長老はそれきり何も聞いてこなかった。スオウもそれに倣うように詮索してこず、私は久しぶりに楽しい食事の時間を過ごした。
 誰かが作った美味しいご飯。誰かと話しながらのご飯。笑いながら食べるご飯には、確かな味があった。
 お婆ちゃんちで食べた食事も確かに美味しかった。でも、どこか冷たいというか、喉に詰まる感じがした。
 長老やスオウと食べる食事は、心を温かくしてくれた。お盆の上いっぱいにあったご飯を、あっという間に平らげてしまった。

「おお! いい食べっぷりだ」
「お爺ちゃん、このご飯を作ったのは誰?」
「気になるか? 花さんとガン坊って夫婦でな。折角だ、会わせてやろう」

 長老が、おーいと部屋の外に向かって声をかけると、カエルのような姿のアヤカシがすぐに姿を現した。

「すまんが、料理番のガン坊夫婦を呼んでくれんか」

 カエルのアヤカシは、「へいへい。すぐ呼んで参りやす」と言ってサッと身を翻して行った。そして本当にすぐに戻ってきた。ご夫婦を引き連れて。
 花さんという奥さんのアヤカシは、名前の通り頭に花が咲いている。紫色の美しい花は、桔梗のように見える。そしてとても小さかった。私の腰くらいの背の高さで、紫色の着物の上に割烹着を着ている。切れ長の目の美人女将という佇まいだ。
 ガン坊と呼ばれる旦那さんのアヤカシは、逆に私やスオウよりも遥かに大きい。花さんの4倍はある。立っている花さんの横で正座しているが、それでも花さんが小さい。屈強な体つきで、動きやすそうな濃紺の作務衣がよく似合う、優しい目をした若旦那といったところか。

三芳みよしの旦那。何か料理に不手際でもありましたか?」

 ガン坊さんが心配そうに尋ねる。声は目と同じく、優しく響く声だ。

「いや、今日の飯も最高だよ。実はな、嬢ちゃんが今日の飯をいたく気に入ったそうでな。もう平げちまって。2人に興味があるそうだ」
「おや。やっと食べてくれたのかい? あたしゃもう気が気じゃなかったよ」

 花さんの声は、思わず「姐さん」と呼びたくなる、頼もしい声だ。というか、長老は三芳って呼ばれてるのか。

「あの、いつもすみませんでした。でも、ホントに美味しくて。こんなに美味しいご飯、食べたことないです」
「まぁまぁ。随分世辞の上手い娘っ子だよ」
「これお花。折角褒めてくれてるんだから、素直に受け取ってやりなさいよ。で、どの料理が気に入ったんだい?」
「えっと、どれも美味しかったんですけど、親子丼と味噌汁が凄く好きです。自分じゃこんな風に作れないから、感動しちゃって」
「ほう。お前さん料理をするのかい」

 花さんの目がキラリと光った。

「あ〜あ。俺ぁ知らないよ」

 スオウがぶっきらぼうに言う。

「そんなに気に入ったんなら、明日のお昼に台所においで。作り方を教えてやろう。いいよね、お前さん」
「おう勿論だ。美味い飯は作れるにこしたこたぁねぇからな」
「え、でも修行が」
「こうなるともう止められねぇのよ。その分、早起きしろよ」

 グビッとお酒を仰ぐスオウ。まさか、こっちに来て料理を教わることになるなんて思わなかった。
 長老が、「よろしく頼むよ」と言うと、2人は意気揚々と戻って行った。
 食事を終えて、お風呂に入った後も、クロ君は目覚めなかった。魂をギリギリまで削られてしまったから、回復するまでに時間がかかるらしい。
 それでも、生きているのが奇跡だと長老は言っていた。今晩はスオウがそばで介抱するそうだ。
 まだ、あの時の興奮が正直冷めない。私がクロ君の呪いを解いたばかりか、傷も治していたなんて。自分のこととは思えない。
 あれから、何度呼びかけてもアオバミが返事をしてくれないことも気になる。ユリノ様が今回は力を貸してくれると言っていたけど、そのことと何か関係があるのだろうか。
 ユリノ様は、クロ君が何かを持ち帰っていると言っていた。でもクロ君は手に何も持っていなかった。一体、何を持ち帰ったのだろう。
 悶々と考えてしまって眠れなかった。眠れないなら仕方ないと、本を読むことにした。知識が全く無いより、少しでも色々と知っておきたい。
 宮地家の家系図や家の成り立ちみたいなことが書かれている本によると、ユリノ様が巫女としてアヤカシと人間の架け橋となった時、何かしらの儀式が行われたらしい。どんな儀式なのかは詳しく書かれておらず、他の本でも調べてみたがわからなかった。
 しかしその儀式をしたことによって、宮路家は代々巫女の末裔として力を付け、大きくなり、架け橋としての役目を果たしていったんだそうだ。どんな儀式をして今の私に至るのだろうか。
 ふっと本棚に目をやると、『結界、及び解呪指南』と書かれた本を見つけた。これから役に立つかもしれない。
 読んでみたが何が書いてあるのかチンプンカンプンだった。何も知らない私が、こんな難しい本を読んでも理解できるはずがない。
 それでもパラパラとめくって目を通していると、「全ての呪いの解放術」と書かれたページが出てきた。この方法なら、狐族に囚われてしまっている水篝火みずかがりび様のお仲間を助けられるかもしれない。これだけでもなんとか頭に入れようと読んでみると、不思議なことにその部分だけページがごっそりと無くなっていた。

「え、なんで・・・・・・?」

 思わず声に出すと、扉が開いた。

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