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四辻御堂物語~水龍の巫女と妖狐の罠~(暗雲④)(無料試読あり)

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以下本文


 濡れた服を着替えて、髪を整えて台所へ急ぐ。
 最初、ここに居る間の普段着にと浴衣や着物を貸してもらったのだが、帯のつけ方がわからず四苦八苦しているのを見かねたろくろ首のアヤカシたちが、可愛い柄の作務衣を持ってきてくれた。あまり着なくなった浴衣や着物で作っているのだそうだ。格段に着やすくなったし動きやすい。柄も可愛い。
 途中すれ違うアヤカシたちに台所の場所を聞きながらたどり着くと、既にいい匂いの煙が立ち上っていた。スオウの家が広すぎるのが悪い。そういうことにしておく。

「すみません、遅くなりました」

 扉を開けると、花さんは火のそばで、ガン坊さんは食材をリズム良く刻み、学生食堂ですかと言わんばかりの量の食事を作っていた。

「おや、やっと来たね。今ちょっと手が離せないんだ。こっち来て手伝っておくれ」

 花さんの凜々しい声が響く。私は急いで花さんの横に行き、指示通りに食材を炒め始める。使ったことのない鉄製の鍋だ。家で使っているフライパンより、ずっと重く感じる。あっという間に汗だくだ。

「普段やってると言うだけあって、なかなか手際がいいじゃないか」
「でも、鉄の鍋なんて使ったことなくて」
「すぐに慣れるさ。慣れるとこいつ以外使えなくなるのよ。火が通ったら一旦皿に移して、卵を焼いておくれ。少し火が通ったら、そこに作っておいた中華だしがあるから周りに回し入れて、皿に移しておいたのも卵の中に入れてしっかり混ぜりゃ、子供らが嫌でも野菜を食べる中華炒めの完成だ」
「すごい。いつもこんな量を作ってるんですか?」
「普段は三芳みよしの旦那と、たまに帰って来るスオウさんと、自分で作れない奴らの分くらいさ。基本的にはみんな自分のことは自分でやるからね。ただ、今はここに避難してきているのも多い。せめて美味いご飯くらい食べないと気が滅入っちまうからね。好きで料理させてもらってんのさ」
「そっか・・・・・・私がもっとしっかりしないと・・・・・・」
「なぁに気負ってんのさ。あんたみたいな子供に、言うほどみんな期待してないよ」
「え!?」
「子供はね、親や周りの大人に甘えてなんぼ。失敗してなんぼ。あんたはもっと周りを頼んなさい。もっと聞きなさい。周りが見えない奴に、他人様を助けるなんてことできないよ」
「でも・・・・・・人を頼ったことなんて・・・・・・1人で全部やらないとって思ってたし」
「あんた・・・・・・」

 花さんは大鍋の中をかき回す手を止め、小さな体で私をぎゅっと抱きしめた。ふいのことに、鍋を動かす手が止まる。

「は、花さん?」
「あんたは偉いね。一体全体、なんでそんな風に思うようになっちまったのか、よく考えるんだ。あんたの周りに居た大人は、そんなに不甲斐無い奴ばっかりだったのかい?」
「それは・・・・・・」
「おい、焦げちまうぞ」
「わ!いけない!」

 慌てて鍋を振る。花さんに言われたことは、私の中でフライパンの焦げのように張り付いた。

「さぁて、ようやく一段落だね!」

 そこに並んだのは昨日同様、どれもこれも美味しそうな食事だった。中華尽くしで食欲をそそる匂いを嗅いで、お腹の虫が遠慮無く鳴いた。ガン坊さんが大声で笑う。

「なかなかいいできだ。腹が鳴っちまうのも無理ねぇな」
「あんたのお陰で助かったよ」
「いえ、色々教えてもらいながらになってしまって、時間取らせてしまって・・・・・・」
「言ったろ?もっと頼りなさいって。こうやって教えるのも、大人は楽しいものなんだよ。それに、あんたは見かけによらず不器用ってのがわかって面白かったしね」

 目の前にはぐちゃっと崩れた餃子が並んでいる。花さんが包んだのは市販の物よりも端がピシッと整っていてツンと立っているのに、私のはヘニャヘニャだ。破れなかっただけマシか。
 餃子なんて、作ったことが無い。手の込んだ料理は、1人では作ろうという気になれなかった。虚しくなる気がして。

「どうだい? 誰かと料理をするって楽しいだろ?」

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